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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
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189話「森の賢者の隠し事」


 一朝一夕で武術スキルが伸びるわけではない。だが、一朝一夕さえあれば、魔物を狩るコツは掴めるかもしれない。


「要するに、どこが弱点なのかを考え続けるんだ。そうするとどういう能力があるのかも見えてくる。感覚器官が鋭いところを狙うと、あっさり……」


 大きく口を開いたポイズンアナコンダをロサリオが木の幹に張り付けにしていた。

 目には俺が投げたナイフが突き刺さっている。

 セシリアとバネッサは解体しながら、どういう器官が魔物にはあるのか観察していた。僧侶服は血で汚れているが、気にしていない。アラクネさんは蛇皮や牙などを仕分けして、アラクネの紐でまとめている。冒険者ギルドに売る時に、まとまっていると数も数えやすいだろう。


「アルラウネとトレントはどうするの?」

 アラクネさんは、俺とロサリオが討伐していた魔物について聞いてきた。

 魔物と見るや俺たちはうっかり討伐してしまい、運ぶ手間を考えていなかったのだ。


「いや、もちろん解体して持って行きますよ」

「アルラウネはどうにでもなるかもしれないけれど、トレントは……」

「いや、魔物の国の群島であったトレントよりもかなり小さいからさ。とりあえず初手で動きを封じようとしただけなんだよ」

「そうなんだよ、アラクネさん。人間の国の魔物は脆いよ。本当に『奈落の遺跡』が人間の国にもあるのか疑わしいくらいに弱いんだ」

「どちらでもいいんだけど、このままにしておくのはもったいないから、斧で刻んで持って行くようにね」

「はい」


 わざわざ辺境からスライムを呼んで斧を持ってくるのは流石に面倒なので、エルフの里で斧を購入して、持ち運びやすい大きさに割ってしまう。それでも5往復ぐらいして、どうにかトレントの木材を里に運び、討伐依頼を達成。一日にいくつもの依頼を達成することは珍しいことだったらしく、冒険者ギルドからは感謝された。


 ついでに薬草採取や怪鳥の卵の奪取などの依頼も片手間で達成しており、路銀には困らなくなった。

 血だらけになった僧侶服を洗い、深緑色のローブを人数分購入。それぞれローブを着て、幻術の訓練を始めた。


「休まないんですか?」

「休憩も大事なんだけど、暇でしょ? 動いていた方がメンタル的には楽なんだよ」

「意味がちょっと……」

 セシリアたちは引いていたが、ほとんど戦闘らしい戦闘をしていないため、俺もロサリオも達成感がない。アラクネさんも肩透かしを食らったように背負子を背負っている。



「たぶん、リヴァイアサンというのは海竜だろ? 群島でいいだけ倒したし、こっちで倒しても経験値にもならないだろうし、この際、『奈落の遺跡』を探さないか?」

 ロサリオが提案してきた。

「冒険者的にはそっちの方がいいよな。でも……」

「品物の代金の回収と、停戦維持が目的でしょ。それだけはアラクネ商会としてやらないと……。ちなみに束になっても海竜は弱いの?」

「俺たちは群れごと倒したからね。群島で戦った海竜よりは成長していると思うけど、どうなんだろうな」

「竜種って形がかなり決まっているでしょ。レベルも上がりにくくてね。よほど使えるスキルを持っていないとなぁ……」

 俺もロサリオもリヴァイアサンには期待していない。

 せっかくエルフの領地まで来たというのに、期待外れのまま帰っては留守を預かってくれている社員たちにも会わせる顔がない。

 何か持って帰らなければ……。


「その西地区の海竜を飼っているエルフたちって、具体的にはどこのエルフと戦ってるの?」

「そりゃあ、領主じゃないの?」

 わからないことはバネッサに聞いてみる。


「どこというわけでもないと思いますよ。他のエルフから搾取して、いずれは領主も打倒しようとしているんじゃないですかね。寿命が長いので100年ぐらいかけた計画だと思いますけど」

「じゃあ、停戦している間に武力を成長させてっていう感じかな」

「そうです。小さい里と協力し合いながら……」

 小さな里と協力するというよりも、他の里のエルフたちを従えるつもりだろう。獣人奴隷たちも兵力に加えていくとすれば、資金力が必要だ。

「リヴァイアサン同士で戦うコロシアムか、レースみたいなのってないかな?」

「私は聞いたことがないですが、もしかしたら……」


 冒険者ギルドの職員に聞いてみると、リヴァイアサンのレースが開催されているという。


「ん? ちょっと待って。エルフの領地ってそんな広範囲にわたって水没しているの?」「え? いや、ちょっとそれは……」

 ギルド職員は言い難そうに顔を伏せてしまった。


 大森林と思いきや、エルフの森はマングローブだらけということか。


「土地の争奪戦が起きていない?」

「そんなことないじゃないですか……」


 そう言って笑っていたが、目は死んでいる。やはり現地に来てみないとわからないことが多い。

 エルフと言えば森だと思っていたし、里では野菜もたくさん売っている。当然農業も盛んだと思っていたが、特定の場所でなければ農業ができないとすれば、内戦が起きるのも頷ける。


「いつから?」

「へ?」

「いつからマングローブの森を作り始めた?」

「私が生まれた時にはすでにマングローブの森が出来上がっていましたから、少なくとも300年は……」

「他の領主は、この状況がわかっているのに手を出してこない?」

「マングローブの森になっても、ここはエルフの森ですから」

「そうか……」


 エルフの窮状はわかった。


「エルフたちは秘密にしているのか?」

 俺は冒険者ギルドを出て、バネッサに聞いてみた。

 

「何をです?」

「他の種族と関わりにくい原因を」

「自分たちの弱みを告白するエルフはいません。どれだけ落ちぶれようとも我々は森の賢者。別に土などなくても野菜はできます!」

「確かにそうだな」

 おそらくバネッサが最も解呪しないといけない呪いがエルフの領地全体にかけられている。


「俺たちがやらないといけないことが一つ増えたな」

「なに?」

「バネッサをエルフの英雄にすることだ」

「いいな。それ」

「私は教会から追放された出来損ないのシスターですよ!?」

「でも、解呪はできるんだろ?」

「それしか能がありません!」

「十分だ。悪いけど、レベルを上げてもらうよ。セシリアも協力してくれ」

「わかりました」


 言うことで退路を断つことがある。


「無理ですよ!」


 本人以外は全員、計画に乗った。


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