142話「第二の島はカエル島?」
群島第二の島はカエルの島だった。フロッグマンや大蝦蟇がいる。ただ、昆虫食がメインで、人間にとってはかなり大変らしい。
「昆虫が主食ですか?」
マーラとイザヤクは顔が青ざめている。店先に並ぶ、イナゴやバカみたいに大きなカブトムシの幼虫なんかは、確かに雑食の俺でも「おおっ!」と思わず唸った。
「小さい魚も食べるし、蜂蜜パンなんかもあるみたいだから心配するな」
「やはり薬学・毒薬学にはかなり精通している」
「すごい! 毒で竜まで倒しているらしいです!」
「竜でも食い物には勝てないからな」
リオは食事に酒を仕込まれて人間に倒された古竜の話をしていた。
「タバコも多いな」
「あの飴はなんだろう?」
「薬飴らしいですね。匂いがすごいです」
鼻のいいウェアウルフのアーリャが教えてくれた。
「毒を揃えた方がいいですかね?」
リザードマンのリイサはやはり罠に使う毒が気になるらしい。
「くらくらしますね」
ハーピーのハピーは薬の匂いにやられている。
「どうする?」
「金はある。宿を取ろう。できるだけ、薬と毒について学ぼう。強力な毒じゃなくても有用な物もあると思うし、毒に対する対処法や解毒薬の作り方、症状なんかも重要だと思う。これだけ多いから、幻覚剤系もあると思う。島外に出たらヤバい薬もあるかもしれないから、なるべく見つけよう」
「意外と、弱毒系の方が厄介な場合はあるからな。もう、皆、戦いには慣れているはずだからわかると思うけど、感覚器官を一つ狂わされると、一気に形勢が逆転することがあるんだ。特に気づかぬうちに視覚に頼っているから幻覚、目くらまし系は戦闘においてはかなり有効だからな」
リオもしっかり教えていた。
「目が見えなくなったら、音で判断すればいいんですかね?」
イザヤクがロサリオに聞いていた。
「いや、魔力の雰囲気だな。急にバカでかい音を立てて三半規管を混乱させようとする魔物もいる。普段、なんとなくだけどそれぞれの魔力の雰囲気って感じ取っているんだ。それをちゃんと感じ取っておくのは相当大事なんだよ。だから、何度も手合わせはした方がいい」
互いの魔力の流れを感じ取る手合わせという修行がある。ほとんど魔法を使わない俺もリオとロサリオとは何度もやった。
確かに色と言うかリオの生真面目さや、ロサリオの明るさは魔力に出る。
「性格って雰囲気にも出るだろ? マーラはローブをいつも洗濯しているからきれい好きとかさ」
「それは汚れると精度が落ちる気がしているだけですよ。雑でも頑丈な魔法壁を作る時は全然汚れていてもいいんですけどね」
「実は、マーラは気分屋なんですよ。気に入ったアクセサリーとかを付けているときは魔法の壁の質も違うというか……」
リイサはマーラをよく見ているらしい。
「へぇ、自分でも自覚はあるのか?」
「あります。アクセサリーとかは作った人のデザインセンスまで受け取っているような気がしてかなり高揚してます」
ツアー参加者たちは自分たちのことをよく観察できている。
「じゃあ、呪いのアクセサリーとかはわかるのか?」
「禍々しさがあるものはわかりますけど、きれいだなと思うものでも意外に呪われていることがあるじゃないですか? だから、ちょっと場合によります」
「まぁ、そうだよな。酒場でレギュラーの仕事も見てみよう」
「了解です」
「そういや、なぜかフロッグマンの女性たちが、コタローさんを見てましたけど、なんかあるんですか?」
「ああ、それは、フロッグマンたちもどこかで商売っ気を感じ取っているのかもね。辺境でも好かれてたから。交渉するときはしっかり数字出していくと話を聞いてくれるかもよ」
「じゃ、それぞれまた分かれていくか。海竜の情報も忘れないようにな」
「了解です!」
俺は再びリイサと組んで、町へと繰り出す。
「とりあえず、薬屋に行くか」
「そうですね。各種解毒薬も欲しいですし」
「辺境に手紙も送らないとな」
「コタローさんはマメですよね」
「出張中だからだよ。屋台で適当につまみ食いもしよう」
「いいですね」
屋台で、幼虫の串焼きを食べつつ、手紙を書いて辺境へ送る。だいぶタイムラグはあるだろうが、魔物の配達物はちゃんと届く。
薬屋はガマの幻覚剤も含めて、いろんな薬を取り揃えていた。漢方に似ているだろうか。草木はもちろん、木の実や花、魔物の粘液、魔物の干物などが置いてあり、薬研で砕いて客に合わせて作るらしい。
「何か入り用かい?」
中年のフロッグマン女性が店主らしく、人間なんて珍しいといろいろ聞いてきた。
「ええ、ちょっと狩り用の毒と解毒薬が欲しくて。ここの店にある商品は全部、この島で採れたものですか?」
「そうさ。人間の兄ちゃんは普段どこに住んでいるんだい?」
「辺境にいますよ。フロッグマンの集落とも取引してます。ガマの幻覚剤はかなり効果があるので」
「ああ、やっぱり辺境かい? 取引ってことは商売をやってるんだね?」
「ええ、倉庫業を」
「倉庫? 辺境で? そりゃあ、また珍しいね」
「アラクネ商会と言います」
「アラクネと商売をする人間かぁ……。いやぁ、新時代だね」
「レギュラーとしても優秀なんですよ」
リイサが余計なことを言っていた。
「ええっ!? そうかぁ」
「レベルが高いだけで、なかなか魔物の依頼は難しいですよ」
その後、狩人に売れ筋の毒草と解毒薬を調合してもらい、取引先として登録してもらった。
「いやぁ、人間と取引する日が来るとは思わなかった。薬師たちの研究所が山の方にあるから、行ってみるといい」
薬師たちは沼地にいかだを作り、その上に平屋を建てて沼に浮かびながら研究をしているのだとか。
「この島の薬学は自然が大事だからね。魔力に頼らず、海の竜にも勝てるよ」
「そりゃすごい」
「しばらく、島にいるのかい?」
「そのつもりです」
「だったら、惚れ薬を作ってる青蛙の仙人が住んでるダンジョンがあるはずなんだ。ここ数年、姿を見てなくてね。死んでるなら、ちゃんと葬ってやりたいから探してみてくれるかい?」
「わかりました」
俺たちは薬屋から出て、酒場へと向かった。
酒場の店主に聞くと、確かに青蛙仙人は行方知れずになっているとか。
「なんか、惚れ薬を作っていると聞いたんですけど……?」
「ああ、昔な。海の竜を惚れさせて使役しようとして失敗していた。逆に自分が惚れやすくなってしまって結構大変だった事件があるくらいさ。でも、効果は抜群だから、惚れさせたい相手に飲ませようとする奴らは後を絶たないね。まさか、人間のお前もそれが目当てとか?」
「いや、この島に来て初めて知りました。その惚れ薬を飲んだ魔物か、惚れ薬の瓶でもいいんですけど残っていませんか? スキルで探せるかもしれないので」
「ああ、たぶんコロシアムにいる」
「闘技者が飲んだんですか?」
「パトロンが面白がって飲ませたんだ。泥人形にな。まぁ、そのお陰で不思議な踊りを覚えて、今じゃコロシアムの英雄さ」
「へぇ~」
「ジニーっていう名前だからコロシアムに行けばすぐにわかると思う」
「ありがとうございます!」
「青蛙仙人の捜索依頼、請けるのか?」
「ええ、お願いします!」
俺たちは島の反対側にある港町へと向かった。どこの港町にもコロシアムがあるのだろうか。




