163話「冒険に案内不要」
水先案内人のメガネグマが俺の先を走り、俺の後ろをスライム軍団が付いてきた。もちろんスライムが一番遅い。
メガネグマは何度も振り返りながら、どうにか俺たちを嵌めようと巨大な蛇がいる部屋へと連れていった。巨大な蛇はアンピプテラという光る羽が生えていて、飛び掛かってくる。しかも、俺たちが足を踏み入れると、アンピプテラの卵が孵り幼体まで火を噴きながら飛び回った。
「羽が光っててカッコいいな」
スコップで叩き落し、刃で首の根元を突き刺していく。血が噴き出るので、どんどんスライムに食べさせていった。羽ばかり食べるスライムもいて、そのスライムだけちょっと光っている。
他にも虫の魔物が多く、毒ムカデやサソリも多いようだ。サソリは前の世界ではまるで見なかったが、こちらの世界にきてからよく見るようになった。このダンジョンのサソリには、毒があり、スライムはちゃんと麻痺になっていた。
ただその毒もスライムの溶解液にあっさり溶かされて取り込まれていた。
「何でも取り込んで自分の力に変えていけよー」
毒スライムに成長させた方法をこのダンジョンのスライムでも試していく。
スライムも形や能力が同じでも好みはあるはずだ。ただ、ほとんどのスライムが丸ごと魔物を食べている。
岩まで食べるようなスライムはいないが、骨はバリバリと体の中で圧縮しながら溶かしているようだ。魔物が消化しているところを見るというのはなかなか経験したことがないので、じっくり観察させてもらった。
「当り前だけど、体液のすべてが溶解液ってわけじゃなくて、消化するときに濃度の高い溶解液で分解してるのかぁ」
感動して独り言を喋りながら、蛇や虫の魔物を狩っていく。アンピテプラがこの部屋の主だったようなので、スコップで叩き落としてからスライム軍団に襲わせた。スライムのいいところは核の魔石さえ傷つかなければ、打撃や噛みつき攻撃が効かないところだ。
さらにちょっとでも皮膚に傷があれば、溶解液で広げ溜めていたサソリの毒を送り込むという器用なことも指示をすればできる。
「脳がないから素直だよな」
視線を感じて顔を上げると、またしても水先案内人のメガネグマがこちらの様子を見ていた。
「あ、ごめん。夢中になっちゃって。よし、皆行くぞー」
部屋にいた魔物の半分くらいはスライムの腹に収まっただろうか。皆、二倍以上膨らんだ身体で、消化しながらついてくる。
「あ、罠だ」
落とし穴や毒矢の罠も仕掛けられているので、回収して毒はスライムに食べさせた。落とし穴の底にしかけられている杭も腐っていたので、スライムが飛び込んで食べていた。
「湿気が多くて水カビも生えるんだな」
古いダンジョンらしく、苔やキノコなんかもそこかしこに生えている。もちろん、スライムが食べられるものはなんでも取り込んでいった。
スライムの食事に付き合っていると、思わぬ隠し部屋が見つかった。奥には宝箱が設置されていて、槍衾の罠が仕掛けられている。
ザシュ!
宝箱に触れれば上下左右から槍が出てくる仕組みのようなので、スライムに起動させてもらって俺は槍を一本ずつ引っこ抜いていった。さすがに大食漢のスライムでも槍までは食べられなかった。
「宝箱の中身は何だった?」
スライムに聞いても答えられるはずもないのだが、どうにかコミュニケーション手段が増えないかと試していくことは忘れてはいけない。
中には薬草の束が入っていただけ。数が多いので銅貨3枚くらいの価値だろうか。
「食べてみるか?」
スライムに食べさせてから、次の部屋と向かった。
丸太罠や食獣植物などを躱しながら、ダンジョンを進んでいくと、金属の加工所のような場所に出た。マシン族系のゴーレムもいてスライムに襲い掛かってくる。
ガキンッ!
スコップで受け止めて距離を取らせる。
「粘着性の高い溶液を出せる奴はいるかい? ああいう魔物はベトベトにしてしまえば動きにくくなるんだ」
俺が指示を飛ばすと、スライムたちが一斉に粘液を吐き出した。
動けなくなったマシンゴーレムから、稼働している腕や首の隙間にバールを入れて、パーツを剥がしていく。パーツを食べようとするスライムもいたが、消化できなかった。
マシン族が使っていた潤滑油のオイルは食べられるようで、スライムの軍団はガブ飲みしている。そのオイルのお陰で移動する時に滑るようになり、移動スピードは飛躍的にあがった。壁や天井まで滑って楽しそう。
「楽しければ何よりだよ。そのうち、火を噴けるようになるかもな」
さらに奥へ進むと、大きな石壁の部屋に辿り着いた。
部屋の真ん中には宝箱の空き箱が山になって積まれている。
「ミミックの残骸か?」
どうせ大した宝なんかないだろうし、目的のスライムは使役できたので満足だ。とりあえず燃やしてしまって灰をスライムに食べさせてみよう。
枯れ葉を集めて空箱に入れて火をつけた。
「こらこら! 宝箱を即燃やす奴があるか!?」
宝箱の中からミミックが飛び出してきて、慌てて火を消していた。しかも喋れる魔物だ。ダンジョンマスタかもしれない。
「だって、見た感じ全部空だろ?」
「いや、空でも確認くらいするだろ? お前みたいなイレギュラーは初めてだ! 召喚罠のスライムを使役して、育てるなんて! 案内してくれるメガネグマがいただろ!」
「ああ、いたいた! 罠を解除したりしてたら完全に忘れてた。俺、ルートを間違えた?」
「そうだ。どうしてメガネグマについて行かなかったんだ!? お陰で宝箱もいいのが入ってなかっただろ?」
「そうでもない。スライムたちは喜んでいるよ」
スライムたちは部屋中を縦横無尽に滑っている。
「こっちのメガネグマは怒っているぞ!」
ガコンッ。
壁の隠し扉が開き、中からサイボーグ化したメガネグマが出てきた。ところどころ鉄だが、筋肉や毛がしっかりと残っている箇所もある。
「ああ、ごめん。ストーリーは追えてなかった。途中、マシン族の工房みたいなのがあったけど、あれは関係あるんだろ? 戻って確認してきていい?」
「ダメだ! 親とはぐれた上に仲間が食獣植物に食われて、逆襲のためにマシン族の博士に肉体を売る話だ」
簡単に説明してくれるのか。
「わかった。で? 俺たちは戦えばいいのか?」
「そう! これがボス戦だ!」
ミミックが宣言した時には俺は、アラクネの糸でミミックを縛り壁にぶん投げていた。邪魔者は退かしておく。
「よーし! ボス戦らしいけど、緊張することはない! 距離を取って相手の出方を窺おう!」
俺の掛け声に呼応するように、スライムたちは滑り出し、ボスのメガネグマサイボーグは雄たけびを上げた。
ぐぅううおおおおおお!
ダンジョンでのボス戦が始まった。




