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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
呪われた群島編

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154/226

154話「ねずみと吸血鬼の島」


 翌朝、トレントの町では支柱トレントが壊した瓦礫の撤去や老樹トレントの周辺にいたアルラウネなどの捕縛があった。修業と称して酒を飲んでいた駐在が谷まで連れていくらしい。


 山の裏側にいたトレントの若木たちは順次引っ越してくるとのことだ。潮風への対策も始めると管理していたドルイドは言っていた。


 俺たちはというと、コロシアムで海竜対策についてフロッグマンたちだけでなく泥人形など闘技者たちにも教えておく。


「海竜は火を噴けないから、アラクネの糸でも固定できると思うんだ。粘着性の高い溶液も有効だから、大陸から輸入するといい。動きを止めてからゆっくり逆鱗を剥いでとどめを刺していくといい。しっかり解体できれば、大陸にいる商人たちも買い取ってくれるはずだから島の収益になるぞ。当然、コロシアムまで連れてくるにはフロッグマンたちが作った薬もかなり重要だから、霧状タイプの眠り薬は作っておいて損はない」


 リオは自分がわかることに関しては雄弁で、俺とロサリオの出番はなかった。

 

「倒す魔物がいなくなってしまったな。次の島に行くか」

「酒場の女将に報告をしておこう。皆、今回はそんなにレベルが上がらなかったな?」

 ロサリオはツアーを忘れていなかった。


「いえ、意外と上がってますよ。後半一気にきました」

「私もです」


 イザヤクとマーラたち人間はレベルが上がったらしい。


「レベルは上がらなかったですけど、スキルの使いどころみたいなものはわかりました」

「視線の違いが戦略に影響して、戦術を変えていくというのがわかったんで、私たちとしては違うレベルが上がりましたね」

「出来上がった仕組みを壊す大変さはわかりました。いや、予想外のことがあって、こういうルートがあるとは思わなかったです」

 アーリャとハピーは今回俺と一緒にいた時間が長かったので、思考が深まったらしい。リイサは青蛙仙人を潰した犯人は、大きな壺の魔物だと思っていたらしく、支柱トレントだったことで焦ったらしい。


 だいたい、ツアー参加者はレベル40になったらしい。ここに来て人間が伸び始めている。

「落ち着いて観察できる状況に持って行くことが大事だなと、俺も再確認したよ」

「後はもうわかっているとは思うけど、自分が得意なことがわかってきたら、それを伸ばすようにね。ツアーが終わった後、人間の二人はどういう仕事がしたいのか、魔物の3人は中央の軍に留まるのか、それとも地方勤務を願い出るのか、いろんな選択肢が見えてくると思う。どういう位置に行きたいかよりも何がしていたいかが結構大事だから、よく考えておいた方がいい」

「わかりました」

「コタローさんの倉庫を手伝うという選択肢もありですか?」

 リイサは、かなり迷っているようだ。罠を仕掛ける時はどうしても道具とスペースが必要になってくる。中央の軍にいるよりも、辺境にいた方が実践的だ。


「構わないよ。一緒に倉庫業をしながら、『奈落の遺跡』探索をするなら歓迎する。ただ、俺はいないかもしれない。召喚魔法とか召喚術をどうやって流通に役立てるかということを考えないといけなくなったから」

「え? そうなのか!?」

 ロサリオも俺を見て驚いていた。

「うん。むしろなんで気づかなかったんだろうというレベルだ。位置替えの魔法もそうだけど、ワープって相当な技術革新になるよ」

「そうだけどさ……」

「次の島は、召喚術を学べるところだといいんだけどな」


 コロシアムでリオの講義が終わったところで、俺たちはフロッグマンたちの町へと戻った。酒場には俺たちへの報酬として回復薬や各種毒薬などが置かれている。リオたちはいらないそうなので、使う分以外はほとんど辺境へ輸送してもらった。



「ありがとね。だいぶこの島も変わるわ」

「山同士の交流も増えていくといいですね」

「しばらくドルイドの爺様たちに頑張ってもらうつもりよ。島のヌシがお山のてっぺんまで行ったんだったら、こちらも商売はやりやすくなると思う。虎の威を借るきつねがいなくなったからね」


 老樹トレントの威を借るアルラウネか……。この島の呪いだったのだろう。

 俺たちはフロッグマンたちに見送られ、定期船で次の島へと向かった。


 船は魔物が住めないような小さな島をいくつも越えて、古い港町がある島に辿り着いた。


『ようこそ、ラッツブラッドへ』という観光案内の看板は錆びていて、ペンキは剥がれている。


「これ、わざと錆びさせているんじゃないですか?」

 リイサは、そう言って看板を触っていた。錆びさせたようなペンキを塗っているらしい。

 街並みも古く見せているが、かなり新興住宅地だそうだ。


「観光業さ」

 顔がネズミの魔物が教えてくれた。ラットマンという種族らしい。


「ここは農業も盛んだが、ずっと曇りでね。雨の被害も多いんだ。なかなか魔物も来ないんだけど、幸い吸血鬼が多く棲みついているから、彼らに観光事業を立ち上げてもらって町を改装しているところなんだ。まぁ、彼らは長生きだし、夜型だからのんびりやってるよ。あんたたちも移住を考えているのかい?」

 どうやらラットマンのおじさんは俺たちも吸血鬼だと思っているらしい。


「いえ、俺たちは人間の旅行者です。辺境の町が繋がって群島まで旅をしに来たんですよ」

「え!? そうか!? いい時代になったなぁ!」


 ラットマンは笑いながら町へと急いでいた。もしかしたら俺たちは狙われるかもしれない。


「いい修行になりそうだ」

「どうする?」

「とりあえず酒場に行って、仕事を探してみるか」

「吸血鬼ってちょっとやそっとじゃ死なないんですよね?」

「魔法の実験にはもってこいってことですよね?」

「魔物たちは気を付けろ。人間にはヴァンパイアハンターの血が流れていると思った方がいい」

「うちの人間たちは血の気が多いんだから、少し吸ってもらった方がいいんじゃないか」

「コタローさん、吸血鬼は知識は豊富なんで、召喚術を知っている者もいるかもしれません」

 アーリャがいい情報を教えてくれた。


「そういや図書館の司書も吸血鬼だったような……。よし、召喚術について調べるか」


 この島での目標はすぐに見つかった。


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