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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
呪われた群島編
136/226

136話「従属魔法の弊害」


 大蛇がすぐ近くまでやってきているが、俺もリザードマンのリイサもじっと目をつぶってゆっくり息をしている。アナコンダの熱源探知能力が高ければ、こちらを襲ってくるかもしれない。重要なのは俺たちに気づかれないように回り込めるかどうかだろう。


 勝負は一瞬だ。


 そう思わせれば俺たちの勝ち。

 すでに周囲には罠が張り巡らされていて、こちらの勝負は終わっている。


 カタンッ。


 水路に仕掛けた罠が作動した。筒状の罠にアナコンダが入り引き上げる。隙間からナイフを刺し、息の根を止める。


「それほど大きくはないですね」

「うん。もっと大きいのがいそうだ」


 ガシャンッ。


 沼に仕掛けたトラバサミが、大型のアナコンダを捕まえていた。捕まえても暴れまわって、どうにかトラバサミを引きはがそうとするので、リイサがスコップで頭を落としていた。頭も体も切り離しても動く。


「蛇の生命力は強いな」

「コタローさん、ほら、頭に従属の魔法陣が描かれてます」

「誰かが操作してたってこと?」

「ここまで大きいと主従が逆転してるかもしれませんよ」

「え? どういうこと?」

「関係が深くないとそもそもこの従属魔法の効果はないんですよ。でも、この模様が従属の魔法陣だと気づいたら、自分で大きな蛇を操りたくなるわけです。でも、ここまで成長しているアナコンダと関係を深く出来ないので、意識や視点を自分と入れ替えたりするんですよ」

「そんなことしたら、自分の体はどうなるんだ?」

「ベッドに縛り付けておけばいいんです」

「なんだそりゃ。ただの変態じゃないか」

「傍から見ればそうなんですけど……。知性ある魔物の中にも働いていない者もいますよ。特に研究者って普段何しているかわからなかったり、これも研究の一環という大義名分がありますからね」


 とりあえず、獲れたてのアナコンダを二匹、解体していたら、呪術師の婆さんの家に急患が来ていた。


「リイサが言ってた変態じゃないの?」

「いや、どうなんですかね? とりあえず、全部持って行きますか」

 

 急患は近くの鶏農家で引きこもりをしていたラミアの青年で、リイサが言った通りのことをやって、大型のアナコンダに精神を乗っ取られていたらしい。

 深夜に大きな叫び声を上げて倒れ、首を押さえていたから、農家の仲間が誰かに呪いをかけられたと思って連れて来たとのこと。


「で?」

 ゴルゴンの呪術師は俺たちの方を見た。


「たぶん、そのラミアの青年の精神が入っているのは、こいつじゃないかと思って」

「おや、魔法陣まで書かれてるじゃないか。まったく」


 ゴルゴンの婆さんは呆れたようにアナコンダの頭にあった魔法陣をナイフで突き刺して、魔法を解いていた。呪いも魔法も使うための学習はたくさんしないといけないが、使うのは一瞬だし、解くのも一瞬だ。

 あっさり青年は正気を取り戻したように周囲を見回して、自分の体を確認していた。


「くだらないことで、深夜に叩き起こすんじゃない!」

 一喝して若い農家を追い返していた。


「バカなことが流行り始めちまったね」


 呪術師の婆さんは心底呆れたように夜空を見上げた。


 ガシャンッ!


 闇夜にトラバサミの音が鳴る。


「あ、またかかりましたね」

「いったい何匹いるんだい?」

「それは朝になってみないとなんとも……」

「年寄りにはつらいよ。これ、解呪の短剣だから、朝までにやっておいてくれないか?」

 強い呪いや魔法ほど、効果があるらしい。呪いも魔法もかかってなければ傷つけることすらできないとか。便利な短剣があるものだ。

「わかりました。これって、この島でやってる蟲毒か何かですか?」

「違うよ。どこかのバカが、魔法陣を入れた蛇を繁殖させてるんだろ? 使役ブームに乗って好き勝手やりやがる。もしかしたら、使役ブームの仕掛け人が、犯人かもしれないからあんたたちも気を付けな」

「はい」


 蛇島もいろいろ大変だ。


「コタローさんも使役スキルを持ってるんですよね?」

「持ってるよ。ほぼ、手紙を送る鳥とか仕事を手伝ってくれるスライムだけだけどね」


 いつの間にか使役スキルも小から中まで上がっている。


「俺も蛇バトルに参加した方がいいかな」

 捕まったアナコンダを解体しながら喋る。沼にいる大型の魔物にはもうこちらの動きがバレているだろう。隠れる必要もない。

「絶対やめてください。蛇に乗っ取られたコタローさんを止めるのは難儀です」

「でも、一度流行り出すと次の流行が来るまで広がり続けるからなぁ」

「新しい流行を作りますか?」

「リイサ、すごいこと考えるな」

「私じゃないですよ」

「まぁ、でもバトルっていうルールがあるなら、メタもあるだろう」

「メタ、ですか?」

「ああ、例えば、蛇の天敵の鷹を使役するとかさ」

「でも、大きいアナコンダには敵わないんじゃ……」

「じゃあ、グリフォンとか?」

「グリフォンなんか使役できたらなんでも使役できますよ」

「むしろ、要請することってできないかな?」

「いや、出来なくはないでしょうけど、それなりに高価ですよ」

「島まで来てもらわないといけないしな。ん~、毒はあんまり効かないんだろ?」

「むしろ毒蛇もいますから」

「じゃあ、やっぱりゴーレムかスライムかなぁ」

「こんな大きな蛇は倒せませんよ」

「そうかなぁ」


 そんな会話をしつつ、その夜7匹ものアナコンダを解体し、朝方起きてきた呪術師の婆さんに討伐完了を伝えた。


「そんなに討伐するとは思わなかった。呪具で払ってもいいか?」

「構いません」

 解呪の短剣さえもらえれば御の字だと思っていたが、さらに防呪の紐の作り方も教えてもらい、一旦町へと戻り酒場で依頼達成を報告。

 リオ班とロサリオ班の帰りを待ちつつ、街中にいる物質系の魔物について話をしていた。


「壺の魔物も倉庫で働いてもらっているよ」

「え? 就職できるんですか?」

「出来るさ。そりゃあ。能力があるんだから」

「喋れても動けないじゃないですか?」

「いや、倉庫としては伝票さえかければ問題はないよ」

 リイサはツボッカを羨ましがっていた。


「ツアー後の就職先を迷っているんですからやめてくださいよ」

「どうして? 軍に在籍するわけじゃないのか?」

「レベルが30超えたら、中央では住みにくくなるんですよ。だから結構迷っていて……」

「どうせ刺激は足りなくなるぞ。ロサリオみたいに結局辺境に来ることになるかもしれない」

「ん~、高名輪地区も見てみたいんです」

 ツアー参加者たちも迷っているらしい。


 そんな会話をしながら昼食を食べていたら、二班が帰ってきた。

 アナコンダの模様についても情報を共有しておく。


「なんだ? それは?」

「そんな蛇を育てている研究者を捕まえればいいじゃないか」

「そうなんだけどな。どこにいるのか」

「こっちは海竜の討伐で大変だったんだぞ」

「俺たちは、大型のヤドカリを討伐して素材も貰ったから、割と簡単だったよな?」

「簡単でしたか!?」

 リオのグループは結構大変だったらしい。


「とりあえず、また班を分けよう。今度はこの島の流行を追いつつ、蛇の品種改良をしている研究者を探す感じで」

 ロサリオが仕切ってくれた。

「了解。頼むよ」

「じゃ、俺は人間チームかな」

 リオがイザヤクとマーラを連れて行ってしまった。


「じゃ、アーリャとハピーだな。よろしく頼むよ」

「よろしくお願いします!」

「お願いしゃっす!」

「何の依頼を請ける?」

「塔の依頼が結構あるらしいんですよ」

「塔? なにかあるの?」

「呪術や魔法を研究しているらしいので……」

「なるほど、そうしよう。呪具もあるから、いろいろ試してみような」

「おおっ、やはりコタローさんは違いますね」

「何が?」

「自由度ですかね」

「ああ、強くなるための方法というより、出来ることを増やして身体の性能を上げながらレベルを上げた方がいいと思っているだけだよ」

「精度だけではないということですか?」

「選択肢が多いと、精度も上がるよ。判断には迷うかもしれないけどね」

「あ、そうかもしれません」


 俺たちは島の東にある塔が並ぶ地区へと向かった。


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