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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境

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167/226

167話「アラクネさん、走る!」


 中央にて衛兵のリオたちと別れ、俺たちは辺境の町へと向かう。


「コタローさんが言っていた暗号資産の件、楽しみにしていますから」

 リイサが帰りの馬車で俺が語ったブロックチェーンや暗号通貨についての話に興味を持ったらしい。


「とりあえず皆、偉くなってくれ。システムを作るのは簡単じゃないから。まずは技術からだ。エルフの禁足地に行くときは連絡する」

「必ず行きますから」

「私たちも近いうちに倉庫に向かうと思います」

「おう、待ってる」

「ロサリオは中央に寄らないのか?」

 リオが寂しそうに聞いていた。

「ああ、実家に挨拶したから、もういい。辺境の方が俺には合っている。リオもそのうち限界を感じるぞ」

「感じているよ。異動願は出してるんだけどな」

 魔物3人娘を育ててしまったので、リオはまた昇進するらしい。


「じゃ、またな」

「必ず辺境に来てね」

 イザヤクとマーラもアーリャたちと別れを惜しんでいた。共にレベルを上げると同期のような感覚がある。


 再会を約束して、俺たちは辺境の町へと向かった。

 山道を歩きながら、袋に詰め込んでいたスライムたちを出してやる。ミミック島から6匹連れてきたが、どのスライムも小さくなって貰った。乾燥させたり熱したりして身体を小さくできるらしい。しかも再び水分を与えれば、元の大きさに戻るのだから、随分便利な身体だ。


「核の大きさだけは変わらないようですから、やはり本体は核なんですかね?」

 マーラも魔物に興味はあるらしい。魔法の実験にも使える。

「だろうね。スキルも記憶しているみたいだから、よかったよ」

 山のなかの小川で給水し、元の大きさにすると勢いよく走り回っていた。街道に出るとスライムたちが魔物のレギュラーや冒険者に襲われるかもしれないので、山道を進んだ。


 俺たち4人が、異様な雰囲気を発していたからか魔物に会うこともなく辺境の町へと辿り着いた。

 イザヤクとマーラは、道場に帰ったことを報告しに行った。

 俺とロサリオはそのまま倉庫へと向かう。スライムを連れて街中に入ると騒ぎになるかもしれない。

 倉庫の前には馬車が並び、ケンタウロスの娘、ターウが木箱を運んでいた。脚もそうだが、腕の方も筋肉質になっているようだ。


「レベルを上げたのは俺たちだけじゃなかったか」


 足が蛇のエキドナもボードの伝票を見ながら手伝っているらしい。温泉の管理を任せていたが、上手くいっているのかな。


「ただいまー。ツアー終わったよー」

「おおっ! コタローさん!」

「ようやく帰ってきたか!」


 ターウもエキドナもちゃんと俺の顔を覚えていたようだ。


「アラクネさんとクイネさんは教会だよ。情報局は町の北に作るつもりなんだけど、まだ建設途中でね」

「わかった。ありがとう」

「荷物だけ置かせてくれるか」

「荷物重そうですね。そんなに稼いできたんですか?」

 ターウが笑顔で聞いてきた。


「ああ、半分以上が金貨だ。あとスライムたちを先輩スライムに会わせないと……」

「スライム? ぎゃあ!」

 ターウは木陰から現れたスライムの群れに飛び跳ねて驚いていた。


「なんだ? スライムが苦手だったか?」

「あ、いや、急に現れるから。倉庫のスライムたちはよく働いていますよ」

「そうか……」

 俺とロサリオが中に入ると、二体のスライムが近づいてきた。


「青い方が毒のスライムで、ピンクのが洗浄スライムだったな?」

 忘れてないぞと撫でてやるとプルプルと震えていた。後ろに付いてきているスライムたちを紹介してやると、仲良く倉庫を案内してやっていた。罠も仕掛けてあるので教えてあげてるといい。


「おつかれさん」

 奥のカウンターで帳簿を付けていた壺の魔物ことツボッカに帰宅を報告しておく。いつの間にか眼鏡をするようになっていて、ちょっと変わったか。


「おおっ! お帰りなさい」

「暗がりで帳簿を付けていたから、目が悪くなったのか?」

「その通りです。しかし、この倉庫は暇しませんね。次から次へと商品が届く。鑑定のスキルを上げたいんで、あとで『奈落の遺跡』に連れていってください」

「わかった」

「洗ってある下着類はロッカーにありますし、服もアラクネさんが用意してくれてますよ」

「助かる」

「ロサリオさんの分もありますので……」

「すまんな。また厄介になる」


 ツボッカはすっかりこの倉庫の番頭だ。


「悪いんだけど、このカバンの中に入っている金貨を数えておいてくれるか?」


 カウンターの上にドサッと鞄を置くと、ツボッカは眼鏡をかけ直していた。


「ちょっと待ってください。この中身は全部金貨なんですか?」

「そうだ。洗濯物はこっちの樽に入れておけば、洗浄スライムが洗ってくれるのか?」

「そうだ、って……! ああ、洗濯物はその樽に入れておいてください」

「レベル上げツアーって、こんなに稼げるんですか?」

「ああ、群島の金をたくさん持ってきたからな」

「ついでと言ってはなんだけど、俺のも頼めないか?」

 ロサリオが同じようにカウンターに鞄を置いた。


「しかも、二倍!?」

「八人で分けたから、この八倍はあったんだぞ」

「酒場が出しているレギュラー仕事ってそんなに稼げるものなんですか?」

「ん~、まぁ、竜をたくさん倒したんだよ。あ、そうだ。エルフの禁足地について、何か知らないか」

「エルフは薬屋さんしか知りませんよ。調べておきますか?」

「ああ、頼む」

「というか、情報局に連絡しないと!」

 ツボッカはターウを呼んで、情報局へ鳥の魔物を飛ばしていた。


「いや、これから町に行くところだぞ。髭剃りと歯ブラシの新しいのを買いに行かないといけないし、ツアー中に変わったところも見たいから」

「大して変わっちゃいませんよ」

「いや、仮とはいえ情報局ができたんだろ? 変わるさ」


 俺とロサリオは辺境の町へと街道を通って向かった。

 しばらくのん気に歩いていると、前方から勢いよく走ってくるアラクネさんの姿が見えた。


「アラクネさん!」

 俺は手を上げて呼び止めた。


 アラクネさんは俺の前方五メートルほどで立ち止まり、息を整えながら顔をあげた。


「コタロー……」

「ごめん。留守の間、大変だった?」

「大変だった……」

 息も絶え絶えに言うアラクネさんを俺は抱きしめた。よほど大変だったのだろう。汗が止まらないらしい。


「ただいま」

「おかえり。あぁ、気が抜けた。コタローが帰ってきたんだ……。ああ、ロサリオさんも」

「悪いね。二人の再開なのに俺がいて」

「いいよ」

「情報局で俺が帰ってきた連絡を受け取ったの?」

 だとしたら、情報局はかなり速い。


「いや、教会の窓からレベル上げツアーの……」

「イザヤクとマーラ?」

「そう。二人が見えたから、帰ってきたと思って」

 これは相当、待たせてしまったな。


「じゃあ、今日はアラクネさんをねぎらう会をしようか」

「え? 旅の報告が先です」

「はい」

「まさか、またどこかに行くつもりじゃないでしょうね?」

「しばらくはいかないよ。ただ、エルフの禁足地について調べるだけ」

「ちゃんと倉庫の運営と情報局の運営をしてもらわないと困りますからね! アラクネ商会の社長はコタローなんですから!」

「すみません! とりあえず、町で甘いものでも探そう」

「あ、それならいい屋台ができたんです!」


 アラクネさんは俺の腕を掴んで、町へと引きずるように案内してくれた。とりあえず、今日のところはアラクネさんの言うことを聞いておこう。


 家に帰るまで、アラクネさんは自分が俺の腕を掴んで離さなかったことに気づていない様子だった。寂しい思いをさせたようだ。


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