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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
201/226

201話「遺跡の広さと大陸の地下」


「地上にあって地下にないものはなんだ?」

「なぞなぞか?」

「何が違うかっていう疑問さ」

「太陽が出ないとか?」

 アラクネさんはいつだってノリがいい。


「そうだね。太陽の力で作られているものを売れば、地下では高く売れるだろ。つまり物価が違う。地下で遺跡から呪具ばかり見つかれば、自然と地下の呪具価格は下がる。それを地上まで持ってきて浄化すれば、価格は上がる。逆に地上の野菜を地下に持って行けば、それなりの価格になるだろ?」

「ああ、採れないからね。そういうことか」

「あれだけ大きな畑を作って、砦とは言え相当な人数を養っていけるだけのものが見つかってるってことだろ? しかも隠れてやっているから税金対策もしているってことだ。使役スキルだけじゃなく従属スキルの教育もかなり高い水準でやっている。商売の規模を考えると現状で我々アラクネ商会が勝てる見込みはない」

「はっきり言うのね」

「何が弱みで何が強みなのかを知っておくことが重要だよ」

「確かに。地上の市場は調べられても地下の市場は調べられないと、結局海森商会の本丸には何の影響もないってことだろ? リヴァイアサンレースを一時的に止められても、すぐに再開発してしまうもんな」

 ロサリオはちゃんと海森商会全体を捉えようとしている。

「だとしたら、まずは地下の調査からした方がいいんじゃない。エルフの領地から辺境の『奈落の遺跡』まで繋がっているわけでしょ? ということは、隠し砦の遺跡と俺たちの支店がある遺跡が繋がっている可能性は大いにあるよな」

「なるほど、それはそうね」

「しかも、スシャという薬師がこちらにいるのは意外と有利なんじゃないか?」

「我々の強みはその成長率にある。しかも相手は遠隔操作なのに、こちらは自分たちで探索してスキルを引き上げている。実際のところ『奈落の遺跡』ってどれくらい大きいんだ? 魔物の国にも入口はあったよな?」

「魔王が探索したからね。少なくとも範囲だけで言うなら、大陸全土に広がっているのかもな」

「それだけ大きい遺跡自体を作った者たち、もしくは子孫が生き残っていないのは変じゃないか?」

「……いや、そうね」

「悪魔と巨人が作ったのでは?」

 セシリアも俺たちの話に加わってきた。


「巨人も悪魔も奈落の底に居るだけで、別に地上に来る目的はないんじゃないか。むしろ、人間から搾取して、いかにお互いを倒すかを考えているんじゃないかなと俺は思ってる。ただ、そんなことに人間も悪魔も付き合う必要はない」

「コタローは大陸全土の謎に迫ろうとしているの?」

「いや、商会として利益を考えると、そこに至るんだよ。この大陸は随分面白く出来ているよ。誰がデザインしたかは知らないけどさ」


 俺は改めて、異世界の生活が楽しくなってきた。

 街道を通り、町で食料品を買い込み、支店兼『奈落の遺跡』へ向かう。


「空き瓶とか鍋とか必要なら、必要経費で会計するからどんどん買っていいからね。あと、タバサも必要な物資があればちゃんと装備を整えて」

「コタローたちは要らないのか?」

「俺たちは現地調達かな。解呪の専門家がいるからさ」


 俺はバネッサを指した。


「なるほど、私はリュックにしておく」

 俺の話を聞いて、タバサは装備をナイフとリュックにしたようだ。

「あ、そう言えば、不死者の階層にキノコが生えていましたよね? あれって鑑定できなかったんでしたっけ?」

「ああ、一応調べてみるってギルドが言ってたけど、どうなったんだろうな。スシャは鑑定できる?」

「ある程度、素材が揃っているなら出来ますよ。小麦粉とかスライムのゼリーとかがあれば、詳しくわかりますけど」

「どちらもすぐに用意するよ」


 遺跡に辿り着くと、すでに倉庫建設工事は着工していて、土台を作っている最中だった。しかも遺跡の石材を勝手に拝借しているらしい。エルフというのは思ってもみないところで雑だ。


「お疲れ様です」


 俺は屋台で買った串焼きとワインを石職人たちに渡し、そのまま遺跡へと向かう。


「いいの? 遺跡の石材って文化財の一部じゃない?」

「たぶん、石自体が近くにないから、町の職人たちは遺跡から取るしかないんだよ。土台だけ石造りにして上物は木材だって言っていたから。すでに、魔物に荒らされていたし、海森商会が倉庫を作ってもこの遺跡から取っただろ? 今度からなるべく中から運んでこよう」

「石運びとはね。いや、久しぶりに荷運びスキルの出番だな」

 ロサリオも紐とリュックだけ用意して、あとは現地調達するつもりらしい。


「本当にいいの? 武器も持たずに『奈落の遺跡』に潜るなんて聞いたことがないわ」

 アラクネさんはちゃんと武器だけでなく食料も回復薬も準備している。


「たぶん、俺もロサリオも薄っすら気づいているんだけど、別に俺たちは『奈落の遺跡』で強さで劣っていると感じたことはないんだ。だから、環境の適応がどれだけできるのかを考えているんだよ」

「まだ『奈落の遺跡』は序盤だろう? 序盤で適応できれば、次の階層も問題の糸口が見えてくるんじゃないかと思ってね。俺たちなりの攻略だよ」


 僧侶たちも準備完了したところで、再び入り口の隠し扉を開ける。


 ガコンッ。


「じゃ、出てくる魔物が変わっているかもしれないけれど、慎重に進んでいこう」

「「「了解」」」

「スシャは後ろから見て、どういう戦いをするのか覚えていけばいいから。適時、ポーションを使っていってくれ」

「了解です」


 一度入っているので、下へ続く階段は変わっていない。大きなネズミの魔物が出てきたくらいで、序盤の階層は前に来た時と変わらなかった。罠が復活しているということもない。


 五階層以降は僧侶たちの出番で、死霊の魔物を対処してもらった。死霊の出現率は変わらない。


「ここまでどう?」

 アラクネさんがスシャに聞いていた。


「何が何だかわからないうちに魔物がいなくなっていくように見えます。商人じゃないんですか?」

「商人なんだけど強いのよ。特にあの二人はレベル上げツアーの教官だからね」

「レベル上げツアーですか? そんな簡単にレベルって上がるものなんですか?」

「簡単ではないよ。でも、やり方はあるんだ」

 ロサリオが答えていた。


 八階層まで進んだところで、魔法を放ってくるデミリッチが現れた。杖持ちなので、杖を奪って身体を粉砕していく。


「割と固い杖だな。これなら使えそうだ」

「武器持ちの魔物がいると武器調達は楽だな」

「うん。スシャ、濃度の高い回復薬を用意しておいてくれる? たぶん、この階層にリッチがいるはずだから」

「ええ!?」

「驚くよな? でも、見て覚えた方がいい。私はそうしている」

 タバサはちょっと先輩だが、遺跡でのレベル上げは経験しているので、心得ているのだろう。

 

「じゃあ、この階層の物は全部頂こう」


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