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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
188/226

188話「水没しているエルフの領地」

 

 大きな谷を越えてさらに2日かけて荒れ地を進み、山で野営をして、峰から山の麓を見ると、大森林地帯が広がっていた。


「あれがエルフの領地です」

「すごいな。なんかキラキラしているぜ」

「水分量が多いのか。いや、マングローブか……」

「珍しく晴れていますけど、ほとんど雨ばかり降っていますよ」

 バネッサが教えてくれた。


 勝手に領地に入ると麻痺毒のある草花や、アルラウネやトレントに襲撃されると言われていて、ちゃんと門から入ることにした。


 やはりマングローブの森がしばらく続いているようで、森が少しばかり水没している。草原地帯で見た木製の道を進むしかなさそうだ。これが他の領地からの侵入を防いでいるという気もする。


「ここから先はエルフ独特の文化がありますから、あまりいちいち騒ぎ立てると面倒なことになります」

「外部から魔物が来るのは?」

「おそらく初めてのことです」

「魔物の国ではエルフがいたけどね」

「え!? はぐれエルフですか?」

「こっちにははぐれ竜が来ているからお互い様だろうな」


 先へ進むと『ようこそ、交易の里へ』という看板が出ていた。森の中に町があり、大勢のエルフたちや獣人奴隷たちが行き来している。行商人も多いが、エルフが圧倒的に多い。


「ここは交易特区になっていて、どんな種族でも入れるようになっているんです。注目されてますね……」


 旅の間にアラクネさんもロサリオも自分を魔物であることを隠さなくなった。辺境の町が魔物の国と繋がっていることは広まっていて、驚きつつもすぐに受け入れるところが多かったからだ。しかも、僧侶たちと一緒にいることで、教会とも繋がっていることがわかる。


 そうなると、僧侶でもなく魔物でもない俺は誰なんだという疑問が湧いてくるらしい。


「へぇ、ただのヒモ男でございます」

 などとおどけていると、アラクネさんにバシッとつっ込まれる。


「辺境にあるアラクネ商会の者です。この度は販路開拓のためにやってまいりました」


 商人ギルドと冒険者ギルドに挨拶回り。


「はるばる遠いところからわざわざ来てくれたんですね。エルフの領地で買い付けに来たんですか?」

「いえ、辺境から送ったガマの幻覚剤の料金が未払いでして……。ついでに販路を広げられないかと来てみたんですけどね」

「なるほど。商品は送っているのに未払いですか? 由々しき事態と捉えますが、送り先はわかりますか?」

 エルフの薬屋から聞いた商店名を言うと、商人ギルドのエルフたちがざわついた。


「海森商会!?」

「これはちょっと難しいかもしれません。魔物の会社だと思って足元を見られたのでしょう。次からはちゃんとした商会と取引した方がいいですよ」

「いやいや、ちょっと待ってください。どういうことなのかくらいは説明してもらえますか?」

「ああ、失礼しました。アラクネ商会さんの取引先は西地区の商会で、こちらの商人ギルドには加盟しておりません。リヴァイアサンなどを従え、エルフの冒険者でも太刀打ちはできません」


 リヴァイアサンというのは海竜だろうか。


「だとしたら、俺たちが絶対にぶっ飛ばさないといけない相手なんじゃないか?」

 ロサリオは伸びをしながら笑っている。


「もしかして、その商会で召喚術を使っている者はいませんか?」

「いや、ほとんどが使役スキルを持っていると思いますが、召喚術は聞いてませんね。リヴァイアサンを召喚できるとしたら脅威ですけど」

「さすがにハイエルフの領主も黙ってはいないのでは?」

「停戦の合意も前提から崩れてしまいますよ」


 エルフの職員たちが慌て始めた。


「とりあえず、こちらで商売をしてもよろしいですか?」

「ああ、どうぞ。許可証を出しておきます。特に荷物はなさそうですけど」

「ええ、小物を少々売るだけです」

「でしたら、露店で売ってください。もし、店を借りる時は申請しないと難しいと思いますので、また来てください」

「わかりました。ありがとうございます」


 一旦外に出て、露店で串焼きを食べつつ、今後の予定を決めておく。


「こんなところまで付き合わせて申し訳ないけど、もう少し先まで行くことになった」

 海森商会がある西地区までは、まだ森の中を抜けていかないといけないらしい。しかもリヴァイアサンという海竜っぽい魔物とも戦わないといけない。海中程度なら楽だ。

「構いませんよ。むしろ、こちらは里帰りができるくらいで」

「いい思い出はないんじゃないか?」

「まぁ、そうですけど……」

「ちょっとレベルを上げたら? 旅をしているのに魔物に遭っていないから戦闘もしていないでしょう」

「遭ったのは野盗くらいですか……」

「野営中に何体か倒したんだけど、全部魔物じゃなくて狼だったな」

「冒険者ギルドに行ってみるか。その前に、もう少し食べていってもいいか? 野菜が美味しそうだ」


 俺たちは屋台で、タンメンに似た麺料理を食べた。味付けはシンプルだが、野菜の旨味がしっかりと出ていて、くたくたになった野菜がものすごく美味かった。


「やっぱり食文化はもっと取り入れるべきだな」


 折り鶴を通して、辺境とも連絡を取り、スライムの準備をしておいてもらう。


『おおっ、ついにエルフの領地ですか』

『素材を送ってくださいね』

 ツボッカもターウも興奮している。辺境では皆、気にしてくれているようで僧侶たちも応援されている。

「了解。どんどん送るし、必要物資は言うから送ってくれ」



 冒険者ギルドに行って、都合のいい依頼がないか探してみると、意外と魔物の討伐依頼が多い。


「他の土地よりも魔物の依頼が多いね」

「確かに。森は魔物が多いのかな?」

「他の地域が開発され過ぎていて、エルフの領地に集まっているのかもしれませんよ」

「じゃあ、適当に請けていこう」


 ロサリオがピックアップして、依頼をこなしていくことにした。

 別にランクに関係なく、請けられるところがいい。それだけ、エルフたちが魔物に対応できていないとも言える。


「泥濘なんで靴だけ注意ね。アラクネさんは糸の用意だけしておいて」

「わかった」


 森に入ると、中型犬サイズのサソリが襲ってきた。


「毒のサソリです!」

 バネッサとセシリアは、大樹の幹の陰に隠れた。

 俺は召喚術で、辺境のスライムを召喚。持ってきたのは鉈だった。


 鉈を受け取ると、サソリを真っ二つにして、スライムに食べさせていく。


「特に討伐依頼はないよな?」

「大丈夫だよ」

 ロサリオもさっくり槍で倒していた。


「素材取らなくていいの?」

 アラクネさんは律義にも、糸で捕獲していた。

 僧侶二人は驚きながらも、隠れていた幹から出てきた。


「要らないってさ。毒は青スライムに食べさせてあげて」

「しかし、便利だな。召喚術」

「ああ、距離の概念がなくなるね」


 倉庫を丸ごと運んでいるようなものだ。


「じゃあ、双頭のアナコンダを探していきますか!」

「「おおっ」」

「大丈夫ですかね?」

「大丈夫」


 俺たちは泥だらけの道なき道を進み始めていた。


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