137話「研究員となりたての山賊」
「盗難被害?」
「はい。塔の研究している呪具が度々消えるんですよ」
蛇の二股の尻尾を足に持つエキドナの研究員が答えた。
「蛇バトル関係ですか?」
「あ、もう知られているんですね」
「ええ、なんかお金をかけたりするんでしょうか?」
「そうですね。島には楽しみが少ないですから。路上でぱっとできる楽しみだったんですけど」
「一対一で戦っている途中に横やりが入ったりはしないんですか?」
「横やりが入ったら、その蛇を使役している者から全額払わせることになっていて、意外とルールが厳しいんですよ」
「へぇ、意外」
「まぁ、蛇系の魔物は縛るのが得意なんで」
「なるほど。それで、何を盗まれたんですか?」
「呪いの牙とか、混乱させるチョーカーとかなんですけど……。たぶん、他の塔でも似たようなものが盗まれていると思います。捕獲用のトングとかフックみたいなものも結構盗まれるみたいなんですよ」
「普段は蛇を使って実験してるんですか?」
「そうです。蛇は生命力が強いから、呪いを細かく分析するのに向いてるんですよ。せっかく蛇島を謳っているので、蛇への理解が深まるのはいいことなんですけど……」
「ちょっとやりすぎなんじゃないかと」
「そうですね」
研究員は汗を拭いながら、盗品を取り戻してほしいと言っていた。
「犯人は近くにいるってことですかね?」
「仲間の可能性も確かにあるんですけど、鍵をしていなかった日が数日あって、外部の可能性もあるというか……。防犯対策はしているつもりなんですが……」
とにかく呪具の研究員には自信がないようだ。
他に被害があったという幻惑系の魔法を研究している塔のゴルゴン族にも話を聞いた。
「マジで、アホが盗んでいくのよ。研究してるんだって言ってもわかってないんだよね。測定していた魔石から何から全部取っていくんだよね。犯人はレベル13のラミアってところまでは計測で出てるから、とっとと捕まえてくれない?」
「この島だと、そんなラミア多いでしょ」
アーリャが呆れていた。
「いや、そうなのよ。多いのよ。足跡がないのが問題でどういう罠を仕掛けたらいいの」
ゴルゴンの研究員はかなりいろいろ犯人捕獲のために動いているらしい。
「ちなみに、どうやって犯人の種族とレベルを計測したんですか」
「このゴルゴンの目っていう魔道具で……、あれ? 壊れた?」
木製の大きなペンダントのようなものに目玉が嵌めこまれていて、周囲に数字が書かれている。下には種族が出るらしい。
「人間でレベルが56なら合ってますよ」
「え!?」
「この方は辺境の町から来た我々の教官でね」
「驚くのは無理ないけど、このレベルの魔物があと二人この島にいるから、あまり変なことはしないようにね」
「いや、あんたたちもレベル30を超えてるじゃない!? どうなってんの!? え? 魅了スキルとか効くの? 効いてない?」
ゴルゴンの研究員は盗品よりも俺たちを研究したくなったらしい。
「効くわけないだろ?」
「なんか犯人が落としていった物はないのかい?」
ぐいぐい来る女性の依頼者には、アーリャとハピーが対応してくれるので助かる。
「あ、これ。誰のかわからないヘヤピンがあったのよ。たぶん、犯人のじゃないかって」
「コタローさん、これで追跡できます?」
ヘアピンを受け取って、すぐに『もの探し』スキルを使うと、天井高くまで光る紐が伸びた。
「大丈夫そうだ。追えるよ」
「ありがとう。ちょっとこのヘアピン借りていくよ」
「ちょっと計測させて! 仕事終わってからでいいから!」
ゴルゴンの研究員の声を無視して、俺たちは光る紐を追いかけた。
光は山の方に向かい、東地区からどんどん遠ざかっている。おそらく犯人は山の中に潜伏しているが、拠点らしい建物は見えない。
「アジトにするにも建物ぐらいありそうだけど」
「空から見る分にはありませんね」
ハピーが空を飛んで教えてくれた。
「ラミアたちの独特の匂いがします。女のフェロモンが強いので、犯人は複数いますね。魅了スキルを野性の蛇にも使っているかもしれないです」
「ああ、人間にばかり使うわけじゃないもんな」
「魔物の国では人間の方が少ないくらいですから」
「違いない。あ、洞窟だ」
洞窟が盗人のアジトか。
「山賊らしいといえば山賊らしいですが……」
「引きずり出して捕まえますか?」
「そうだね。罠を張るかい?」
「いや、レベル的に問題ないと思います」
「それじゃ……」
俺は洞窟の入り口に向かって「おーい」と声をかけた。
出てきたラミアをハピーがチェーンウィップで捕まえ、スキルを使えないように目を隠していた。訓練のせいかというか、一連の流れが淀みなく、手慣れている。
「塔から盗んだ呪具は中にあるのか?」
「あ、いや、あの……、あります」
「お前以外のラミアはなぜ出てこない?」
「昨夜、叫び声を上げて倒れてしまい、そのまま……」
「死んだ?」
「いや、わかりません」
「その彼女たちは蛇バトルに参加していて、アナコンダを使役してなかった?」
「ど、どうしてわかるんですか?」
「そのアナコンダを解体したのが俺だよ。中に入って全員捕縛しよう」
「了解です」
「呪具は危ないからこの紐を巻いて袋に入れていってね」
さっそく昨夜貰った呪除けの紐が役に立った。
洞窟で寝ていたラミアは3人。盗み担当のラミアが1人の4人で山賊家業をやっているらしい。
「基本的には蛇を使役して戦う賭場を作るのが仕事です」
「別にやましいことをしてないなら、なぜこんな山の洞窟にいるんだ?」
「それは……、呪具を使って、八百長をしていたからです。でも、そんな戦いはすぐにバレるので逃げないといけなくなって、他の3人も似たようなことをして逃げていたのでここに集まったんです。どうにか再起しようとしていたところに、従属魔法の模様が書かれたアナコンダを見つけて、ここで繁殖させて増やそうと思ってたんですけど」
「意識を乗っ取られた?」
「その通りです。で、結局また、呪具や魔道具を盗むことになって……」
「どうしようもないな」
「じゃあ、君たちがあの従属魔法の模様が描かれたアナコンダを繁殖させたわけじゃないってこと?」
「そうです。沼で見つけてこれならどうにかって……。すみませんでした」
「いや、俺たちに謝ってもしょうがないよ。とりあえず、呪具と魔道具を返しに行きな」
「3人は!?」
「寝てるだけだ。従属魔法は解けているはずだからね」
4人とも余罪がありそうなので、島の衛兵に突き出し、盗品を返却させた。
「なんでこんな馬鹿なことを」
「俺もこの島で蛇バトルが流行っていると聞いて、メタを探した。単純に儲かるし、小さな界隈でなら人気になるんだろう」
「でも……」
「これは仕掛けられた流行だ。従属魔法の模様を描いたアナコンダも仕込みなんじゃないかと思う。偶然にしては出来過ぎているだろ?」
「確かにそうですね」
「従属魔法って幻惑魔法の一種かな?」
「そうです。研究している塔に行ってみますか?」
「そうだね。そこと蛇の繁殖場が繋がっていたら、結構ヤバいだろ?」
「わかりました」
俺たちは再び東の塔を巡り、幻惑魔法を研究している塔を訪ねた。
「あれ? また来てくれたのかい?」
魔道具を盗まれたゴルゴンの研究員がまたいた。呪具を盗まれたエキドナもいる。
「あれ!? 何でいるんです!? ここ違う塔じゃないですか!」
「塔によって研究が違うだけで、研究員は足りないんだから兼務してることくらいあるだろ! それより、彼らを計測した方がいいよ」
「いや、そんなことより、あなた方の中で蛇を繁殖させている方はいませんか?」
「実験のための蛇を繁殖させているなら……」
その場にいた研究員たちが、呪具を研究しているエキドナを見た。
「な、なにか!?」
エキドナの汗が止まらなくなっていた。




