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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
178/226

178話「政変? クーデター? 人間の国の騒動」


 魔物の解体を手伝っていたスライムが赤く変化していた。どうやら血を取り込み過ぎたらしい。血抜きはやりやすくなった。

 単純にそれだけかと思っていたが、免疫機能も高くなり、氷魔法の耐性が付き、さらに変形が得意になっていた。要は擬態だ。


「血液は栄養素や酸素を運ぶのが役割だから、間違ってはいないんだけど、こうなるんだなぁ」


 内臓も食べているため、大きく息を吸ったり吐いたりすることで、大きさもある程度変えられるようになっていた。笛ではなく自分で声帯を作り出し、「あぁ」とだけ言えるようになっていた。


「そのうち人間にも擬態できるようになるかもしれないな」

「……うん」

 返事だけでもしてくれると意思疎通はできる。


「欲しいものがあれば教えてくれよ」


 設備投資をしようとしているが、倉庫を広げようにも職人は情報局の塔を作っているのでいないし、なかなか商品が溜まらない。だいたい辺境の町で商売をしていれば魔物の商品は人間が買ってくれるし、人間の商品は魔物が買ってくれるらしい。


「まだまだ様子見の時期なんだろうな」

「一年目だから、いい商品なのかどうかよりも珍しいから仕入れてみるってことなんだろ?」

 ロサリオは現実的だ。ただ、呪具だけは保管され続けている。


「地道に解呪していくか」


 スライム用の壺と、革職人のゴーレムたちへの寝具を注文していたら、ターウが倉庫に駆け込んできた。ドワーフの鍛冶屋に預かっていた鉄の剣を持って行っていたはずだ。


「あの! 獣人の領地が大変なことになっているみたいで!」

「え? なにがあった?」

「領主が捕まったって……」

「政変だな。クーデターか?」

「それが、わからなくて。でも、町の獣人たちが帰れなくなったって……」

「了解。とりあえず、様子を見てくるか」

「辺境の町にも影響が出るのか?」

「いや、獣人たちが故郷に帰れなくなったら、辺境に難民が来るかもしれないだろ?」

「ああ、そうか」

「ツボッカ!」

「何を用意します!?」

 カウンターに飛び乗ったツボッカが、注文のリストを作ろうとしている。


「寝袋とテント、それから野外でも使えるストーブがあるといい。それから、保存食と仮設のトイレだな。人数によってはスライムたちでも処理しきれない。植物系の魔物で虫の魔物を使役している者がいたら教えてほしい」

「アルラウネかドルイドですね。ちょっとなるべく声をかけてみます。情報局にもお願いできますか?」

「うん。今から言ってくる」

「漬物と干し肉、小麦粉は倉庫にも結構あります。買い取ってしまいますか?」

「魔物の国の商人なら、買い取っていいんじゃないか。予算はあるだろ?」

「十分あります」

「商人ギルドの商品には手を付けるなよ。面倒なことになるかもしれないから。一応、そっちにも伝えておく」

「了解です」

「後は臨機応変に。毛皮等でできている物があれば、用意だけしておいてくれ。難民が出ないかもしれない」

「そうですよね」

 

 ツボッカと軽く打ち合わせをして、ロサリオと一緒に町へと向かった。


「相変わらず、コタローは緊急事態に慣れているよな?」

「慣れているわけじゃなくて、災害が多い国で育ったからだ。戦場で育っていたら、獣人の領地を奪いに行っているかもしれない」

「そうだよな。人間だっていろいろいるよな」


 町に入った段階で、獣人たちが集まって情報を交換している様子を見た。獣人たちもなにが起こっているのかまだわかっていないらしい。


 教会の二階に行くと、アラクネさんがちょうどドアを開けたところだった。


「よかった。今、倉庫に行こうとしていたところ」

「獣人の国で政変があったって?」

「そうみたい。領主の周りにいた兵士と領民を守る兵士が衝突したって。でも、戦いらしい戦いにはなってないっていう情報も飛んできている。ただ、この情報も半日以上は前の話だから」

「そうだよね。とりあえずテントと寝袋、それから保存食の確保を急ぐよ」

「へ?」

「難民が出るかもしれないからさ」

 ロサリオが補足してくれた。


「他に情報は?」

「獣人の商人があくどいことをしていたという情報もあるし、領主の妻の金遣いが荒かったっていう情報も来ているけど、決め手になるような情報は届いてないね」

 クイネさんがメモを見せてくれた。

「獣人たちが故郷に帰れなくなったってターウに聞いたけど」

「山間の関所は封鎖されているらしい。これは違う商人二人から寄せられているから、たぶん正しい」

「商人ギルドには?」

「まだ。だけど、獣人たちの様子を見て、感づいているんじゃないかな」

「わかった。俺が報告に行ってくるよ」

「頼む」


 俺たちは教会を出て、商人ギルドへと向かう。まだ急いでいる馬車はいないが、行商人たちはなにが起こっているのか様子を見ているようだ。


「お疲れ様です」

 ちょうどカウンターには情報局にも派遣されているタナハシさんがいた。


「獣人の領地で政変があったみたいなんですけど、情報は来ていますか?」

「いえ、まだです。情報局には来ていますか?」

「ええ。すでに山間の関所は封鎖しているとのことです。領主周りの兵士と領民を守る兵士の間でいざこざがあったとか。まだ噂程度ですが」

「わかりました。ネーショニア領への馬車は一時ストップさせます」

「こちらで、難民対策としてテントと寝袋、それから保存食の確保を急いでいます。二次災害を防ぐため、仮設トイレの場所の選定、確保をお願いしたいんですけど、可能ですか?」

「……了解しました。上に掛け合ってみます」

「お願いします」

 タナハシさんはメモを取って、すぐに奥へと向かった。


 商人ギルドから役所へ向かうと、獣人の行商人たちが大勢集まっていた。


「情報局のアラクネ商会の者です。こちらが掴んでいる情報としては、山間の関所の封鎖。獣人の領地での政変があったということだけです。まだ、その程度しか情報はありませんので、慌てないようにお願いします! もし帰れなくなっても、辺境の町で滞在できるようにアラクネ商会で準備もしていますので、腹が減ったとか寒くて死にそうだということにはならないと思います」


 大声で行商人たちに報告した。


「逃げてくる者がいるかもしれないんだが……?」

 クマの獣人の行商人が重そうな荷物を背負って聞いてきた。


「ええ。難民対策も商人ギルドと協力して、できるように今報告してきました。逃げてくる人数にもよりますが、仮設トイレの設置場所をどこにするのかが結構大事なことなので、皆さんも考えておいてもらえますか。飲み水にも影響しますから」

「ああ、そうか。そうだな……」


 辺境の町には北からの水の流れがある。山も近いので水はきれいだが、トイレの場所によっては汚染されかねない。


「アラクネ商会は協力してくれるのか?」

「ええ。政変や内戦は商会ではなかなか止められませんが、少なくとも行き場のない難民については未来のお客になるかもしれないので、ちゃんとサポートするのが商人の仕事ではありませんか? むしろ稼いだ金の使いどころはこういう時です。どれだけ偽善と言われても、気にしなくていいです。金を持っている者は金を出し、動ける者は動くのが助け合いじゃないですか。俺の故郷では、そうやって社会が成り立ってました」

「そうか。あんた、いいところの出身だな。いや、こういう時ほど、詐欺や窃盗が多発するんだ。事件が多すぎると衛兵も対処しきれなくなる」

「なるほど。じゃあ、冒険者ギルドにも協力を要請しましょう。それから広場の行商人たちにも声をかけておきます。この辺境の町は、出来たばかりですが人間だけでなく魔物の目もあります。種族は関係なく協力してくれると思いますよ」


 俺は冒険者ギルドに協力要請。支度金として金貨3枚を預けた。それから広場の行商人たちにも声をかけて、獣人絡みで詐欺や窃盗があるかもしれないから、なるべく財布のひもをきつくしておくように、と忠告していった。



 捕まったはずの領主が辺境の町に現れたのは、それから二日後のことだった。


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