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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
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176話「僧侶それぞれの副業先」


 宗教上の理由でできない仕事がないか聞いてみると、僧侶はどんな仕事でもできるらしい。また、教会でやらなければならない仕事がないかも聞いておく。

 基本的には週40時間働くとして、掛け持ちするなら、無理しないで続けられる仕事がいいということもちゃんと伝えた。


「睡眠時間の他に自分たちの自由にできる時間も持ちましょう。そこで趣味ができたり、自分に何が向いているのか、何が好きなのかを考える時間を持つと町の経済も回りますし、将来の目標なんかもできてくると思います」


 皆、ぽかんとした表情で俺を見ていた。


「わかりますかね? 一応、確認なんですけど、副業はいいんですよね?」

「ああ、それはもちろん大丈夫です!」

「むしろ辺境に来たのに、教会から出ないでいると咎められる者もいますから」

「じゃあ、それぞれやっていきましょうか。別々の職場になるかと思いますが、そんなに報酬には差はないと思いますので」

「「「「わかりました!」」」」


 魔物と人間の町で生活しているのに、僧侶たちはほとんど教会を出ていなかったらしい。その上、襲撃事件まで加担させられていたと考えると引きこもるしかなかったのだろう。


 符術、結界術は、二階にいるクイネさんに仕事を貰ってくるように言っておいた。クイネさんも人間の術理を知りたいだろう。


 それから解呪と交霊術の僧侶に関しては、吸血鬼の呪具屋に行き、看板娘のユアンに仕事がないか聞いてみた。


「解呪できるならいくらでもあるんじゃない? あと、霊が憑りついている呪具もあるから話を聞いてもらえるだけでもありがたいんだけど……。お金はそんなに稼げないよ。『奈落の遺跡』から呪具が発見されてれば、別だけれど」

「まだ、倉庫にあるはずだから、持ってくるよ。あとは、もう少し下まで探索するか……」

「だったら冒険者たちへのレンタル料で、それなりに払えると思う」

「よかった。仕事を教えてあげてくれる? ここの僧侶は悪い人たちじゃないんだけど、騙されることが多いみたいだから、嘘とかの耐性もつけてくれると嬉しい」

「わかった。いいよ」

 ユアンは笑いながら、僧侶たちに仕事を教えてくれた。


 その足で商人ギルドに行き、縄術を習得している僧侶に、木箱や木材をまとめてもらう。


「梱包作業や行商人や建築関係の仕事には向いていると思うのですが、仕事はありませんか?」

「もちろんありますよ。今から入れますか?」

 俺は僧侶を見た。

「……やります!」

「じゃあ、お願いします」


 続いて併設されている馬小屋に行き、御者の爺さんたちに、獣話術ができる僧侶を紹介した。


「なんだ、その便利な能力は? どんな獣とも話せるのか?」

「獣であれば、だいたい話せます」

「本当か?」

「腐ったニンジンは出さないでくださいって言ってます。腹を壊す馬がいるそうです。それから、馬水に変な匂いがする時があるから気を付けてくれって。夜中に酔っ払いが近づいてくるのもうるさくて眠れないって」

「ああ……、わかった。気を付ける」

 どうやら信じてくれたようだ。

「近くの農家も回ってくれないか。冬になるとどうしても熊や狼の被害は出るし、家畜も不安そうなんだ」

「報酬はくれますか?」

「現物支給かもしれないが、出るはずだ。頼めるか?」

 僧侶は俺の方を見た。俺は頷くだけ。


「やります!」


 残ったのは釣りと皮なめしができる僧侶と掌サイズの幻術を使える僧侶だった。


「私たちは……?」

「あ、倉庫に来てください」


 適当に広場の屋台で買いこみ、ツボッカやターウへの差し入れを持って行く。


「お腹すいていたら、一つ食べてもいいですよ」

 僧侶二人は、ひき肉と玉ねぎなどが入ったピロシキのようなパンを歩きながら食べていた。はしたないと窘める神父は教会で寝ているのでいいだろう。


 町を出て、街道を森の方へと向かう。


「魔物の国に入るのは初めてです」

「ああ、そうか。ここら辺一帯は魔物の国でも辺境だから、そんなに変な魔物はいないよ。元冒険者の老人たちは皆、毎日温泉に入りに来ているくらいだ」


 倉庫の前では、相変わらずゴーレムたちが元職人の爺さんに川の鞣し方を習っているところだった。


「おーい! この僧侶も皮なめしの仕事をさせてもらえませんか?」

「おう。いいぞ。僧侶なのにできるのか?」

「地元では、仕事ができず皮ばかり鞣していましたから」

「よーし、じゃあ、やってみろ」

 早速、僧侶は作業に加わっていた。



 一人不安そうな幻術使いの僧侶を倉庫の中に案内する。


「おつかれー。これ昼飯な」

「ありがとうございます! ターウ! コタローさんが昼食を買ってきてくれたぞー!」

「ええっ!? 本当に!? やったぁ!」

 昼食程度でこんなに喜んでくれるとは思わなかった。素直が一番だ。


「ロサリオはいるか?」

「ええ。『入口』で元冒険者の老人たちと魔物を解体しながら話してます」


 おそらく検分だろう。


「魔物の血や肉を見たことは?」

「ありませんが、動物のなら何度か。そんなに苦手というわけではありませんよ」

「それなら大丈夫だと思う」


 ロサリオは『奈落の遺跡』の入り口でもある階段の上のホールで、元冒険者の爺さんや婆さんたちと話していた。


「……ここまで筋力が極端でも天井にぶら下がっていたことを考えると腱の力や骨格がぶら下がった方が楽な構造をしているってことなのかな?」

「爪が普通の熊じゃない。手足が細くても中指だけはかなり発達しているだろ? あれ? 誰か来たな」

 元冒険者の爺さんがこちらに気づいてくれた。


「コタロー、そちらは?」

「幻術使いの僧侶さんだ」

「どうもセシリアと申します」

「幻術使いってどんなもの?」

「手のひらサイズの幻術を使えるだけです。手品ぐらいのことしかできませんが……」


 セシリアもどうして自分がここにいるのかわからないといった表情をしている。


「ロサリオ、俺たちは今まで自分の能力を引き上げることでレベルも上げてきただろ? でも、蝙蝠熊の感覚器官の大きさを見ればわかる通り、魔物はそれぞれ形状まで変えて鍛えているわけだ。セシリアさんみたいな幻術使いがいると戦い方も変わるんじゃないかと思ってね」

「確かにバフ効果もあればデバフ効果もないとな。いつまでも砂袋を投げているわけにもいかないものな」

「その通り。師匠たちも協力してもらえますか?」

 俺の師匠であるロベルトさんとセイキさんにもお願いをしておく。


「わかった」

「いいぞ」

「ということで、ちょっとセシリアさんには訓練をしてもらっていいですか? 遺跡の探索チームに幻術の専門家がいるとかなり助かるので」

「私がですか!?」

「そうです」

「でも、おそらくこの中に魔法使いの方がいらっしゃるんじゃないですか?」

「ああ、私は長年魔法使いとして冒険者をやってきた。でも、攻撃魔法を極めようと思ったことはあるけれど、幻惑魔法や死霊術なんかは簡単なものしかわからない」

「俺も防御魔法や強化魔法なんかは使えるが、幻術はせいぜい幻の狼や熊を出す程度だ」

 老人たちが答えた。


「私はそういう幻術ができないから辺境に飛ばされたんですよ」

「誰しも得意不得意がありますからね。手のひらの上でなら、光や黒い霧は出せますか?」

「まぁ……、それくらいなら」

「音や匂いは?」

「出せますけど、本当に僅かな効果しかありませんよ」

「な!」

 俺はロサリオを見た。


「十分です!」


 感覚器官の能力を上げた俺たちからすれば、僅かな音や匂いの方が警戒する。それは『奈落の遺跡』にいる魔物も同じだろう。


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