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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
169/226

169話「帰ってきた倉庫会社の社長」


 スライムの群れを連れて町に入ると、ギョッとされたがきれいに並ばせていたので、近づいてきたり逃げ出すような人はいなかった。魔物たちも俺に使役されていることがわかっているのか、「おっ」という反応はするものの「おはよう」と挨拶をするだけだ。



 アラクネさんに言われたので、道場に顔を出してイザヤクとマーラの様子を聞いた。


「随分、成長をさせてもらったようだ。ありがとう。昨夜は語り疲れて寝ているよ。旅は相当楽しかったらしい」

 元冒険者の夫婦は、弟子たちへの稽古を終えて、掃除をしているところだった。

「それなら、よかったです。ゆっくり休養させてやってください。日常生活で使う頭や身体に慣れていないかもしれませんから」

「わかった。ただ、あそこまでレベルが上がるとしばらく町の日常には戻れないだろうな。『奈落の遺跡』は開放してやってくれ。我々も、ここのところ教会も悪さしてこなくなったから、身体が鈍ってる」

「開けますよ。なんか環境が変わっているみたいなので、気を付けてくださいね。あ、そうだ! お二人ともエルフの禁足地って知ってますか?」

「行ったことはないが、大森林の山の中じゃなかったか?」

 剣士の爺さんが魔法使いの婆さんに聞いていた。


「そうね。エルフの里には入れたけれど、禁足地はないわね。大森林の宗教上の理由で立ち入り禁止になっているところと、ダークエルフやハイエルフを迫害してきた歴史上、禁足地になっている場合があるから、山とか谷とかひとくくりには言えないのよね」

「ああ、複数あるんですね」

「そう。でも、エルフに聞いても答えられないと思うから、ドワーフや獣人、あとは吸血鬼に聞いてみると、もしかしたらわかるかも。マーラに聞いたわ。ミミック島での話。大森林まで召喚術で行けるようになると楽しいわね」

「ええ。俺もそう思ってるんです。なにか召喚術の情報があったら教えてください」

「ああ、あったら倉庫に持って行くよ」

「スライムたちに掃除をさせても?」

「ああ、いいのか?」

 二人とも倉庫によく遊びに来るので、スライムたちが掃除をしていることは知っているし、安全であることもわかってくれているようだ。


 スライムに指示を出し道場全体をきれいにした。ミミック島から連れてきた六頭もいるので、作業は数秒で終わり、板張りの床はワックスで磨いたように光が反射している。


「これは、便利すぎるわ」

「弟子の足腰が鍛えられなくなるから、次は年末の大掃除の時に来てくれ」

「わかりました」


 道場を出て、金物屋でバケツや箒を買っておく。

 教会へ行くと、屋台の店主たちが一斉に集まってきた。


「帰ってきたのか?」

「スライム軍団を引き連れてきたのね?」

「どうだった? 旅は?」


 質問攻めだったが、皆、どこかもじもじしている。


「ああ、店番はやっておきますから、皆さん休憩しておいていいですよ」

「「「助かる!」」」


 店主たちは役所へと走っていった。朝は寒く、開店の準備をしていて行き損ねたのだろう。スライムたちに指示を出して、教会回りのゴミの掃除をしてもらう。


「魔物の糞はバケツに入れておいてくれ。食べて、お腹壊さないようにな」


 その間、俺は広場の屋台で店番をしていた。


「あら、本当に帰ってきたのね」

 吸血鬼の呪具屋で働いている看板娘が話しかけてきた。確か、名前はユアンだったか。


「久しぶり、ユアン。どう? 呪具のレンタル業は?」

 呪具を冒険者にレンタルをして、闘技会のランキングを活性化させているはずだ。動かないランキングはつまらない。

「いい感じで闘技会を荒らしてくれているみたいで、よかったよ。ツボッカにちゃんとレンタル料の取り分は渡してあるからね」

「ありがとう」

 遺跡から出てきたうちの会社の呪具も渡してある。


「うちの店主が呪具を仕入れに行ってるから、また浄化できそうなものは依頼するわ」

「わかった」

「『奈落の遺跡』から持ってきてもいいからね。だんだん、呪具の性能がバレて闘技会で対処されてきているからさ」

「呪具に頼らず、腕を上げてくれればいいんだけどな」

「本当そうね」


 ユアンは吸血鬼とは思えないくらい明るく去っていった。

 その後、串焼きやアクセサリーを売っていたら店主たちがかえってきた。薄いぶどうのような果実ジュースを奢ってもらい、休憩終了。スライムたちが集めたごみをバケツに詰めて、教会回りの糞の跡も掃除していった。


「あ、もう掃除してくれたの?」

 見上げれば、アフロヘアのクイネさんが教会の二階にある窓を開けていた。情報局の仮拠点だ。そのまま木の枝に糸を絡ませて降りてくる。


「どうです? 依頼は入ってきてますか?」

「今日は、そんなに多くない。屋台の店主たちに配って終わりかな」

町の各地から、ランチの注文が来るらしい。広場の屋台では、ランチ専門にしようか悩んでいる店主もいるのだとか。弁当屋の配達のような仕事ができている。


「やっぱり町の仕組みの一部になると、強いですね」

「いやぁ、こんな商売があるんだね」


 クイネさんはそう言いながら、屋台の店主たちに注文の紙と、依頼者の住所を渡しに行った。


「クイネさん、もう一件注文できるかどうか聞いてもいいですか?」

「なに?」

「発声の魔道具なんですかね。泥人形とかアルラウネなんかが喉に付けている装置があるじゃないですか。あれを大量に注文できないかと思って」

「ああ、いいけど……。あの魔道具を作っているのは中央の近くじゃなかったかな。いや、人間の国にもあるはずだね。でも、そんなのどうするんだい?」

「いや、今回のツアーで物質系の魔物とのかかわりが多かったから、もう少しコミュニケーションを取って倉庫でも雇用できないかと思ってるんですよね。実際、有能な魔物が多いみたいなので」

「ああ、確かにちょっと他の種族とは欲の方向性が違うかもしれないわね。ちょっと連絡してみるわ。人間の国のはタナハシさんに聞いてみるといい」

「わかりました」


 教会の二階に行き、情報局に入ると、タナハシさんとアラクネさんが小型の魔物から来た情報を選別していた。情報は増えているが、今いる人員で対応できる量だとか。


「掃除お疲れ。窓から見てたけど、スライムたちがいると速いね」

「うん。今後、レベルが上がると面白くなりそうだよ」

「コタロー。そう言えばタナハシさんが話があるって」

「あ、本当? 俺もあるんだよな」

「あの、アラクネ商会への融資をしたいと商人ギルドが言ってきてるんですけど。あと大渓谷の情報局への留学もしたいと」

「留学は、すぐにできるんじゃないかと思いますが、融資の見返りは技術協力ですよね?」

「ええ、その通りです」

「だとしたら、エルフの召喚術に関して情報を提供してほしいのと……、名づけとハンコづくりについてはクイネさんと実験した方がいいのかな?」

「え!? 私?」

 後ろで聞いていたクイネさんが驚いていた。


「群島での旅の間も探してたし、アラクネさんにも伝えていたと思うけど、召喚術を簡単に使えるようになると、流通革命が起きると思うんですよね」

「そうなんですか?」

「人間の国にも召喚術師っていたはずでしょ? で、エルフの禁足地で海竜を育てていた者たちがいるみたいでね。召喚術で魔物の国の島まで飛ばしていた。竜みたいな大きな魔物でも国家間を行き来できるくらいの距離を一瞬で移動できるのであれば、馬車の必要性が薄れるのはわかるでしょ?」

「本当ですね」

「戦争で使っていた技術の、一般転用ということか?」

 クイネさんがメモを取りながら聞いてきた。


「そうです。だから、スライムを召喚術で使えるようになれば、どこにいても一瞬でこの辺境の町へ商品を送ることができるようになります」

「流通の概念が変わっちゃいますよ……」

 タナハシさんはメモを取りながら、俺の話に引いていた。


「だから流通の革命が起きます。情報局も召喚術を使えば、メモのやり取りだけでなく、声のやり取りもできるようになるじゃないですか」

「実際にそんなことできるのか?」

 クイネさんはペンでアフロヘアを掻いていた。

「出来ると思いますよ。リオって竜の友達のブレス攻撃が、召喚している側に届いていたみたいなので……」

「召喚術の一般化ですか……」

「今は使役スキルの一般化が進んでいると思うんですけど、スキルであればできるという証拠でもあるじゃないですか。これから俺も召喚スキルを取っていくので、商人ギルドは様子を見ていた方がいいかもしれませんよ」

「そうですね。ちょっと状況がどんどん進んでいるみたいなので、上司に聞いてみます」

「コタローは旅に行く度、数十年くらい時代を進ませてない?」

 アラクネさんがにこやかに圧をかけてきた。まだどこかに行くつもりだと思っているのか。


「そんなつもりはないんだけど、人間の生活も魔物の生活も便利になるといいなと思ってるだけだよ。アラクネ商会はいろんな業務をやっているけど、基本は倉庫業だからね。一瞬で商品を送れても、結局置く場所がないってことは考えられるわけじゃない?」

「そうね」

「ちゃんと、業務は倉庫運営に向かっているよ」

「こうして言いくるめられるから、商人ギルドもちゃんと査定した方がいいわよ」


 アラクネさんがタナハシさんに忠告していた。


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