202話「遺跡の循環環境を探る」
俺たちは地下の情報を探索場所としてしか知らない。むしろ石材を含めて資源として何があるのか、素材はどんなものがあるのか、空間はどこまで広がっているのか、隠し部屋、落とし穴、隅々まで調べつくす。
「郷に入っては郷に従えって、この世界にはある言葉かい?」
「似たような言葉はあるわ」
「それだよ。たぶん、ここまで広い遺跡ならきっと過去も現在も冒険者が入っているだろ? でも、この遺跡を作った人間たちの意図を汲み取った者たちはまだいないんじゃないかな」
「少なくとも相当な時間がかかってるのは確かだ」
「何かを隠したかった? それとも悪魔と巨人への道を作らなければならなかった?」
アラクネさんは考えを口に出しながら、丸太罠を解除していた。
「あの、魔物って神には祈らないんですか?」
僧侶のセシリアが聞いていた。
「自然現象を神の力だと思っているからかな。スキルやステータスを信仰している者の方が多いと思う」
ロサリオがちゃんと説明していたが、聖書もないし、信仰の指南書のような物もないので僧侶たちは不思議そうな顔をしていた。
「一応、『魔王法典』というルールブックみたいなものはあるんだけどね。種族差別は辞めようみたいなね。同胞を大事にする文化は結構強いんじゃない?」
「そうね。種族別で住む場所も違うし社会を形成してしまっているから地元愛は強いんだと思う。私やクイネ先輩みたいに地元から出てしまうと、特に種族とかには縛られない考え方をしている魔物が多いと思うわ。逆に、そういうはぐれ魔物たちで集まることはあるわね」
「別に、地元から出ることへの勇気は要らないって感じですか?」
バネッサも気になるようだ。
「勇気というか好奇心の方が勝ったわね。中央の学校で学んだというのも大きいのかもしれないけれど。むしろタバサの方が複雑なんじゃない?」
「え? 私は親の顔も知らなければ、そもそも売られたりしているから、奴隷頭が親代わりで、冒険者ギルドの教官が戦い方から傷の治し方、薬草採取の仕方まで教えてくれた。種族に関してはいい思いはしていないね。あ、キノコだ!」
話しながら探索をしていたら、タバサがキノコを見つけた。夜光茸という暗い中で光るキノコらしい。落とし穴の底にあったので、たぶん冒険者が持ち込んだものだろう。
「こういう偶発的に生えてくるものがあるなら、案外やっていけるのかな」
「あ、そうか。循環できれば、いいんだよな。糞があれば植物だって育つから、水場があれば意外と畑もできるのかもな」
「日光がないわよ」
「魔石のランプって、大きい物を作ったら日光くらいの明るさにならない?」
「よほど大きな魔石じゃないと無理だと思うわ。あ、でも……」
「自分は聞いたことがありますよ。魔力を込めると明るく光る鉱物があると」
スシャが教えてくれた。その鉱物は病気を調べる際に使う薬の材料になるらしい。
「その鉱物の鉱床があれば、植物は育つのか……。地下の循環の中で育つと魔物が強くなったりするのかな?」
「環境に最適化していくんじゃないか?」
「もし、地下の階層毎にボス争いがずっと続いているとしたら?」
「かなりレベルが高くなっているだろうな……。なるほどね。その環境が現れるまで探索しよう」
ロサリオには伝わったが、アラクネさんや僧侶たちにはよくわからなかったらしい。
「魔物の国に火山地帯があって、そこに竜族が住んでいるんだけど、『闘竜門』ってダンジョンがあって実力を測るような場所だったんだよね。そこに普通に古龍が住んでいたから、食べ物の供給はされているんだろうと思ってたんだ。植物が育つなら、小動物も巣を作るだろうし、それを食べる魔物もいるだろうから……、『奈落の遺跡』でも初めに探すのは水場だね」
「つまり召喚されてくる魔物ではないということですか?」
「その通り。召喚されてくる魔物はそんなに強くないのかもな。海竜というかリヴァイアサン程度なら、今でも問題なく倒せると思うよ」
「そんなバカな……」
スシャは驚いていたが、ロサリオがミミック島での駆除作業を丁寧に教えて納得させていた。
「……だから、大丈夫だよ。結局、コタローがいると戦闘とか戦い方で悩むとかなくなるから。討伐じゃなくて作業になるんだよね。俺たちはそれまでの時間稼ぎをすればいい」
「ロサリオ、あんまり無茶なこと言うなよ」
「いや、実績があり過ぎる。俺は、コタローが全然レベルが低い時から見て来たからわかる。考え方がおかしい。スコップで沼のヌシを掘って倒す奴は魔物にもいない。きっと勇者だって魔王だってやらない」
「あれは偶々できたというだけだ。皆、とりあえず水場を探してくれ。近くに植物が生えているかもしれないから、植物を探してもいい」
「了解」
「デミリッチはどうするんです?」
スシャはまだ魔物の討伐方法がわからないらしい。
「僧侶たちを呼んでもいいし、油を投げて燃やしてもいいし、足止めさえできれば、俺たちでどうにかできるから、とりあえずアラクネの糸玉を投げつけておいて。基本的には、セシリアが幻術を使うから、それでおびき寄せて倒していくよ。レベルが上がるかもしれないから、小まめに休憩を入れて睡眠をとるようにね」
「は、はい……」
「じゃあ、よろしく」
「大丈夫だ。言われたことをやっていると、いつの間にか魔物は倒せているから」
ちょっと先輩のタバサが教えていた。
なるべくスシャとタバサのレベル上げのため、出来るだけデミリッチやドラウグルが出たら、糸玉を投げてもらってから討伐していた。そもそもセシリアの幻術にかかっているので、こちらを捕捉できていない。
俺たちは拾った杖や錆びた剣で頭を叩いていくだけ。
「やっぱり作業になったじゃないか」
「いやぁ、そんなことはない。リッチとはいい戦いになるんじゃないかな」
「この先にいる魔力の多い魔物じゃないかしら?」
「バネッサ、周辺の呪いの解除を頼む」
「了解です」
パンッ!
バネッサは手を叩いて、祝詞を唱え解呪。リッチが再び呪いの歌を歌い始めたので、セシリアに幻術をかけてもらい、呪いを散らす。
「回復薬を投げてもいいですか?」
スシャが回復薬を取り出した。
「もちろん、いいよ。部屋には近づかないで、通路から投げるようにね。タバサ、ここから矢で狙ってみて」
「そんなことできるか!?」
「途中で風魔法を使っていいからさ」
「だから、そんな器用な真似ができると思うか?」
「やってみるだけやってみて。失敗しても誰も怒らないからさ」
タバサは文句を言いながらもやっていた。やるかやらないか。おそらく、ここに大きな差ができる。