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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
倉庫業と遺跡発掘業
123/226

123話「かつての街道工事の余波」


 翌日は別の呪物を追う。

 盗賊が持っていた革手袋らしく、触れられても感触が薄いのだとか。ただ、その手袋をしたまま盗みを働くと、爪を剥がされるという呪いがかかっている。


「酷いな」

「盗みの技術は民のために使う義賊だったらしい」

「墓は?」

「見つかってない。300年前から行方不明だ。種族はフロッグマンともただのゴブリンとも言われている。とりあえず『もの探し』を頼む」

「了解」


 俺は『もの探し』スキルを放ち、革手袋の持ち主を探す。光る紐は樹上高く上がり、山の麓へ向かった。


「近いんじゃないか?」

「ああ。皆、筋肉痛は大丈夫か?」

「大丈夫です」

「山道にも慣れないといけませんから」

 ツアー参加者たちは各々靴の中敷きを替えてみたり、鞄のベルトを調節したりと持ち運ぶことについて考え始めていた。


 山間の宿を出て、そのまま山道を下る。行商人しか使わない道だ。グリフォンの繁殖地もほど近いが、滅多に人里にはやってこないという。


「物探しスキルって千里眼とも違うんですよね?」

 鼻のいいウェアウルフのアーリャが歩きながら聞いてきた。山道を行くときは話しながらの方がいい。歩くペースがわかるし、声を出していた方が周囲の魔物も襲ってこない。


「千里眼の下位互換と言われているけど、俺がこの世界にやってきて初めて取ったスキルだ。ゴルゴンおばばに言われてね」

「じゃあ、初めから戦闘系のスキルは取るつもりがなかったんですか?」

「そうだね。別に魔王が人間を攻め滅ぼしているわけでもないし、人間が魔物と戦争をしているわけでも無さそうだったからね。平和な時代に強さは不要だと思ってたんだけど、意外にそうでもなかったなぁ」

「今は欲しいスキルがあるんですか?」

「いや、魔力の紐を使えるようになったから、弾力性とか粘着性とか付けてみたいけど、そういうスキルはないのかな?」

「私は聞いたことがないですけど……。マーラ、知ってる?」

「変性魔法だとは思うんですけどね。防御力を上げたり、水中呼吸とかができる魔法の系統なんですけど念動力に近いのかもしれません」

 後ろを歩いていたマーラが説明してくれた。ツアー参加者と話していると学ぶことが多い。


「人間の学校では、変性魔法の授業もあるの?」

「ないことはないというくらいですね。そもそもそれほど人気があるわけではありませんから。やはり攻撃魔法や回復魔法を学ぶ機会が多いです」

「魔法書も少ないのかい?」

「旅人が書いた地方のまじないや民間療法なんかの本に記載されているのから発展させたりするみたいです」

「じゃあ、変性魔法使いというのがいるのか?」

「ああ、えーっと詐欺師が多いです。鉄を銀に変えられるとか平気で言うので」

「不憫な奴らがいるんだなぁ」

 魔法使いも人それぞれだ。


 山のふもとまで行くと沼地になっていた。呪われた革手袋の持ち主は沼の底にいるらしい。


「かなり水深が浅いな」

「膝くらいか。こんなところで溺れ死んだのか?」

 リオやロサリオは普通に靴を脱いで沼に入っていった。


「いや、急に深くなって底なし沼になっているところがあるかもしれない。気を付けろよ」


 水草に毒はなさそうだが、電気ウナギのような魔物はいるかもしれない。

 かつてはこの沼地にも魔物が住んでいたようで、石の柱や壁が残っている。薬品に使われる瓶や壺も埋もれていたので、もしかしたらフロッグマンの集落だったのかもしれない。


 だとしたら、持ち主の故郷だった可能性もある。

 義賊というくらいだから近くの庄屋には恨まれていただろう。


「鬼食い魚だ!」

 牙を持つ大きな魚が沼を泳いでいた。こちらが音を立てても迫ってくる。好戦的だ。


「あの蛙はなんだ!?」

 義賊の遺体がある場所を探そうとしたが、家のように大きな蛙にも襲われた。

「大蝦蟇だ。蛇も食べるし、近づくと吸い込まれるぞ」

「一旦立て直そう」


 俺たちは逃走。近くの町に向かった。山道から街道に変わり、馬車も増えた。

 山の幸と海の幸が集まる鬼の町だ。ゴブリン、オーガ、オークなどが経営する大きな店が多い。

 宿を取って、酒場に聞き込みに行く。リオたちは衛兵の詰め所に行って、周辺の情報と義賊について教えてもらいに行った。ただし300年前なので記録が残っていないかもしれない。


「ちょうど魔王が奈落の底から戻ってきたくらいか……」

 酒場のマスターが話し始めた。もしかして魔王と義賊は関係があるのか。


「街道を整備していた頃か。記録が残っているかもしれない。古い店が多い町だから、蔵があるような家の者に聞いてみるといい」

「なるほど。そうしてみます」

「あ、沼の魔物を倒せるなら、倒してくれよ。一月前も馬車がやられたんだ」

「がんばってみます」

「え? 本当に!?」

 沼の魔物は大蝦蟇やポイズンアリゲーター、鬼食いピラニアなどが多く、凄腕のレギュラーでも腰が引けて対応できていないそうだ。俺たちも普通に断ると思っていたら、頑張るというので驚いた。


「まぁ、できるもんならやってくれると助かるぜ。依頼も出てるから少ないかもしれないけど報酬もあるからさ」

 マスターは沼の魔物なら何頭でも倒してくれと言っていた。


 古い鍛冶屋に行って、300年前の義賊について調べていると聞いてみるとゴブリンシャーマンの婆さんが出てきてくれた。


「私も100年も生きてないからね。300年前のことは聞いただけさ。それでもいいかい?」

「ええ、お願いします」

「義賊については知らないけれど、まぁ、街道の工事で随分と揉めたらしいってことはわかってる。町の西に沼があるだろ? あそこは沼じゃなくて川だったんだ。そこに橋を架けようとしたんだけど、魔物が出て工事にならなかったらしい。どうやら近くの魔物使いたちが邪魔をしていることがわかった」

「魔物使いがいたんですか?」

「ああ、革職人たちの村があったんだ。そこの魔物使いらしい。橋ができて街道ができたらいろんな魔物が来て、大変なことになるって言って迂回させるように行ったんだけど、時の領主がそれに怒ってね。魔王の計画を邪魔するつもりかって」

 婆さんは見てきたように話す。

「結局、橋は作らず、埋め立てて街道を通してしまった。革職人の何人かはこの町に越して来たけど、村は沈んじまった。魔物使いたちは最後まで残っていたんだけど、結局いつの間にか消えていた。今になって魔物使いたちが言ってた通り大変なことになっているけどな」

「この町に引っ越してきたっていう革職人たちの店はあるんですか?」

「あるよ。隣がそうだ」


 隣の革製品の専門店に行ったが、近くに革職人の村があったこと自体伝えられていなかった。


「うちは古い店だけど、一度火事で焼けちまってね。古い記録は残ってないんだ」

 オークの革職人がすまなそうに額を掻いていた。

「革手袋について何か聞いてませんか?」

「革手袋? 聞いてないな。うちの爺さんが帰ってきたら、聞いてみるよ」

 

 店主の爺さんは買い付けに行っていて留守だった。この町の酒場のレギュラーも少ないので皮を遠くの町で安く買ってくるという。


「どうする?」

「いや、ぴったりなんじゃないか?」

「なにが?」

「いくら倒してもいい強い魔物がたくさんいるってことだろ? レベル上げにはぴったりだ」

「あの、呪いの革手袋はどうするんです?」

 マーラが聞いてきた。

「後でいいんじゃないか。とりあえず生きている者たちのレベル上げをしよう」

「せっかくだからいろんな武器を使うのもいいかもしれないぞ。どういう魔物がいるのかは酒場で確認しただろ? イザヤクの刀は向かないかもしれない」

「確かに……。なにがいいですかね」

「両手剣も使ってみるか? さっき行った鍛冶屋で安物が売ってたからそれで十分だと思う。ハピーも軽い武器も使ってみたらいい。アーリャも当て感の練習をしてもいいと思うぞ」

「罠はどうしたらいいですか?」

 リイサが俺に聞いてきた。


「沼だからなぁ……。毒でも仕掛けるか」


 俺たちはそれぞれの準備を始めた。


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