125話「戦術読本を作りたい」
大蝦蟇の群れを倒して昼前まで仮眠。ツアー参加者たちのレベルが上がった。ついでに俺たちのレベルも1上がった。ただ喜んでいられたのも束の間で、一斉に掃除を始める。
大蝦蟇はただでさえ身体が大きい。沼の魔物からすれば可食部も多いということでもある。
「これだけの魔物が沼にいたことも驚きだが、これを捕食する魔物もいるわけだろ?」
「生態系を考えるなら、そうだ。だいぶポイズンアリゲーターに持っていかれたから、次はワニ大発生だろう」
大蝦蟇から、討伐部位の目玉と幻覚の霧を出していた毒袋を切り取り、落とし穴に集めて焼いた。ポイズンアリゲーターは普通に浜まで上がってきて潰れた大蝦蟇の肉を持って沼に潜っていく。鬼食いピラニアも肉の臭いに誘われて、陸に上がってきたが、ちゃんと町の魔物たちに拾われていた。
「鬼食いなんて言うから、ゴブリンたちには人気なんだ。意趣返しだな」
ゴブリンたちが竹で編んだ篭にピラニアを入れていくのを見ながら、リオが言った。
「このまま焼いて行っていいんですか?」
「ああ、焼いて灰にしないといつまでも沼の魔物がやってくるぞ」
おそらく数日は大蝦蟇の焼ける臭いが町でもするだろう。ひとまず、穴には近づかないように、ゴブリンたちに声掛けをして町へと戻った。
大蝦蟇の討伐部位を酒場で換金。幻覚剤も4分の1ほどは売ってしまう。フロッグマンたちが売っているガマの幻覚剤より効果は薄そうだ。煮詰めて使う必要があるし、薬師以外にはあまり売れないだろう。
「金が足りないから、役所に言った。今日の報酬は半分だけで勘弁してくれ。後から約束手形を持ってくるはずだ」
「わかりました」
量が量だけに、報酬も多い。後日、しっかり計算して報酬を受け取ることにして、今日は銀貨がたっぷり入った財布袋を受け取った。財布袋も報酬のうちだそうだ。
「それから、過去の記録を見ると、大蝦蟇が発生した数日後にポイズンアリゲーターの群れが出るそうなんだ。それまでは滞在してくれないか?」
「了解です。大丈夫ですよ」
ツアーの日程もあるが、そもそも魔物が大発生する場所を探していたので、連続して発生してくれるなら、こちらとしてもありがたい。
宿に戻って報酬を山分け。
「こんなにいいんですか?」
ツアー参加者たちは驚いていた。ほとんど俺たちが持って行くと思っていたらしい。
「俺たちが持って行くのは路銀と毒だけだ。あとは皆で分けたらいい」
毒は別の場所でも売れるので、アラクネ商会として旅の行商人に売る。効果があれば魔物の国の薬師たちに会社の名前が広まるだろう。
「甘いものでも食べてゆっくり休んでくれ」
女性陣がガールハントをするわけでもないので、ロサリオがスイーツを勧めていた。
「この前使っていた武器以外にもいろいろと試したいんですけど……」
ツアー参加者唯一のイザヤクは、また両手剣以外にも試したいらしい。
「何を使うか考えてるか?」
「レイピアを……」
自信はなさそうに言っていた。
「金に余裕があるなら、どんどん試して行っていいと思うぞ」
「レイピアで突き刺すつもりかい?」
俺もロサリオも、ツアー参加者たちがどういう戦い方を考えているのか気になっていた。脳の数だけ戦術の幅は広がる。
「突き刺すのではなく、先端を研いで筋や血管を切っていこうかと思って。大きな両手剣で魔物を分断すると体力の消耗も激しいので、群れと戦うには向いていないような気がするんです。だったら、むしろ相手の動きを邪魔するような、もしくは戦力を削ぐような戦い方はできないかと思って」
「なるほど……、剣士なのにトドメを刺さない戦い方を探るってことか。面白いよ、それ」
「レイピアを振る回転数を上げるなら、視野を広げるスキルを取ったり、呪具を探したりしてもいいかもよ。呪具を探すなら一緒に行こう。足下見られて高い買い物をするかもしれないからな」
「お願いします」
「私にも何かアドバイスをください!」
マーラは盾魔法があるから十分なのだが、それでは戦い方の幅が広がらないと思っているようだ。
「マーラは盾の範囲を広げることはできるか? 別に強度はそれほどなくてもいいんだけど、壁がそこにあると錯覚させるだけでも、市街戦では敵を追い込めることもできるだろ?」
「盾じゃなくて、薄い壁ってことですか?」
「そうだ。それができるようになると、俺たちは罠を仕掛け放題だ」
「視覚を阻害するってことですね?」
「人間は目に頼って生きているし、魔物だって視覚を奪われたら、命中率は下がるだろ? 一瞬だけ、敵の目の周りに黒い壁を置いてもいいかもしれないぞ」
「確かに……。そういうことかぁ……」
「魔力はゆっくり溜めておくといいぞ。瞑想で精度も上がるのはわかるだろ?」
リオは丁寧に教えていた。
「ロサリオさん、槍の攻撃ってどこを狙ってますか?」
ハピーがロサリオに聞いていた。
「基本的には重心だよ。ハピーは種族的にもいい目を持っているから、敵のどこを見るのかを考えた方がいいかもしれない。槍を使おうとしているのかい?」
「鉤爪などは使い勝手がいいだろうと思ってたんですけど、相手の近くまで来ると、逆に地面に叩き落されるリスクが出てくるんですよ」
「なるほど、確かにそうだよね。古来からハーピーの攻撃と言えば爪だけど、それだけに対処法も暴かれているし、空からの攻撃がリスクになるのかぁ」
「かと言って、槍を持って空を飛ぶとそれこそここにいるってバレるぞ」
リオが横から口を出していた。
「それに重心を見るなら足元から見た方がいいから、空から見るハピーからは死角になる」
「そうですかぁ……。槍も使えないかぁ」
ハピーは羽で頭を揉むように落ち込んでいた。
「気にしないことだよ。そう簡単にいいアイディアは出てこないから。俺たちも随分考えて、いろいろ試した結果、今があるんだから。例えば、俺とリオでヒートジャベリンですべてを貫けばいいんじゃないかと試したら、槍の柄ごと燃えてボツになったことがあった」
「宿の主人にこっぴどく叱られたなぁ」
2人とも笑っているが、あのアイディアはリオのレベルが急速に上がり過ぎてブレスが強すぎたせいだ。
「まぁ、それぞれ自分に合った武器があるよ」
「はい、いろいろ試してみます!」
「鞭なんてどう?」
俺が提案してみた。
「鞭ですか?」
「ああ、チェーンウィップみたいな鉄の鞭なら、空でも隠せるし遠心力を使えるよ」
「いいですね! 試してみます!」
ハピーは甘いものには目もくれず、鍛冶屋へ向かっていた。
ツアー参加者たちは皆、自分たちの戦術を考えていて全然休まない。俺たちも夜中にずっと戦術を考えていたことを思い出した。考えるだけでも面白いんだよな。
「あの……」
ウェアウルフのアーリャが話しかけてきた。
「どうした? 甘いものを食べに行ってもいいんだよ。お金も自由に使っていいから」
「いえ、自分は辛党なので。それより、コタローさんは『使役スキル』を持ってますよね?」
「ああ、持ってるよ。スライムを捕まえて、倉庫を清掃させてるんだ。なにか思いついたかい?」
「いえ、いつの間にか自分も『使役スキル』を取ってしまっていて……」
「種族特性か何か?」
「いえ、たぶん中央でコロシアムから捨てられたブラックハウンドの子を育てたことがあって……」
狼は社会的な生き物だから、こちらの世界の狼系の種族は面倒見がよくなってしまうものなのかもしれない。
「今はコロシアムに戻して世話もしてもらっているんですけど。せっかくなのでこのスキルを活かせないかと思いまして……」
「ああ、群れは追い込めるから強いよなぁ。なにを使役するの? 狼系の種族?」
「フィンリルとかは大きさ的に無理なんですけど、何がいいんですかね?」
聞いてみると『使役スキル小』らしい。ブラックハウンドも幼少期に育てていただけだとか。
「あんまり愛着を持てないしなぁ」
「そうなんですよ」
「でも、愛着も持てない魔物と一緒に戦いたくないし」
「はい、その通りです」
「獣の方がいいだろ?」
「そうですね。毛のある魔物の方がいいです」
「じゃあ、一回一緒に森に行ってみるか?」
「いいんですか?」
「いや、使役するなら魔物の特性を知らないとどうしようもないだろう。行こう」
「はい。行きます!」
俺はアーリャと一緒に森へと向かう。
「あ、私も行きます!」
戦術の本を探そうとしていたリイサも付いてきた。




