193話「上手くいかないリクルートと、上手くいきすぎるレベル上げ」
エルフの大森林で、『奈落の遺跡』を見つけてから、一週間ほど過ぎた。
僧侶二人はひたすらレベルを上げる日々を送り、アラクネ商会の三人は探索を続けている。
「俺って、もう完全に社員なんだな?」
ロサリオが、何を今さらなことを言い始めた。
「そうだよ。主力だよ」
「ロサリオがいなかったら、もっと私みたいな魔物が受け入れられてなかったと思うわ」
「そうかな?」
ロサリオは酒場に行って、笛や弦楽器を弾いてエルフたちを酔わせていた。ロサリオがサテュロスであることは知っているのに、なぜか他の店からも音楽を聴きにやってきてしまう。エルフは文化に弱い。
アラクネの布や糸も、「珍しい」とちゃんと適正価格で買い取ってくれるし、行商としては大成功だ。ただ、今のところ募集を見て遺跡までやってくるエルフはいない。
「倉庫番って魅力がないのかな?」
エルフの臨時職員・バネッサに聞いてみた。
「そんなことはないですよ。ただ、様子を見ているんだと思うんです」
「どうして? 来ればいいじゃない?」
「私たちは日に日にレベルが上がっているじゃないですか。倉庫番って聞くと普通は暇な仕事だと思うんですけど、どう見ても私たちは激務に見えてしまうんですよ」
「それは確かにそうだね……。エルフは計画的で頭がいいね。遠くから様子を見ているエルフたちは何をしているのかと思っていたけれど、そういうことか」
「あ、やっぱり斥候がいますか?」
「別に戦うわけじゃないからスパイでもないだろうけどね。僧侶二人はレベル上げの最中ですって書いておこうかな。『奈落の遺跡』なんて書いたら、大変なことになりそうだしなぁ」
「いないならいないで仕方ないよ。周辺の建築だけ頼んでおいて、自分たちで探してもいいんじゃないか?」
「そりゃそうだな。どっちにしろ召喚術は覚えてもらわないといけないし、流通の要になるわけだから、暇になることはないよ。やっぱり西に行くしかないのかな」
スキルポイントのためにレベル上げは必要で、どうやっても『奈落の遺跡』については教えることになる。そうすると、口の堅いエルフでアラクネ商会として信用のできる人物を雇わないといけない。単純に、お金の関係だけだと難しいのかもしれない。
召喚術はセシリアとバネッサに、「いつでも教えるよ」と言ってある。二人ともスキルに関しては、まだまだ決めかねているらしい。
「スキルは奪われないから一生モノよ。ゆっくり考えていいからね」
「アラクネさんの言う通りだ。アラクネ商会が味方になれるようなエルフの方がいいのかもね。バネッサの故郷はどう?」
「やめた方がいいですよ。田舎のエルフは猜疑心が強いですから」
「じゃあ、都会のエルフがいいのかな?」
「都会のエルフは能力が変なんですよ。いろんなことをやり過ぎて、スキルが迷走しているというか……。まぁ、でも、私の知っていることは噂程度でしかないですけどね」
「いや、そういうことはあり得るね」
前世の都会にはフリーターばかりがいたことを考えると、あながちスキルの迷走はあり得る話だ。
「でも、それって裏を返せば、自分の成長したい理想像と仕事の相関関係が薄くて、人生での目標を見失い始めてるんじゃない?」
「あ、それはそうですよ。というか、私は完全にそれです」
「私も! レベルが上がって取得したいスキルも、ここ数日で覚えたのですが……、この先どうすればいいですか?」
セシリアとバネッサは人生の迷子らしい。
「そのスキルを使った仕事に就いてみるのがいいんじゃない? でも、もう少しレベルを上げて、スキルポイントを溜めておくのもいいと思うよ」
「いや、その通りなんですけど、解呪や浄化の仕事なんてありますか!?」
「幻術や幻惑魔法の仕事なんて……」
「だから『奈落の遺跡』で……」
「5階層までの冬ゾーンも越えて、6階層には不死者の魔物が出てきたから、二人には大活躍してもらわないと困るんだけど」
「ああ、そ、そういうことでしたか」
「レベル20なんて余裕で超えていくってことですか?」
「そうだね」
エルフは長く生きているはずだが、人生に迷うのか。そもそも人間は年をとっても迷いっぱなしなのだろう。
「とにかくやってみないことには、自分に向いているかどうかもわからないよ」
俺たちは今日も5人で、『奈落の遺跡』へ入る。後ろから見ているエルフたちもいるので、もしかしたら遺跡内に入ってくるかもしれない。
「注意書きだけしておこう」
「そうだな。『ここから先、命の危険あり。準備と覚悟を持って入るべし』で、いいかな」
俺は紙に書いて、隠しドアの横に張っておいた。
「よし、じゃあ、昨日のところまでダッシュ」
「了解です!」
「アラクネさん置いて行かないでくださいね」
「大丈夫。ランプの光を頼りに来て」
アラクネさんは天井を駆けていく。
低階層の魔物は、ほとんど倒してしまっているので、出てくるのは召喚されたばかりの初々しい魔物だけ。
「よっ」
投げナイフに魔力の紐をつけて、さっくり討伐してナイフを回収。帰りがけに魔石と討伐部位を拾っておこう。
「は? 今、魔物を倒しました?」
「倒したよ。どんどん勝手に倒していくから経験値を取り逃さないようにね」
「そんな……」
「どうせ、不死者の階層じゃ二人の方が活躍するよ」
実際、二人ともすごかった。
6階層は二人の独壇場というか、セシリアの幻惑魔法でドラウグルや骸骨剣士の動きを止めて、バネッサの解呪と浄化で昇天させていく。
「魔石や討伐部位の回収はやっておくので、どんどん進んでください」
「敵とのレベル差がある今が伸び時です! 今日は限界まで行きましょう」
「ちょっと二人ともいいの?」
アラクネさんが心配して床に降りてきた。
「レベル差があった方が伸び率はいいから、レベル30ぐらいまではたぶん大丈夫。アラクネさん、夜は二人にマッサージを頼むね」
「わかったわ」
得意な敵に嵌れば、とんでもなく強い。これで、教会でつま弾きにされた記憶はどうでもよくなるだろう。あとはどうやって自分たちを活かす場を見つけるか。
6階層を一通り回った後、頭骨だけで身の丈ほどもあるガシャドクロと戦い、難なく撃破していた。
「どう? 不死者系には向いてそう?」
「そうですね。得意な魔物が見つかりました……。今は、とにかく眠いんですけど」
「情報の遮断ってこんなに効くものなんですね。お腹がすきました」
睡魔と空腹で倒れた二人を背負い、俺たちは『奈落の遺跡』から出た。
出たところで、二人のエルフが立っていた。
「募集を見て来たんですか?」
「うむ。風の魔法を研究している者だ。少しばかり協力できるかもしれん」
「私は、召喚の術式を研究している。あまり大きな魔物は召喚できないが、倉庫番の魔物くらいなら召喚できるかもしれない。どうだろうか?」
どちらも100歳にも満たない若輩者と自己紹介していたが、十分だった。




