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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
呪われた群島編
135/226

135話「蛇の島」(群島編)


 定期船で俺たちは島へ向かっていた。群島の端にある蛇島はゴルゴン族など多くの蛇族が暮らしていて、各島と大陸との中継地点にもなっているらしい。

 朝から出発して昼過ぎには着いていた。幸い、皆船酔いすることもなく島内を散策することに。


「スキルでバランス感覚を取ったから、余裕ですね」

 リザードマンのリイサが周囲を見回していた。船の客の中には船酔いでしばらく座り込んでいる魔物も多い。


 桟橋から入ると正面に大きな蛇の石像が口を開けていた。


「あの石像、何か仕掛けがあるのか? 妙な気配がある」

 リオが石像を見ていた。

「呪いで大蛇が石に変えられたとか」

「普通は大蛇に見られたら固まってしまうものだけど、この島は呪いの研究者が多いんだろう?」

「我々は先日呪い詐欺に嵌りかけたばかりです」

 ウェアウルフのアーリャは、大陸でうっかり呪いの依頼を請けてしまい、石化されそうになったらしい。


「大丈夫だよ。俺たちが助けるから」

 人間のイザヤクとマーラは、なぜか詐欺師の目を見ずに、足の動きで賊を捕らえ衛兵に突き出したそうだ。

「視覚や聴覚の制御スキルを取っておいたのがよかったんです。向こうが勝手に騙されたと勘違いしてくれるから」

「演技力も大事ということか?」

「まぁ、そうですね。でも、関係性が薄い者だと強い呪いもかけられないと思うんですよ。例え石化されてもすぐ治せると思います」

 マーラはそう言っていたが、重い荷物を背負っているハーピーのハピーは難しい顔をしていた。


「何か言いたいことがあるのか?」

「私は、飛んでいる時にやられると墜落しますからね」

「結構、繊細なことをやっている時ほどちょっとした幻惑魔法が生死を分けるんだよな」

「その通りです」

「それはわかる。特に群島は、わかりやすい属性魔法じゃなくて、呪いや魔道具、幻惑魔法や変性魔法を研究していると聞くからなぁ。取り込まれないように、戦闘には取り入れていこう」

「「「はい」」」


 宿を取り、昼食がてら島の酒場に行く。群島の中では比較的大きな島なので通りがあり、酒場も数軒あった。


「依頼はあるか?」

「お、レギュラーか? このファイルを見てくれ。ほとんど未達成だ。どれでも好きなだけ請けてくれ。依頼者と住所は依頼書の下に書いてある通りだ。場所がわからなかったら、壁に島の地図が貼ってあるから」

 元気なゴルゴンの青年が酒場のマスターのようだ。以前は大陸で仕事をしていたが、ケガをして地元の島に戻ってきたのだとか。


「ゴルゴンやラミアたちが多いみたいだけど、皆目がいいのか?」

「そりゃあね。でも、ヘビ系の種族にとっては温度が一番わかりやすい。今ホットなのは、使役魔法さ。古くから蟲毒という呪術でも使われているけど、島のいろんなところで蛇と魔物を戦わせている。蛇が増えちまって報奨金を出して駆除しているのさ」

「毒で捕まえたりしないのか?」

「もったいないだろ? ほらハブ酒。20年物になるとまろやかな口触りで飲みやすくなるんだ」

 

 金を払って飲ませてもらったら、確かに喉が熱くなるが、つるりと胃まで入っていく。

 俺たちは適当な依頼をピックアップして手分けをしながら、島を探索することにした。

 3班に分かれ、俺、リオ、ロサリオが、ツアー参加者たちと回る。初めはそれぞれ得意分野で分けた。


「よろしくお願いします!」

 リザードマンのリイサは罠師だ。

「よろしく。どれから行く?」

「大きめの依頼から行きますか。アナコンダまでいるらしいので」

「じゃあ、沼地かな?」


 俺は地図の写しを見ながら、現地へと向かう。面倒なので道は使わず山の中を歩いて向かう。


「ちょっとした傷でも毒や呪いにかかりやすくなるから気を付けながら来てね」

「はい。暑いですね」

 二人とも厚手のズボンと作業着のような服を着ている。日差しが強いのでキャップも被る。さながら業者のようだ。

「南だからなぁ。あ、このヘビも依頼にあったっけ?」

 頭上の枝から降ってきた蛇を捕まえ、その場で締めておく。

「あります。結構な毒を持ってますよ」

「じゃ、毒だけ採取して」

 牙をむき出させて、瓶に毒を入れ絞り取った上で袋に詰めていく。動きさえ見ていればそれほど速く動くわけではないので、問題なく捕まえられる。


 アナコンダの討伐依頼を出してきたのは沼近くに住む呪術師の婆さんだった。ゴルゴン族で、サングラスをかけている。


「おや、あんた、人間じゃないのかい?」

「そうです。わかりますか?」

「それがわからなきゃゴルゴンやってないよ。へぇ、100年ぶりくらいに人間なんて見たよ。しかも、そこそこレベルが高いだろ?」

「それもわかりますか?」

「ああ、耄碌してても身の危険は感じるさ。色眼鏡で見ちまって悪いけど、最近日の光が眩しくてね。許しておくれ」

 サングラスをかけてみることが悪いと思っているらしい。視覚を大事にする種族だからだろうか。

「構いませんよ。ゴルゴンの呪いは石化くらいしか知りませんし」

「視線で呪いはいくらでもかけられるよ。気を付けることだ。まぁ、そこまで影響はなさそうだけどね」

「いえ、戦闘中にかけられると結構厄介です。依頼のアナコンダの件なんですけど……」

「ああ、そうだったね。いつの頃からか、蛇を使役する魔法が流行ってね。使役した蛇を大事に飼っていた者たちも多いんだけど、どんどん戦わせて勝っていくとね。どうにも魔法が効かなくなって野生に戻る個体も出てくるだろ? そうして大きくなったアナコンダがこの島には結構いてね。ここら一帯の家畜が食われちまってるんだ。悪いんだけど、討伐を頼みたい」

「承りました。沼一帯に罠を仕掛けたいんですけど、周りの農家さんとかにも声をかけた方がいいですかね?」

「ああ、頼む。私からも言っておくよ。ここら辺は呪術師だらけさ。見た目に騙されて、変な呪物を買わないように」

「こう見えて、この人間は辺境で倉庫業を営んでいて呪具を浄化するのが得意な方なんですよ」

 リイサが売り込んでくれた。

「ああ、そう!」

「出来るものと出来ないものがありますよ」

「そりゃそうだ。扱いはわかってるのか。そしたら、これ持って行きな。ちょっとやそっとの呪術はこの紐が肩代わりしてくれるよ」

 ゴルゴンの呪術師はミサンガのような紐を俺とリイサの分を渡してくれた。

紐だ。


「仕事が終わったら、この紐の作り方を教えてください」

「興味があるのかい?」

「どうもこの世界に来てから、紐には縁があるようで……」


 俺は自分が異世界人であることや、アラクネさんのヒモだったことなどを話した。


「まぁ、縁も紐さ。仕事が無事に終わったら来な」

「よろしくお願いします」


 俺たちは沼に罠を仕掛けに向かった。


「釣り罠を仕掛けますか?」

「ああ、それもいいね。水深が浅いならトラバサミみたいなものでもいいかもしれない。あと、水路っぽいものを作っておこうか。隠れやすい穴さ」

「いいですね」


 沼に飛んできた鷺を投げナイフで狩り、肉を餌に罠を仕掛ける。


「そういや、使役スキルじゃなくて、使役魔法って言ってたけど違うのか?」

「ああ、中央では使役スキルって言いますよね。たぶん、この島では従属魔法のことを使役魔法って呼んでいるんだと思います」

「なるほどね。動物や魔物を従わせるのかい?」

「そうですね。恐怖の幻惑魔法に似ていると思います。もちろんレベルが低い者が使えば、あっさり見破られてしまいます。だから飼えなくなってしまうのでしょう」

「なるほどね」


 俺たちは罠を仕掛け終わると、沼の畔で焚火をしながら、ぼーっと虫の声に耳を傾けていた。


 パシャン……。


 何かが沼の水面に入る音が聞こえてきた。


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