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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
呪われた群島編

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161話「ただの枝で修業中!」


 ただの枝を使った修業は、数日にわたって続き、吸血鬼の死霊術師も協力してくれたお陰で、骸骨剣士の攻撃が見切れるようになっていた。


「筋肉がないからすごく動きが見やすいんですよね」

「タイミングを合わせようとすると、多くの魔物は本当に無理やり筋肉で身体を動かして無駄なエネルギーを使っているってことがよくわかりますね」

「これで威力が出るなら、中央でやっていた訓練は意味がちょっと……」

「ここから筋肉も使って、魔力も増幅させるとどうなっちゃうんですか?」

 リイサがリオに聞いていた。


「岩に穴を開けられる。ヒビではなく穴だ。本来、魔物や人間の実力をしっかり出せるようになれば、それほどスキルも必要なくなるだろ? スキルはあくまで補助程度に考えて自分の身体をどうやって使うのか、何をすれば使いこなせるようになるのか、ということに集中していくとコタローみたいになる」

「つまりスコップでヌシを仕留めたりするってことですか?」

「そういうこと」

 吸血鬼の死霊術師は石に座って、呆気にとられたように俺たちを見ていた。


「何度やっても勝てる見込みがないな。レベルってこんなに絶対的なものだったのか? 一応、魔物の歴史の中でも英雄と呼ばれた者の骸骨剣士もいたのだが……」

「こっちは筋肉がある分、合わせやすいだけです。海竜もこんなものではないんですか?」

「海竜が君たちと同じ実力だったら、群島はとっくに滅びているよ。参ったな。大陸じゃ、君たちみたいな実力者がゴロゴロいるのかい?」

「いや、いません。『闘竜門』ぐらいです」

 ロサリオがはっきり答えていた。今、吸血鬼を落ち込ませても仕方がない。


「正直、今までは数さえ揃えてしまえばどうにかなると思っていたんだ。だからこそ死体が多いこの島だ敵はいないんじゃないかと……。そういうことじゃないんだな」

「そうですね。数がいたところで、同じです」

 ラットマンは多産な上に成長も速いので、スキルもどんどん伸びる。吸血鬼とラットマンが組めば、衛兵の部隊でも手古摺るだろう。ただ、スキルに頼った戦い方をしている限り、動きは単調になりやすく対処法を知っている者を相手にすると、どうしても見切られて狙われてしまう。


「おそらく剣士や魔法使いとしての完成度は高いんです。でも、戦い方の基礎がない分、相手をする方は怖さもないんです」

 マーラは枝の一振りで、魔法も剣術も止めていた。いつの間にか達人のような成長を遂げている。


「でも、自分の実力を測るにはいい修行になったんじゃないか?」

「ええ。得体のしれない魔物への怖さが消えました。今はどこを見ればいいのか、タイミングを合わせる道筋を考えながら戦える気がします」

「そうなったら、ほぼ俺たちと変わらない。ツアーも終わりだ。最も海竜の被害が出る島へ行こう」

「「「はい」」」


 成長したツアー参加者との別れは少し寂しいが、このラッツブラッド島についてからもアラクネさんからの手紙は届いている。召喚術に関しては辺境でも探ってくれているらしい。ちなみに倉庫業の方はすこぶる順調だそうで、情報局も徐々に利便性が広まっているようだ。

 アラクネさんはクイネさんと共になぜか倉庫の中で俺を召喚できないか試していると手紙には書いてあった。俺が風呂に入っている途中だったらどうするのかと返信しておく。

 追伸として、海竜が出たら討伐してすぐに帰ると報告しておいた。


 定期船に乗り込み、吸血鬼とラットマンたちに見送られ、次の島へと向かう。


「海竜の発生も近いというのに、あんな島に行くのかい?」

 船長が俺たちを心配してくれた。


「群島で最も海竜の被害がある島に連れて行ってくれれば、後はこちらでやっておきますから」

「なぁに心配する必要はないさ。竜種としてお灸をすえておかないといけないってだけだ」


 ロサリオもリオも海を見ながらにやけていた。レベル50を超えて、ちゃんと全力を使う機会は少なくなる。普通の魔物の大発生程度では、ある程度計画を立てればすぐに終わってしまう。

 地域のヌシでも、俺が一人いれば十分だ。むしろ、周辺の住民との摩擦を減らし、いかに説得できるのかという方が重要になってくる。

 群島では捜査の依頼に重点が置かれ、さらにレベル上げツアーもあったので俺も含めて3人とも全力を出し切れていない。


 海竜は群島全域に被害をもたらしているようなので、こちらとしては思う存分叩きのめしていい相手だ。しかもツアー参加者もすっかり成長しているので、好き勝手やっていいと伝えてある。あとは島の環境を見て回り、しっかり準備をして海竜の群れを迎えるのみ。



「お三方とも、随分楽しそうですね」

「そりゃあ、そうさ。ただでさえ強い竜種が群れでやってくるんだぜ」

「丘の竜と海の竜の違いを見せてもらえそうなんでね」


 ナイフを研ぐ俺は何も言わないで、じっと島の陰が見えるのを待っていた。


「コタローさんは興奮しないんですか?」

「十分しているよ。野性の竜だからな。解体して素材にすれば高く売れる。だろ? 辺境にいい土産ができる」

「コタローさんの目的はお金ですか?」

「お金も事業の一部さ。すでに辺境では情報局ができた。人間の国とも連携すれば召喚術を習得する方法を探しやすくなる。そこから地上に巨大な商業ネットワークを作り出す。人間と魔物の差別もなくなって、産業は急速に発展するだろ? 俺が活躍できるのはそれからなんだ」

「え!? じゃあ、コタローさんって自分が活躍できる場所を作っている最中なんですか!?」

「まぁ、そういうことだな。もちろん倉庫業も運営して、人間や魔物のライフプランを考えていくのも面白いと思う。道中を楽しみながら、俺は自分の活躍する場を作っているのさ」


 まだまだ道半ば。目標は金なんかじゃなく、夢を追いかけてこその人生だ。

 挑戦心を失った企業戦士に価値がないように、夢を追えなくなった投資家に資産も現実も付いて来ない。


「おーし、見えてきたぞー! あれがミミック島だ。ダンジョンだらけで何が飛び出すかはわからん。宝だけはあるらしいが、腕のいいレギュラーでもない限り、足を踏み入れない方がいい。命の保証はしないぞ」


 船長は悪そうな顔で言っていたが、俺たちは武者震いが止まらなかった。


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