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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
アラクネさん家

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14/226

14話「ついに見つけた廃坑道!」


「見つけた! ここだ」

 地図を見ながら、道から近い場所に廃坑道の入り口を見つけた。岩に塞がれ、土がかぶり、草が生えている。潰れてから30年近く経っていて、探そうと思わなければ見つからない。


 つるはしとスコップを持って、とにかく掘り進める。俺もアラクネさんも山で鍛えられているかと思ったが、岩を割るのに苦労した。


「これこそ人を雇うべきじゃない?」

「本当にそうだ。でも、とりあえず、小石や土は取り除けるから、それはやってしまおう」

「うん」

 

 大きすぎたり固すぎる岩はそのままにして、土砂や自分たちでも持ち上げられる岩を退かしていった。てこの原理で持ち上げたり工夫はしてみたものの、どうやっても動かせない岩というのが出てくる。


「何をやってるんだ?」


 温泉に入りに向かう途中の、ドワーフの爺さんが声をかけてきた。


「廃坑道を借りたんですけど、入口がこれで……」


 大きな岩を見せると、爺さんは「つるはしじゃダメだ。ちょっと待ってな」と道を戻って、わざわざ採掘用の杭とハンマーを持ってきてくれた。


「納屋でほこりをかぶっていた奴だが、まだ使えるだろう」

「貸してくれるんですか?」

「いいよ。やるよ。もう誰も使わねぇんだ」

「そうなんですか?」

「ああ、採掘屋たちも皆、別の鉱山に行っちまったからな」


 もう工員はいないのか。


「また、何の商売を始めるつもりなんだ?」

「倉庫業ですよ」

「倉庫!? こんなに土地が余ってるのにか?」

「屋根があるところは限られていますからね」

「そうだな。まぁ、がんばれ」


 ドワーフの爺さんはそう言って、温泉に向かった。


「じゃあ、やりますか」

「使い方はわかりますか?」

「一応、なぜか映像として記憶がありますね」

 

 前の世界ではソーシャルネットワークや動画サイトがあったから、使い方自体はわかる。果たしてうまくいくのかはわからないが、とにかく小石で岩に線を引き、杭を打っていく。

 

 コンッ!


 手を挟みそうで非常に怖い。その上、全然岩に杭が突き刺さらない。


「ちょっと待っててください。火箸を使いましょう」


 アラクネさんが、家から火箸を持ってきた。アラクネさんが杭を挟むように火箸で掴み、思い切り、ハンマーで叩いた。


 ようやく突き刺さる。

 書いた線上に杭を打ち込み、ようやく岩が割れた。


「すごい大変ですね」

「本当に……」


 岩を割るという作業がこれほど汗だくになるとは思わなかった。しかも、割れたのは岩からすればほんの欠片程度。石工を雇えないか真剣に考えた。


 とにかく、翌日も岩を割る作業を二人でやる。


「絶対、温泉の経営をしていた方が儲かりますよ」

「今はそう思うかもしれないけど、上手くいくとやっていることの質が変わってきますから。流通は、暮らしに直結しているんです。きっと人間と魔物の暮らしを変えられますよ」


 アラクネさんもなかなか人間と魔物が交わらない町を見てきた。


「経済合理性だけを考えれば、確かにもっと儲かる仕事はあると思いますが、長く利益を追求して、町の人たちと密接に繋がろうとすれば、重要な業種になってくるんです」

「コタローに見えていても、私には……」


 カツンッ!


 岩がまた少し割れた。


「想像できませんか?」

「倉庫なんて、ただ保管しておくだけでしょ。いや、もちろん食品を腐らないようにしたり、顔が見えないことで人間と魔物の距離も近くなったりすると思うけれど……」


 やはりちゃんと説明しないと倉庫業への自信は湧かないか。


「そうだよね。なかなか理解しにくいよね。今、町に届けられる品物ってどこに集められる?」

「商人ギルド? それから行商人たちは広場に集まるわよね」


 割れた岩を運びながら、説明する。


「逆に町から出ていくのはなに?」

「商品はないんじゃない? お金と人間や魔物……」

「つまり空馬車が戻っていくだけ? それって商売する機会を失っていないかい?」

「確かにね。でも、毛皮なんかは運んでるんじゃない?」

「アラクネさんの糸は?」

「それは……、冒険者ギルドが買い取ってくれていて」

「物流に乗ってないんじゃない?」

「町の外に出てないってこと?」

「そう。この状況って、おかしくないか? 魔物の生産品が、町から出てない。人間と魔物の町なのに」

「でも、それは商人ギルドが管理しているからじゃ……」

「そうなんだけど、人間の商人が自分たちにとってわかりやすいものしか取り扱ってないんじゃないかな」

「言われてみると、そうかもしれない。でも、広場の屋台の魔物でも小麦粉は売ってくれてるって言ってたけど?」

「小麦は人間の領地から来た商品でしょ。魔物によって生産されたもの、魔物由来の商品が人間の市場に現れていないんじゃない? この町の強みを活かしきれてない」

「確かにそうね」


 アラクネさんが頷いた。この辺境の町は人間と魔物が交差する町だ。物流の交換が出来ていないのは、どちらにとっても町を作った意味がない。


「もちろん、魔物の商品だけを保管するわけじゃないけどね。初めは小さくても構わないから、人間と魔物、どちらの商品もどちらの領地の流通にも乗るようにしたいんだ。今の状況はあまりに人間の商売に有利になり過ぎている。バランスが大事だよ。争いが起こる原因になる」

「魔物は種族意識が強いから、それぞれの種族単位で商売をしようとし過ぎるのかもね。だから、小さくまとまってしまうのかも」

「今は、冒険者を見ると、あまり種族間の対抗意識は薄い気がするけど」

「この町だけではね……。でも、コタローが何をしようとしているのかよくわかった。そうか。ただの倉庫じゃなくて物流の拠点かぁ」


 アラクネさんは本当に理解力が高い。


「ここは辺境でしょ。だからどっちにしろ地域社会への貢献をしないといけない。だったら、種族に関係なく雇用を生み出せるような商売の方がいいと思うんだよ」

 背負子さえあれば、だれでも町へ配達に行けるし、行商人にもなれる。


「そうね。山の方は魔物の領地に近いし、立地もいいかもしれない」

「魔物の国には都市ってないの?」

「旧王都はあるよ。でも、今は種族別の地方都市になっているね」

「どうにか連携を取れれば、商品の開発も町でできると思うんだよね。需要がわかれば、一気に商品を全国に広げられる」

「そこまで考えてるなんて、道のりは長いわね」

「本当はもっと長いよ」

「えっ! コタローはどこまで考えてるの!?」

「雇用した人たちのライフプランまでさ」

「はぁっ!」


 さすがのアラクネさんも呆れていた。


「だって、商売には浮き沈みが必ず出てくるでしょ。猟師だって何も獲れない時期だってある。その中でも仕事をして利益を上げられるようにさ。辺境の町は文化の交差点なんだから、そのためにはどういう教育が必要なのか、集まってきた商品を見て、需要と供給を見ながら一番早く考えられるのは倉庫じゃないかと思ってね」

「そうかぁ。そうよね」


 アラクネさんは別のことを考えていた。


「コタローはちゃんと全部商売や生活に結び付けられるのね。私は、魔物の地方都市と提携して、利益を上げようものならすぐに乗っ取られてしまうからどうやって防衛しようか考えていたけど……。長期的な目線の方が大事よね」

「倉庫ごと物流を封鎖してしまえば、利益を上げられなくなるからね。奪ったところで、そんな魔物たちと商売なんかしないでしょ」

「なるほど、商売は信用ね。だったら、奴隷の教育を始めてみたら?」


 そう言われて、一瞬言葉を失った。


「実は、自分が元いた世界の国では奴隷が禁止されていたんだ。だから、どうしても避けて通りたいという気持ちが出てきちゃうんだ」

「コタローにも弱点があるのね」

「そうだね。自由意志がないとか、自分の考えがない人たちって、扇動されたら無実の人でも袋叩きにしそうで怖いだろ?」

「奴隷が怖い、か。そんなこと思ったこともなかったわ。でも、町には人間の奴隷商も魔物の奴隷商もいるでしょ?」

「その上、冒険者たちが仕事もなく余っている。なのに、建築するための大工は不足している。需要と供給が間違ってるんだよ。しばらくは仕事のない冒険者を雇うつもりだよ。なるべく魔物をね」

「コタローの話を聞いていると随分儲かりそうなんだけど……」

「邪魔さえなければ儲かると思うよ。資本主義経済は初めに稼いだ人が正解さ」

 ファーストペンギンは儲かる。


「まぁ、それより、まずは倉庫を作らないとね」


 話し過ぎて全く作業が進まない。

 それでもようやく中が見えるところまで来た。

 

 中の骸骨剣士がこちらに気づいて、小さな穴から剣を突き出してくる。


 カランッ。


 剣は振れるわけではないから、石で殴ればあっさり落とす。


「鉄の剣か。倉庫をやるにも、中の掃除が大変だ。早くやらないと商売がバレちゃうよ」

「焦ってもしょうがないわ。それにコタローが考えているような商売を盗む魔物も人間もいないわ」

「そうかなぁ」


 剣を拾って、担いで帰った。




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