151話「蛙島で海竜の対処法を考える」
翌日、隣の山の港町まで戻り、酒場で青蛙仙人殺害事件について報告。また、老樹トレントの状況と周囲についてもフロッグマンの衛兵にも報告しておいた。
「そんなことになっているなんて……」
「私たちが知っているのは、せいぜいコロシアムで誰が人気だったかってことくらいさ。山を越えればどうなっているかなんてまるで知らないね」
薬屋の婆さんも、落ち込んでいた。
衛兵は仲間と一緒に、支柱トレントの逮捕状を取りに行き、協力したドルイドの捜索を始めた。
「島をどうやって運用するのかはわからないが、とりあえず海竜の恐怖だけで、隣の山が崩壊している。魔物攫いも現れているし、時々、市中で興奮剤の実験も行われているようだ。ここまで報告しておく。あとは島民たちに任せる……、と言いたいところなんだが……」
酒場でリオが腕を組んだまま考え込んでしまった。
「どちらにせよ海竜には対応しないといけないんだろ? どうすりゃいいんだ?」
酒場の店主がミルクを出しながら聞いてきた。
「それについては昨日考えてたんだけど、コタロー、説明をしてやってくれ」
「いろいろ考えたんですけど……、位置替えの魔法があって、惚れ薬と興奮剤があるのに、対処できないなんてことはないんじゃないですか」
「いや、それを教えてくれ」
「単純ですよ。そもそも海にいる海竜がどうして島にわざわざ来るのか。繁殖のためじゃないんですかね? 食料不足のためだとしても、毒はかなり仕掛けやすいですよね。餌を用意しておけばいいだけなので……」
「確かにそうね」
薬屋の婆さんが頷いていた。
「どちらにせよ位置替えの魔法を使えば、海竜の胃袋に収めることは可能でしょう。罠を使ってもいいし、コロシアムのど真ん中に海竜を一体ずつ放り込んで、戦闘不能にしていくのもいい。惚れ薬を使ったら海竜の同士討ちを始めるんじゃないですかね。そうなるとトレントの若木を集める必要がないというか……。老樹トレントの計画がそもそもズレているので、止めた方がいいとは思いますけど……」
「じゃあ、武力はそれほど必要じゃないのか!?」
酒場の店主は、大きな口を開けて聞いてきた。
「別に長期戦じゃないのであれば、武力は必要な時に必要なだけあればいいですからね。薬で混乱させることができるなら、あとはタイミングを見計らうだけです」
「やっぱり結論はいつだって精度とタイミングに行きつくなぁ……」
ロサリオは感心していた。
「戦う者たちからすればそうかもしれんが、町に住む魔物からするとただ怖いだけだぞ」
酒場の店主は、フロッグマンとして大きな体をしていても腕っぷしは全然弱いらしい。
「慌てて興奮してしまい、敵の動きが見えていないってことは自分たちでもよくありますよ」
「強くなればなるほど、相手を理解すればするほど心理戦になっていきます。これは剣でも魔法でも同じだと思います」
イザヤクとマーラが説明していた。
「じゃあ、やっぱり海竜に慣れるには俺がコロシアムで戦うのが、一番手っ取り早いんじゃないか?」
リオがドラゴンの姿を見せれば、ある程度海竜への心理的な対策も立てられるかもしれない。
海竜が大発生したとして、この島で対応するならアルラウネが育てた毒草を使い、フロッグマンが調合した薬を使うのが一番だ。余計な戦いを避けて、位置替えの魔法を使えるドルイドの老人たちを組織するのが最も効率がいいと言える。
「この島は、普通に暮らしている住民たちが優秀なので手を取り合って対処すればいいだけなのに、統率している人たちの権力欲によってかなり歪んでしまっているように、外からは見えます。おそらく本来はずっとそうやってきたんだと思うんです」
「そうね……」
「島の運営など面倒なことは任せきりだったからか……。商店街の魔物たちにも言っておく」
「わかったよ。私も仲間の薬屋たちにも言っておく」
早急な対応はできないかもしれないが、準備だけはしておかないといけない。
「ということで、二班に分かれよう。リオとロサリオは、イザヤクとマーラを連れてコロシアムに行ってくれ。道具も罠も使い方をちゃんと教えれば海竜には対処できるだろう。リイサも付いていって、わからないようだったら教えてあげてくれ」
「「了解」」
「わかりました」
「ハピーとアーリャは、ドルイドの老人たちをスカウトして位置替えの魔法の継承と、毒草の買い付けと運搬かな。薬屋のお姉さん、なるべく大勢、薬師を集めておいてください。どれくらいで興奮剤や惚れ薬が作れるのか、麻痺薬、眠り薬でもいいのかを試していった方がいいと思います。あとは毒の消費期限も考えた方がいいと思いますし」
「わかったわ。結構、私たちって重要なポジションなんじゃない?」
「そうですよ。島にはたくさんフロッグマンがいるのだから、もっと島の運営に口を出していった方がいいんじゃないですか。少なくとも、隣の山の老樹トレントは周囲の傀儡になっていますから」
俺たちは酒場から出て、それぞれの方向へと走り始めた。
「コタローさんは、何をすればいいのか見えてるんですか?」
ハピーが俺の横を飛びながら聞いてきた。
「え? なにが?」
「だって、海竜を毒薬で対処するってフロッグマンたちがほとんど諦めていたことじゃないですか」
「ああ、なんでも使い様によっては役に立つでしょ。バカとハサミでも使い様っていうし。あと、島の魔物は生きていかないといけないわけで、海竜の対処って島民全員が関わることだよね? インフラそのものというか、嵐が来たら、窓に板を打ち付けるようなもので特定の誰かに対処してもらえれば、生活は成り立つってわけでもないでしょ。皆で対処するしかない」
「た、確かに……」
「今、島にある物や技術を見ていけば出来るのに、格差を作って対応しようとしているのってバカバカしくないか? 俺がいた前の世界でもこういうことは見ていたんだけど、小さな界隈で決めたことが、国民全体に被害を広げていくということはあることなんだ。ただ、ミスしたときはミスしたってちゃんと認められないと、ぐずぐずのまま何十年も被害が続くんだよ。この島で言えば、もう老樹トレントに判断能力はないでしょ? これが島全体に広まらないと、新しい島の長は出てこないわけだ。トレントの町ではうすうす皆気づいているんだけど、島の反対側では知らされてもいない。老樹トレントの周囲は隠蔽できると思っていたんだろうね。でも、青蛙仙人の死もあって、俺たちが町に行ってバレちゃった」
「バレちゃいましたよね」
「でも、運営側って、その権力のために働いてきたからバレても続けようとするんだ」
「それって、判断能力がなくなっていきませんか。思っているのに、やっていることを変えられないってことですよね?」
アーリャが聞いてきた。
「まったくその通り。だからこそ、どんな人間、どんな魔物でも命を守り、自由な思考、行動に対する責任を持たせないといけないんだよね。特に子供とかは、責任を取れないから親が見ていないといけない。これが、人間でも魔物でも大人の責任なんだと思うよ。今は老樹トレントに全責任を押し付けてるけど、海竜が現れたら、自然と周囲は捕まっていくんじゃないかな」
「老樹トレント周りは考えないといけないことだらけじゃないですか?」
「そうだよ。だから、俺たちはその隙に、どんどん動いて山同士の仕事を繋げてインフラを整えちゃえば、海竜にも対処できるし、老樹トレントの計画は丸つぶれ。トレントの若木に対する格差もなくなる」
「じゃあ、今はいいタイミングなんですね」
「そういうことだ。ついでに、魔物攫いとか興奮剤を作っている薬屋を見つけたら、老樹トレントに起こっていることを伝えていこう。あとは、海竜の対処法も教えてやろう。薬を使った方がどう考えても簡単だからさ」
「そうですね」
アーリャはウェアウルフだし、ハピーはハーピーなので、移動速度は速い。俺もレベルは50以上なのでどうにかついていけるが、レベルの補正がなければついて行けなかっただろう。
ツアー参加者たちは着実に成長している。




