156話「血染めの男爵の屋敷跡」
包帯をぐるぐる巻いてミイラ状態になった吸血鬼とラットマンが3名、飛び出してきた。
「うわぁ、びっくりしすぎて心臓が飛び跳ねちゃったよ……。とりあえず召喚術の本を探しているんだけど、屋敷の中に入れてもらっていいかな?」
「はい。どうぞ……。無料なんで」
「あの、驚かなかったですか?」
ミイラの一人がリイサに聞いていた。難しい顔をしていたリイサだが、意を決して口を開いた。
「驚かなかったです」
リイサははっきりと感想を言っていた。そういう優しさもある。
ミイラたちは島の観光協会の若手たちだそうだ。
「おそらく多くの人たちが、この屋敷に資料を読んだり探したりするために来ているので、中のサービスを充実させた方がいいですよ」
「我々もそう思っているのですが、本からイフリートやウェンディなどの精霊が出てきてしまい、どうすることもできなくてですね……」
ミイラたちは、せっかく巻いた包帯を剥がしていた。
「そんな精霊がこんな島の本の中に閉じ込められているはずがないので、普通に古本に憑りつく悪霊かなにかです。コタローさん、退治してしまいましょう」
「そうだな。でも、驚かすなら、そういう悪霊本もあった方がいいかもよ」
「「「え!?」」」
「まぁ、いいか。とりあえず捕まえよう」
俺たちはラットマンたちに話を聞きながら、悪霊本を探しに向かった。
屋敷の中は蜘蛛の巣だらけで、床の絨毯も汚れている。これで呪いが発生しない方がおかしい。これも演出か。
「この蜘蛛の巣は、狙ってやってるんですか? それとも自然に?」
「自然にです。どこかにポイズンスパイダーと言う蜘蛛の魔物がいるはずなんですけど」
「あれだな」
本棚の裏に隠れていた中型犬サイズのポイズンスパイダーを投げナイフで一撃。ギュゥウというペットボトルがねじれるような声を上げて死んだ。
「いろんな魔物がいるようだけど、討伐していいんだよね?」
「はい……。全部野生の魔物だと思っていただいて結構です。そんなにいますか?」
「いるね。ゴースト系の魔物も多いでしょう」
「やっぱり!」
元ミイラの吸血鬼には思い当たることがあったらしい。
「何度も呻くような声が聞こえてきたし、空中に浮かぶ人影を見たような気がしていたんです」
「お化け屋敷じゃないか。そっちの方が観光客は来るんじゃないの?」
「でも、実際にいるとそれはアトラクションじゃなくて、普通に危険なだけなのでは?」
リイサの真面目なツッコミが入った。
「確かに。観光事業で死んでる場合じゃないな」
「罠は張りますか?」
「ああ、毒矢は効かないかもしれないから、回復薬を塗ったアラクネの糸を張ろう。あとはスコップで対応できるだろ?」
「そうですね。これスキルを調節しないと見え過ぎますね」
レベルが上がってスキルを取得したら、自分の感覚器官に戸惑うことがある。
「だろう? 感覚に慣れておいた方がいい。虫系も見えちゃうだろう?」
「見えますね。どうします?」
「煙で燻してしまおう。これ虫除けのお香ね。香炉か使ってないランプに入れて使えばいい」
「了解です」
俺たちはポイズンスパイダーを討伐して、ガーゴイル、骸骨剣士を捕縛。さらにゴーストテイラーと呼ばれる霊魂の魔物も数体、罠にかかっていた。
「頼む。解いてくれ!」
回復薬を塗ったアラクネの糸に縛られたゴーストテイラーは喋れるらしい。
「どこかに吸血鬼の死霊術師がいる。ガーゴイルや骸骨剣士もそいつに呼び出されて、この屋敷に縛られているだけなんだ。どうか俺たちを眠らせてくれ」
「そう言われてもな。とりあえず本の魔物はどこにいる?」
「南西の書庫だ。禁書区域になっているはずだが、雷魔法の罠が張られているから無理だぞ」
ガーゴイルも説明してくれた。喋れるなら野生の魔物じゃないのか。古い魔物と新規の魔物が争っているだけなのかもしれない。
「無理かどうかはやってみないとね」
一見普通の書庫に見えるが、そこら中に罠が張られ、本から偽の精霊が現れるという。書庫ではなく、銀行の隠し金庫なのかもしれない。とりあえず、罠はすべて解除し、本を調べる。
「魔力が溜まってるんで、すぐにわかりますよ」
「これって、元々本だった物が魔物化しているのか?」
「いや、本になり切れなかったものが魔物化しているんです」
「じゃあ、中の文章は意味をなさない?」
「ええ。むしろ意味があると魔物化しません」
俺は魔力が溜まった本を抜き出して開く前にナイフで表紙に穴を空けた。
ギャッ!
どろりと血が流れて、本の魔物は絶命。本を開くと偽の精霊だった魔力の塊が丸い魔石を吐き出していた。
「これは楽だな。どんどんやっていこう」
書庫で本の魔物を討伐し、そのまま書庫にあった本を物色。死霊術の本や召喚術の本もあったので、大収穫だ。
「よし、片付けて掃除しようか」
「結局、ゴーストテイラーたちを呼び出した死霊術師はいないみたいですね」
「ああ、どっかに隠れているのかな。もし、儀式の跡や隠し部屋があったら教えてくれ。『もの探し』で探し出せるから」
「コタローさんは探知スキルを上げてないから、捜査が楽なんですね」
『もの探し』のスキルは追跡にはものすごく向いている。
「スキルを上げないようにするのも成長戦略だからね。ちゃんと考えてスキルは取るように」
「そうですね」
呼び出されたゴーストテイラーや骸骨剣士、それから屋敷の周りにいた観光協会の吸血鬼やラットマンも呼んで、全員で屋敷を掃除する。
「随分ほこりが溜まっていますね」
「放置されていたんだろう。でも、魔物が出入りしていたからか、体液から何かの骨まで絨毯の下に隠してある。酷い臭いだ」
すべての窓を全開にして順番に掃除していく。台所やトイレ以外は本棚があり、血染めの男爵は本好きだったことが窺えた。
「コタローさん! 隠し部屋があったみたいです」
「そうか。死霊術師に繋がるものはあったかい?」
「それが……」
隠し部屋は台所の地下にあり、ところどころに灰の山があった。死霊術の儀式中に死んだらしく、儀式用品に『もの探し』のスキルを使うと、灰に辿り着いてしまう。
「死霊術師が死んだのか?」
「だったら、どうして俺たちは消えていない?」
ゴーストテイラーと骸骨剣士が互いを見合わせていた。
「吸血鬼が死ぬと灰になるらしいんです」
「ああ、そうなんだ。でも、日に当たっても灰にはならないんだろ? どうやって死んだんだ?」
「それは……、謎ですね。血染めの男爵も死霊術の実験中に灰になったと酒場のマスターは言ってましたけど……」
「この吸血鬼たちも実験は成功したってことだな。実験のレシピがないか探してみよう」
俺たちはその後、地下室をくまなく探してみた。薬の瓶に魔法陣、まじないのネックレス、高価な指輪、宗教の本など、吸血鬼が死に繋がりそうなものはいくらでもある。
「つまり、こいつらは死ぬ実験の最中に、俺たちを呼び出したのか?」
「せっかく眠っていたというのにいい迷惑だ」
呼び出されたゴーストテイラーや骸骨剣士たちは面倒だろう。
「自分で死ねるんだ……」
観光協会の吸血鬼は、口を開けて驚いていた。




