165話「止まらない海竜討伐作戦」
街中でスライムたちが海竜の相手をしているが、粘液で拘束したり目くらましや呪いで感覚を鈍らせているものの決め手にかけていた。
「弱らせることはできるのに、どうやって倒すかがあんまり考えられていないな」
ロサリオはスライムたちの様子をしっかり見ていた。
「そうなんだよ。骨がないから遠心力を使うしかないのかな」
スライムは身体の一部をしならせながら、攻撃することもできる。
「鞭かぁ。表皮の固い竜種には不向きだよ」
「身体の中に入って窒息させたりするか」
「飲み込まれる危険性の方が高いね。やっぱり粘液に毒を仕込んで弱らせていくしかないんじゃないか」
「せめて目と脳があれば、状況を見ながら地形を使えそうなんだけどな」
「ああ、それは面白いんじゃないか。やっぱりスライムってコタロー向きの魔物なんだなぁ」
「そうなると戦っている時のピンポイントで召喚できるといいよね」
「いやぁ、相手にしたくないな。どこに足を置くのかをいちいち気にしながら戦うのは大変だ」
そんな会話をしていたら、リオがやってきた。
「お、もうやってるのか。なんか島の周りにも結構いるみたいだぞ」
リオはぐるりと島を一周して、海岸線から沖を見てきたらしい。
「じゃあ、誘い出して一頭ずつ討伐していく感じでいいかな?」
「いいと思うぞ。これだけ大きくなっているってことは近海から魚も魔物も激減しているはずだ。数も多いなら、とっとと駆除しないとな」
「お疲れ様です!」
リイサも小さなダンジョンを攻略してやってきた。
「お、リイサが来たか。じゃあ港に罠を仕掛けに行こう。他の4人が来たらすぐに始められるようにしよう」
「了解です」
俺とリイサで、周辺のまだ開店している店に断りを入れに行く。
「中央軍の兵士です! これから海竜の討伐が始まります。なるべく被害を最小限に留めるため、店先に商品は置かないようにお願いします」
「また、腹を捌いていきますので、樽や刃物をお持ちの方はご協力願います」
リイサが兵士の証であるドッグタグを見せながらお願いして言ってくれたので、店主のミミックたちは協力してくれた。空樽も空の木箱もどんどん集まった。
俺とリイサは港を一時的に封鎖させてもらえないか聞いたら、港職員たちはすぐに了承してくれた。海竜の被害は知られているようで、対応してくれるなら誰でも協力してくれるという。
「どうせ船は明日まで来ないからね。船は島の裏側に移動させておくよ」
泥人形の船長が手配してくれた。
「ありがとうございます」
俺とリイサは海竜が上陸してくる港に、毒棘の付いた紐を通りの両サイドにある店の柱に縛り地面に張っていく。大した罠ではないが、踏んで毒状態になってくれれば儲けものだ。
通りの店が閉まったことを確認して、棘付きの鉄板で補強していく。海竜たちが嫌がって広場まで進んでくれればいい。
従属魔法の魔法陣やしびれ薬など群島で見つけたものも使っていく。
「死霊術はどうします?」
「持ち運びできるリネントラップがあったろ? たぶん海竜が多すぎて解体できなくなっていくから、広場の方に仕掛けておこう」
「了解です。基本的に私たちの役目ってルート強制ですよね?」
「そういうこと。討伐したければ討伐していいけど、邪魔だろ?」
「そうですね。あれ? スライムが……」
坂の上から、俺が使役したスライムの群れがやってきた。
「このスライムたちも使っていいからな」
「わかりました……。できるかな?」
リイサも使役スキルを取っているが、まだなにも使役したことはないらしい。
「そろそろ始まるかな?」
「海竜の鳴き声を合図にします」
空からハピーが飛んできて、教えてくれた。
おそらくリオが捕まっていた海竜を脅しているところだろう。
「広場には皆集まっているのか?」
「ええ。イザヤクとマーラもダンジョンを攻略してから来ました。アーリャは私と一緒に広場の店の防衛です。リイサも交代でやっていこうね」
「ありがとう。ツアーの最終試験だから、全力を出しきろう」
3人で拳と足をぶつけ合い、ハピーは広場へと飛んでいった。
ヒュウッ!
空は快晴。風の雰囲気が変わった。
俺とリイサは、魔物の血が入った匂い袋の紐を解いた。むせ返りそうになるような血の匂いが辺りに広がる。
ギョエエエ!!
広場から海竜の鳴く声が聞こえてきた。
俺たちは港に向かって匂い袋を次々とぶん投げる。島の周囲を泳いでいた海竜も臭いに気づくだろう。
ザブーンと波が港に打ち付ける。
次の瞬間、海竜が2体同時に上陸した。
グゥオオオオ!!
雄たけびを上げる海竜に、俺は紐付き投げナイフで応える。
逆鱗に当たったので、怒りながら坂へと突進してきた。
ドシンドシンドシン……。
陸の上だと走るのが下手なようだ。しかもスライムの粘液によって坂を何度も滑っている。二頭の海竜は我先に俺とリイサを喰おうと頭をぶつけながら、坂道を上っていった。
「彼らには何が見えているんですかね?」
紐に付けた棘には興奮剤の毒が塗られている。二頭の海竜はしっかり踏み抜いていた。
混乱した魔物を倒すのは、それほど難しい作業ではない。特にレベル上げツアー参加者ならなおさらだ。
「次々来るぞ」
再び海竜が上陸してくる。
棘を踏まなくてもスライムたちの粘液で滑って転んでいた。スライムたちはちゃんと粘着性を変えて吐き出している。状況に応じて変えているなら、戦い慣れてきた証拠だ。
カッ!
海岸線を進もうとする海竜の視線を、投げナイフでこちらに向け、目に砂袋を投げつけた。
ガァアアア!!
「的がデカいから当てやすい」
怒りに震え、突っ込んでくる海竜を直前で躱す。坂の上には広場があり、しっかりとどめを刺してくれるだろう。
「本当ですね。でも、これって何頭上陸してくるんですか?」
再び海竜が続々と上陸してきた。むしろ港で渋滞を起こしている。
「興奮剤が入っている煙玉を使おう」
「同士討ちですね。どこでこんなに大きくなったのやら、まったく……」
俺もリイサも群れの多さに辟易としながら、淡々と対処していった。
そのうちに上陸してくる海竜の鱗の色が変わった。
「個体差があるんですか?」
「わからん。とりあえず、首の周りにある棘には注意しよう。嗅覚の能力を上げると毒っぽい匂いがするから」
「わっ、本当だ」
日が傾いても海竜の群れは途切れない。
「何か変だな」
「そうですね」
俺とリイサは、首をひねっていた。