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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
203/226

203話「探索技術をお金に換える方法」


 リッチの攻撃は呪いの攻撃の他、氷魔法や能力を下げる魔法などだ。身体も大きいので丸太のように大きな杖を振り下ろしてくるが、動きが酔っ払いのように緩慢なので当たることはない。それでもスシャやタバサにとっては脅威だ。


 ズシンッ。


 ロサリオがリッチの手首を錆びた剣で斬り落とし、俺がくるぶしを固い杖で破壊する。大きな敵は手先足先から破壊するというセオリーに則り、順番に戦闘不能にしていった。

 アラクネの紐で動きを止め、僧侶二人にリッチを昇天させてもらう。


 ギョオオオッ!


 絶叫にも似た声が出ていたが、リッチの身体が砂糖菓子のようにボロボロと崩壊していった。残ったのは魔石と、リッチが戦った冒険者たちの装備、金貨、宝石の付いたネックレスなどだ。


「全部呪具かな? バネッサ、解呪できそうなら頼む」

「はい。効果がなくなってもいいですか?」

「いいよ」


 バネッサが解呪した浄化呪具をスライムの口の中に入れて、辺境へと送りツボッカに鑑定してもらう。辺境の闘技会で、選手たちにレンタルするように指示を出しておいた。


「ここまで召喚術のミスがないと、本当にずっと『奈落の遺跡』に潜っていられるな」

「俺たちはな。でも、レベルがあがった人たちはちゃんとしたベッドで寝た方がいい。食料も足りない」

「そうだな」

「あれ? 向こう側に何かあるわ」


 帰ろうとしたら、アラクネさんが壁の向こうに何かを見つけた。

 リッチが杖を振ってできた壁の穴の向こうに光が見える。覗いてみると、鬱蒼とした緑の林だ。


「コタロー、掘れる?」

「つるはしを頼む」


 俺はスライムにつるはしを持ってきてもらい、壁の穴を広げていった。壁は厚いので、あまりきれいに掘れたとは言えないが、人が一人は入れるほどの穴を空ける。


「セシリア、先に戻っていてもいいよ。眠いんじゃないか?」

「眠いんですけど、何かあるなら見ておきたいですよ」

「幻術をかけておいた方がいいかもしれないわ」

「ああ、確かに」


 壁に使っていた岩を退かして、皆に見せてみた。


「これは……」

「地下に林があるなんて……」

「この光は……?」

「蝶もいる」

「天井にクリスタルの結晶みたいなものがあるね」

「方角的に、こっちが砦側かな?」

「一旦、町まで戻ってしっかり休んでから、戻ってこよう。地下でも林業ができるってことがわかっただけでもかなりの収穫だよ」


 俺たちは念入りに幻術をかけてから、外へと戻った。スシャは途中で寝落ちしてしまい、ロサリオが荷物ごとスシャを背負っていた。


「急激にレベルを上げ過ぎたのかもしれない。経験があると思うけど、しっかり休んで、ちゃんと食べるようにね。レベル上げは身体が重要だから」

「了解です」

「たぶん、食堂の料理だけだと足りなくなると思うから、銀貨5枚は持って行って。必要経費だから」

「わかりました!」

「本当にいいのか!?」

 タバサは銀貨を見て、睡魔が吹っ飛んでいた。


「タバサ、本当にちゃんとした契約を結んだ方がいいなら、書類を用意するからな。無駄な労働はしなくていい。自分の金は自分で貯める。さっき見つけた呪具のレンタルを始めているはずだから、金の成る木をたくさん作って、一気にじゃなくて徐々に資産を増やしていくといい」

「ん? どういうことだ?」

「自分の生活水準を上げたいなら、物の値段だけじゃなくて、物を売っている店を見た方がいい。どうしてこの店が選ばれるのかを考えて、自分の金を守っていった方がいいんだ」

「そう言われてもな……」

「金に欲があるというのは悪いことじゃない。金は人と人の間にある物だから、活かすも殺すも自分次第だろ。使い方を学ばないうちに大金を手に入れても、すぐになくなるぞ」

「そんなこと誰も教えてくれなかった……」

「俺は前の世界で、たくさん失敗したから。ものすごい数の嘘にも騙された。でも、ちゃんと金持ちになっている人たちは自分の資産を守り、価値が上がるものを買っていたよ。それは自己投資も含めてね」

「自分を買うのか?」

「そう。これから寝てレベルが上がったら、価値は上がるだろ? スキルを取れば、スキル分の報酬を貰った方がいい。時間ができたら、自分の価値を上げるために魔物や植物を覚えた方がいい。何が流行っていて、何をどこで売ると価値が上がるのかを考えた方がいい。そう思わないか?」

「私は私を売る商人になれってこと?」

「その通り。わかりやすいエルフになるんだろ? その戦略は大きく間違っていないと思う。エルフという特性を活かすのもいいし、そんな事よりも自分の能力を上げるのもいい。探索をして宝を見つける能力を上げられないか考えるのだっていいと思う」

「そんな……。風魔法と弓しかないと思っていたんだけど、可能性はもっとあるのか……。社長、迷うよ」

「大丈夫。アラクネ商会にいる間は、迷い続けていいから。いろいろ試してみてくれ」

「わかった……。スキル選びに時間がかかりそうだ」


 宿に戻り、僧侶と新人たちが寝たところで、アラクネさんとロサリオと一緒に、町へと繰り出す。


「何か買うの?」

「袋と持ち運びやすい壺が欲しいんだよね。あと樽と木箱は必要だな」

「ああ! 見つけた物を保存するのね?」

「そう。レベルが上がって強くなっても、そんなにお金を稼げるわけじゃないから。探索技術をちゃんとお金に換える方法を学ばないと、結局損するのは従業員たちだからさ」

「そうなんだよな。俺は強くなれば簡単に稼げるようになると思ってたんだけど、それはコロシアムとか闘技場の一部であって、もっと選択肢は多いんだよな」

「怪我したら、強さでは稼げなくなってしまうものね。じゃあ、タバサやスシャには商売を試していってほしいの?」

「いや、俺たちが地下で商売を試していくことになると思うんだよ。海森商会も客の一部になる可能性はあるんだけどね」

「コタローは地盤を固めながら挑戦を始めるよな」

「人間や意思ある魔物が何人もいて、取引が成立するなら、そこには市場が存在しうるわけだ。その市場が地上にも影響を及ぼすなら、商会として狙っていかないわけにはいかないだろ?」

「市場かぁ……。去年まで商売なんて研究の邪魔になると思っていたんだけどね」

「研究成果をどうやって市場に乗せるかを考えた方が、周囲には得だよ」

「確かに。やっぱりコタローは思考が異世界だわ」

「そうかな。あ、あった。中古でいいから、空箱を買っていこう」


 俺たちは、僧侶と新人たちが寝ている間に、倉庫の準備を進めた。


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