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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
194/226

194話「エルフの試用期間」

 エルフ二人の面接はそのまま遺跡の中で行った。


「なるほど、二人ともそれほどレベルには自信がないと……」

 おそらくレベル10くらい。風魔法を使うのがタバサという女エルフで、ダークエルフとエルフとの混血だとか。難しい生い立ちらしいが聞かなかった。


「召喚術は自分もスキルを取ったばかりで理解していないことが多いんですが、どれくらいできます?」

「狼や骸骨なら数体は召喚できるが……、それ以上の魔物となると、術式が難しく今の自分には書けないと思う」

 男エルフの方は、ホーガンという名で活動していて冒険者としても登録したばかりだとか。ダンジョンを渡り歩き、召喚術の魔法陣を解読しながら細々と暮らしているという。

「なるほど」

 術式ということは召喚罠を専門にしているということだろうか。


「ちなみに目標とか、いずれどうなりたいとかありますか? 働きながらだと達成できないかもしれないので」

「目標……、自分は風魔法の復権をしたくて。他種族と関わると、弓が得意とか風魔法を扱うなどというエルフに対する思い込みで雇われることがあるんだ。今のエルフはスキル習得の研究が進んで、ほとんど弓も風魔法も使わない。ただ、やはり他の領地に行くと求められるので、少しは使えた方がいいんじゃないかと思って……」

 タバサは他の領地を渡り歩いたようだ。混血だから偏見に晒されていたのかもしれない。


「俺は、西の出身だからリヴァイアサンレースには関わっていきたいと思ってる。できれば倉庫で召喚術や使役スキルの腕を上げていければと考えているが……」

「わかりました」

 もしかしたらホーガンは長期雇用できないかもしれない。使役スキルだけでなく従属魔法を覚えてしまえば、リヴァイアサンレースも変わってくるかもしれない。

 エルフが、スキルをどれくらい研究しているのかにもよるか。


「一週間ほど試用期間を設けてもいいですか。もしかしたら、その期間のうちにレベルが上がって目標も達成できるかもしれないので」

「そんな短期間でレベルが上がるものなのか?」

「上がりますよ」

 僧侶のセシリアが答えた。

「得意不得意はあると思いますが、現に私たちが上がっています」

 バネッサも続いて証言していた。


「俺はやるよ。報酬はあるのか?」

「銀貨五枚、それから宿代と食事代も出します」

「十分だ」

「無論、自分もやる」

「じゃあ、とりあえず冒険者ギルドの依頼をやっていきますか」

「え? 倉庫じゃなくて……」

「実力を見るためです」


 それぞれ自分なりの装備を整えてもらい、巨大アナコンダと山賊調査をしてもらうことにした。そもそも俺とロサリオは、アナコンダも山賊も見つけていたので、依頼が出たらすぐに請けるつもりだった。

 ちょうどいいので試験に使わせてもらう。


 ホーガンは狼を召喚し、巨大アナコンダに丸のみにされた時点で逃走。タバサは魔力切れを起こす寸前まで粘り強く、遠距離から風魔法と弓矢で攻撃を続けていた。

 逃走したホーガンには経験値が入るのかどうかも試す。


「セシリアとバネッサで倒せそう?」

「いや、幻術は当たりそうなんですけど、攻撃が通るかどうか」

「やってみようか」


 セシリアの幻術で、巨大アナコンダの目をくらまし。その間にバネッサと共にメイスや斧で殴りかかっていたが、蛇皮は厚くまるで攻撃が通っていなかった。ただ、二人とも俺たちの動きを見て、攻撃の躱し方を学んでいた。


「ヒットアンドアウェイでいいからね。一度攻撃を当てたら距離を取って、相手が疲れるまで待ってもいいから」

「了解です」

「タバサ、どこが効くのかは見てた?」

「ああ、そうか。見てなかった……」

「次から、こういう魔物が出た時は、風魔法でいろいろと試してみて」

「わかった」


 ザクッ!


 アラクネさんが上顎と下顎を突き破り、討伐していた。


「攻撃は精度とタイミングだから、逃げずに観察しておく方が次につながります」

「なるほど……」


 アナコンダの死体を切り分けて、近くの川にぶつ切りにした蛇肉を撒くと、肉食の魚が群がっていた。食物連鎖がちゃんと機能している森で、よかった。

 魔石と蛇皮を持って、冒険者ギルドに戻る。普通にホーガンが待っていた。


「ホーガンは、レベル上がった?」

「いや、逃走した者には入らないはずだ。討伐部位を持っているということは、依頼達成したのか?」

「うちの会社では、これくらいの魔物は討伐できて当たり前です。今度から逃走しない方がいいですよ」

 アラクネさんがしっかり教えていた。

 昼食を取ってから、仮眠。タバサのレベルが上がっていた。やはり少しでも戦闘には参加した方がいい。


「好きなスキルを取っていいですからね。弓術でも風魔法のスキルでも」

「発生したスキルでも構わないだろうか?」

「もちろん」

「ちなみに、五感系のスキルはレベルが上がりやすいよ」

 ロサリオが小声で教えていた。

「わかった。ありがと」


 夕方ごろに山賊のアジトへと向かう。


「今度は俺がメインで戦わせてもらう」

 ホーガンは失態を取り返すように、骸骨を召喚して、アジトへ向かわせた。

 視覚系のスキルを取っていたタバサは、じっとその様子を見ていた。

 武器も防具もない骸骨たちを見て、山賊たちは驚きもせず斧を振り下ろして撃退している。


「どうして驚かないんだ!? お前たちが殺した恨みを持つ者かもしれないんだぞ」

 ホーガンは、叫びながら、次々と骸骨を召喚していた。

 タバサは呪文を唱え始めていた。いつでも風魔法を放てるようにしているのだろう。

「お前か!? 殺しに罪悪感を持つ者が山賊家業なんかやらないだろ? 馬鹿か?」

 山賊たちは平然と骸骨の頭蓋骨を叩き割っていた。当然の言い分だ。

「いけない!」

 ホーガンに向けて山賊から矢が放たれ、タバサが風の障壁を出して跳ね返していた。


「お、仲間がいるな」

「なんだこれは……! 糸!?」


 アラクネさんが、アジトの洞窟から出てきた山賊を一人、木の上につるし上げていた。


「うわぁあっ!」

 仲間の叫び声によそ見をしていた山賊たちに向けて、僧侶たちが糸玉を投げつけていた。


「敵が現れたら、視線を外すなよ。まぁ、結果は変わらないか」


 ロサリオが楽器を弾き、山賊たちを混乱させ、セシリアが幻惑魔法で同士討ちをさせていた。


「あ、殺さない方がいいですよね?」

「まぁ、バネッサがいるから」

「ああ、そうですね」

 

 幻と戦った山賊たちは息も絶え絶えにアジトから出てきた。あとは捕縛するだけでいい。


「こんな、あっさり勝負が決まるのか。いや、勝負にすらなっていなかった……」

 タバサはそう言ったが、ホーガンは苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。今日はいいとこなしだ。


 山賊たちを町の衛兵に引き渡し、依頼は達成。報酬で夕飯を食べて、エルフの新人二人とは宿で別れた。


「ゆっくり休んでくれ。明日は日の出頃、遺跡に集合で」

 それだけ約束して、俺たちは遺跡周辺に戻った。


「どう思う?」

「向上心はタバサの方がある。実力は、今のところホーガンの方があるのかもしれないけど、本人がどうして成長しないのかがわかっていない感じだったな」

「いや、実力もタバサの方があるんじゃないですか」

「倉庫業としてはどうなのかしら?」

「面接の時点で、ホーガンを長期雇用するのは難しいとは思った」

「エルフはプライドが高いですからね。タバサの方が、偏見を受けてきた分、伸びしろはあるのかもしれませんよ」

「自分の実力を見せれば、相手が倒れると思っているところが結構驚きでした」

 試用期間を設けてよかったかもしれない。


 翌朝、ホーガンは遺跡に来なかった。宿の部屋も、もぬけの殻。銀貨五枚を持って、どこかへ行ったらしい。


「タバサはやる?」

「ああ、もちろん。どこに逃げてもレベルとスキルは変わらないから」

 一人辞めて、一人雇用した。

 改めて、人を雇うのは難しい。


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