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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
175/226

175話「僧侶たちの術理」

 

 奥の部屋にいる僧侶たちは、俺を見て目を丸くしていた。

 やはり自分たちは嫌われていると思っているのだろう。

「いや、邪魔するつもりはありません。続けてください」


ベッドにうつぶせに寝ているのは神父だろうか。皆、腕まくりをしてマッサージを施そうとしているようだ。どういう教会なんだ。


「あ、あの! 今は身体の筋肉について勉強中でして、何かやましいことをしているわけではありません」

 整体のようなことか。

「なるほど、回復術の一環ですね」

「アラクネ商会さんは、各地の術理に関して質問があるらしくですね……」

 案内してくれた獣人女性の僧侶が慌てて言い訳をしていた。


「はい。あの急いでいるわけではありませんので、もしお時間がある方で、よろしければ教えていただきたいというだけです。勉強中にすみませんでした」


 俺は一旦、奥の部屋から出て、ホールに戻った。なぜか獣人女性の僧侶も一緒に付いてきた。


「一緒に勉強しなくてよろしいのですか?」

「ええ。私は何度もやっていますし、町の人たちはほとんど教会へ来ませんから」

 やはり他の地域の教会に騙されたことや、ゴルゴンのおばばが出ていったことが教会の評判を落としているようだ。


「どうすればいいんでしょうか。ここ最近、食卓にはマッシュポテトしかありません」

 食糧難のようだ。


「商人ギルドやアラクネ商会から、情報局の家賃収入はありませんか?」

「それだけではとても10人以上いる僧侶を養える余裕がありません」

 僧侶の数は意外と多い。


「冒険者をしている僧侶はいないんですか?」

「いなくはないのですが、報酬が高い依頼ほど難しいので……」

 闘技会自体を嫌がる僧侶もいるようだ。さらに魔物を倒しに行くような依頼は僧侶たちだけでは難しく、誰か一緒に行ってくれる人を探してはいるが、ここでも冒険者に断られっぱなしだという。


「他の教会の助けは?」

「他の教会からは完全に見放されました。以前は一週間に一度は連絡が来ていた僧侶たちにも、まったく……」

 連絡は途絶えたらしい。しかも辺境だ。救いの手も切れたと言ったところか。


「厳しいですね。自分たちとしてはどう思ってるんですか?」

「一人だけでも辺境から故郷に戻れればと思って、他の教会に協力したんですけど、失敗でしたね」

 はぐれドラゴンを使役していた魔物使いの派閥にいた僧侶がいたらしい。

 町での評判は最悪。頼りにしていた他の教会からも見放され孤立無援。せいぜい情報局を運営している俺たちぐらいしか話しかけもしない。四面楚歌。


「マッサージというか、施術というか、回復術はサービスとしてやっているんですよね?」

「ええ、それぐらいしかできませんから」

「識字率はどれくらいですか?」

「文章は読めますよ。算額や書くのもできます」

「じゃあ、二階に行って情報局を手伝ってください。夕食にもう一品付きますよ」

「本当ですか!?」

 獣人の僧侶は目を輝かせて聞いてきた。


「でも、それだけじゃやっていけないと思いますよ。せっかく広場にあるのに、立地も使えてないし、もっと皆さんで相談した方がいいと思いますよ。自分たちに何ができるのか、何ができないのか」

「出来ないことの方が多いんですけどね」

「それなら出来ることを増やしていきませんか?」

 

 タイミングよく、奥から僧侶たちが出てきた。神父は揉まれ過ぎてぐったりとしている。そのまま自室へと戻っていってしまい、僧侶たちだけが残った。


「あの、先ほどシスターと話していたできることを増やすというのはどういったことなんでしょうか?」

「私たちの術理に質問があるとか?」

「とりあえず、座って話しませんか?」


 ベンチを移動させて全員の顔が見えるように座った。


「俺は異世界から来たから、どんなスキルがあるのかも知らなくて、魔物の群島に行って色々見てきたんですけど、教会では長年、術理を習得してきたと聞いて、教えてもらえないかと思って」

「スキルをですか?」

「どんなスキルがあるのかだけで構いません。別にスキルを発生させたいわけではなく、単純な興味本位です。あと、今の状況を聞いて、たぶん皆さんで力を合わせれば、辺境独自の術理を見つけられるんじゃないかとも思います。商品を作るにしてもサービスを作るにしても、何ができるのかもわからない状況だと、おかずもポテトも減る一方ですよ」


 まさかアラクネ商会が一番初めに人生設計を立てるのが僧侶たちとは思わなかった。


「私は北部の教会出身で、釣りや船の操舵術を学んでいました。あとは革の鞣し方とか、獣の解体とかも、実はやっていましたけど、漁も狩りも一度もやったことはありません」

 猫耳の獣人が語り始めた。

「ボートくらいなら一人でも動かせるってことですかね?」

「あ、いや、それが……、その……、船酔いが激しくて、スキルは取ったんですけど、ほとんど船には乗っていません。だから辺境に……」

「そうですか」

 辺境に来るには理由がある。

「皮なめしの仕事は倉庫でやっているので、今日明日にでも行ってもらえれば、うちの壺の魔物が給料を出してくれると思います」

「え? いいんですか?」

「真面目に仕事をしてくれれば、全く問題はありません。結構大きい毛皮があるので、大変ではありますよ」

「いえ、やらせてください! 汚れ仕事でもなんでもやります!」


 早速、猫耳の僧侶が仕事を見つけた。


「私は符術が使えます。お守りを作ったりするようなものなんですけど」

 黒髪の似合う普通の人間に見える僧侶が口を開いた。

「まじないに近いんですかね?」

「はい。文字や記号を使ったもので呪符なんかも作れるんですが……」

「効果が薄いんですか?」

「そうですね。私の術は護符よりも呪符の方が強く出るようで気味悪がられてしまい……」

「二階の情報局にクイネさんというアフロヘアのアラクネさんがいると思うので、話してみてください。彼女は魔物のまじない師でとても優秀で、俺が旅の間にスカウトしてきたんです」

「ええっ!? 魔物をスカウトしたんですか?」

「ここは人間と魔物の町ですよ。もっと魔物とは関わっていってください」

「そうですよね……。わかりました」


 二人が喋り終わったところで、順番に話してもらうことにした。

 解呪しかできない呪術を使うエルフや交霊術を扱う小人族、獣と話せる獣話術やどんな品物も縄で縛り担ぎ上げる縄術、魔物を封印する結界術、手のひらサイズの幻を見せる幻術などを習得しているらしい。

 それぞれ各地の教会でやらかしてきた僧侶たちなので、癖は強いが皆、術理に関しては真面目に取り組んでいたそうだ。

 まとめ役の神父からすればまとめきれないのだろう。


「召喚術や普通の魔術みたいなものは使えないんですか?」

「……」

 使えないとのこと。

「交霊術が降霊術になることはあります」

「幻術は、私が混乱することがあります」

「そうですか……」

「やっぱりダメですか?」

「いや、逆です。どれも面白そうな仕事ができそうですけど……」


 女僧侶たちがずいっと前のめりになってきた。


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