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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
倉庫業と遺跡発掘業
121/226

121話「休憩中でも練習を」


 翌日はツアー参加者全員レベルが1上がっていて、しっかり休暇。筋肉痛で動けない参加者たちのために俺たちは食事を用意して、町の中を探索する。


「とにかく休むことだ。レベルが上がったということはそれだけ身体の作りも変わる。筋肉痛や魔力枯渇があっても、それが身体の成長にとって重要なことだからしっかり回復に向けて休むように」

「本当に休まないと、せっかくレベルが上がったのに意味がないからな。筋線維の修復もそうだけど、感覚がどんどん変わっていくはずだから、自分の身体に順応していくように」

「それから文化、特にダンスとか音楽はものすごい大事だ。ダンスは回避率を上げる柔軟性や動きの読みにも通じる。音楽は気分を変えるだろ? 焦りは禁物だし、全員の気分を上げられればそれだけ疲労を感じにくい。長時間の戦闘になれば変わってくるから、音楽のリズムを頭の中で流せるかどうかでも、パフォーマンスも変わってくるからな」


 参加者たちは宿から広場が見えるので、食事をしながらじっくり音楽を聞いているだろう。なければロサリオが演奏をして、俺とリオがダンスの授業で習った回避の訓練をしようと思っていたが、ラミアの妖艶なダンスがあり、激しい音楽もあった。前の世界の中東の音楽に似ているが、この辺りの音楽らしい。


「南部は魔法を使う魔物が多いから、ローブ姿の魔物が多いだろ?」

 ロサリオに言われてみると、確かに屋台の店主でも魔法を普通に使っている。杖を持つローブ姿のドルイドなども多いようだ。


「昨日みたいな野盗は、この先出ないかもな。ほら、群島産の薬も出てきた。いろんな薬を混ぜ合わせる研究もしているみたいだから」

 野盗も魔法使いが多くなってくるのか。

「ドラゴンになれる薬もあるんだっけ?」

 ロサリオがリオに聞いていた。


「勝手に眷属になれるらしいが、飲まない方がいいぞ。弱点まで同じになるからな」

「それ、倒せない敵でも倒せるようになるんじゃないか?」

「どういうことだ?」

「いや、まったく攻撃が通らないような敵にドラゴンになれる薬を飲ませて、逆鱗を突けば倒せるようになる。だろ?」

「毒として使うのか? その発想はなかったな」

「誰も試していないのか?」

「たぶん。そもそもそんな薬を滅多に入手できないからな」

「ちょっと待ってくれ。魔法の研究ってどれくらい進んでるんだ?」

 俺は疑い始めていた。中央の学校でも基本的なことは少し学んだが、ものすごく狭い範囲のことなのではないかと思い始めていた。


「それは群島に行ってみないことにはわからないぞ」

「それでも体系化しているんじゃないか。属性とか、幻覚魔法や攻撃魔法なんかじゃ種類が違うだろう?」

「そうだけど、それぞれの種族で使える魔法が違うからなぁ」

「いや、スキルだろ……? スキルで習得できるんじゃないのか?」

「そもそも才能がなければ発生しないのさ」

「ああ、そうか」


 確かに俺はまるで魔法を使えない。『もの探し』くらいじゃないか。


「でも、遠距離攻撃くらいは必要だよな」

「ああ、やはり買っておくか」

「そうだな」


 俺たちは鍛冶屋に行き、参加者用に投げナイフと大きめの板を買った。

 宿に行くと、参加者たちは揃って窓の外を見ながら、干し肉を齧っていた。広場の音楽を聞くのも飽きてきたか。


「投げナイフ買ってきたぞ。これで板に投げて行ってくれ。小さな力で大きく方向性が変わる。うまく当てられる時の自分の調子なんかも覚えておくといい」

「ちなみに俺たちは投擲スキルとか的当てスキルなんかを持っている」

「それくらい精度が大事ってことですか?」

 リイサが聞いてきた。

「そう言うことだ。どんな攻撃も当たらないと意味がないし、防御壁も位置がずれていたら逆に戦闘の邪魔になるだろ?」


 参加者たちにベッドを脇に寄せて、買ってきた大きめの的に向けてナイフを投げさせる。それほど動かないので、筋肉痛にもなりにくいだろう。


「心を落ち着けて、狙った場所に当たるかどうかだ。肘や肩を痛めないように、ゆっくり自分の身体の状態を確認してみてくれ」


 投げナイフはそれほど切れるようなものではなく、刃先だけが尖っていて子どもの遊びのようだが、皆面白がってくれた。

 

「この先、もしかしたら魔法のスキルを取る者も現れるかもしれない。魔法なんて当たらないと意味がないだろ? わざわざ追跡魔法のスキルを取るのもスキルポイントとしてはもったいない。だから、狙った場所に当たるというのは、結構重要なんだ」


 イザヤクはすぐにコツを掴んでいたが、リイサには難しいらしい。

 アーリャやハピーも徐々にできてきている。マーラは初めからできていた。


「魔法の練習で何度もやりましたから」

「そうか。魔法ってスキルとして習得するんだよな?」

「まぁ、魔力を使いながら、発生すると思いますよ」

「属性によって系統別になっているのか?」

「もちろんそうです。火、風、水、土なんかが代表的ですね。雷や氷なんかもありますし、光は結構ありますけど、影という珍しいのもあります」

「なるほど……。防御魔法は何になるんだ?」

「無属性ってことになりますね」

「恐怖を与えたり、魔力を吸収したりするのは?」

「魔法とは別のスキルだと思いますよ。呪いとかに近いですかね」

 使役スキルは使役魔法とは呼ばないか。


「肉体強化とかは?」

「それは補助魔法とか言われています」

「呪具みたいな効果がある魔法ってこと?」

「そうですね。戦闘の補助になるような魔法です」

「それって例えば、味方を鼓舞するような音楽や相手の動きを停めるような雄たけびは入らない?」

「魔力を使ってなければ、魔法とは呼ばないのではないでしょうか」

「でも、同じような効果のある魔法はある?」

「補助魔法はありますけど、相手の動きを停めるって時魔法の一種なので、珍しいですよ。時魔法や空間魔法を扱える魔法使いは滅多にいません」

「そうか。薬学は勉強した?」

「いえ、基礎的な薬草は知ってますが、あと知ってるのは毒消し草とか下剤に使う薬草くらいですね。なにか気になってるんですか?」

「ああ、ものすごく……。属性とかを考えて戦っていないってことだよね?」

「樹木の魔物は燃えやすいとかですか?」

「まぁ、そういうこと。飛んでいる魔物は雷に弱いとか」

「ハーピーでなくても弱いのでは?」

 隣で投げていたハピーがこちらの会話に入ってきた。


「単純に飛べなくなるんじゃないか?」

「確かにそうですけど……」

「皆、悪いな。コタローがこうなると長くなるんだ。紙を用意して、アイディアを書き留めていこう」

リオたちが声をかけて床に紙を広げ、木炭を手に取った。


「そんなにおかしなことじゃないんだけどさ……。寒い地方にいる氷魔法なんかを使う魔物に対して炎や熱は有効だよね? とか確認したいだけだ」

「そうだと思うぞ。イエティなんかには炎が効くはずだ。でもそれは他の魔物でもそうじゃないか?」

「いや、鱗を持つ魔物には効きにくんじゃないか?」

「ああ、そういうことか。体毛もあるからなぁ」

「マシン族のゴーレムに対しては粘着性の液体が有効だったよな?」

「そうだな。コロシアムのランキングをぶち壊したからなぁ」

「そんなことしてたんですか?」

 リイサが聞いてきた。

「ちょっとした夏の思い出さ。それより、魔法でもいろんな種類の魔法があるだろう? 火を玉にして放ったり、火の壁を作ったり、火の渦にしたりするよな?」

「しますけど、相当スキルレベルが高くないと出来ませんよ」

「そうだよね。だから、別の方法で同じ効果があれば、そっちの方がいいってこともあるよね? 魔力使わないでも、油を周囲に撒けば炎の渦を作れたりするわけだから」

「元も子もないような……」

「それではスキルのレベルが上がらないんじゃないですか?」

 イザヤクとアーリャはスキルを上げるのが目的のようだ。


「敵を倒すのではなくスキルを上げたいなら、同じことを繰り返した方がいいけど、ただ単純に敵を倒すなら、油を使った方がいいんじゃない?」

「スキルじゃなくて、単純なレベルを上げるなら、どちらでもいいのか」

「でも、魔力の使い方は上手くはならないのでは?」

「魔力の使い方かぁ。例えば、今投げナイフを投げているだろ」


 俺はマーラが持っていた投げナイフを借りて、柄にアラクネの紐を結び、的に投げる。


 カッ。


 スキルを使っているのでど真ん中に突き刺さった。


「この紐を魔力で再現ってできるのかな?」

「それはちょっと……」

「いや、できるんじゃないですか。壁だってできるし、土魔法だって再現しているわけですから……」

 魔物には難しいと思われているようだが、マーラはできるという。魔物には知られていないけど、やってみなくちゃわからないことなのか。


 アラクネの糸を引っ張ってナイフを手元に戻す。

俺は紐を外して投げナイフの柄に魔力をくっつけて放り投げた。


 カッ。


 一瞬魔力が引っ張られるような感覚があったが、ナイフには紐はついていない。


「やっぱりダメか」

 ロサリオがナイフを的から外して、俺に渡してきた。

「いや、これ性質を変えられればできるかもしれない。今は魔力でくっつけただけで結んでなかったし。そもそも『もの探し』のスキルで光る紐が出ているんだから、紐状にはできるんだよなぁ」


 もう一度、ナイフの柄に魔力の紐を結び、投げてみた。

 指先から魔力の紐が伸びていく。


 カッ。


 ナイフはしっかり的に当たっていた。

 ピンと張られた魔力の紐を勢いよく引っ張り、ナイフを手元に戻す。


「できたな……」

「それが出来ちゃうとヤバくないですか?」

 リイサが目を見開いて俺を見た。

「ヤバいよね」

「なにがそんなにヤバいんだ?」

「罠を同時に起動できるってことですよ」

 ちょっと皆、引いている。

「コタロー、またお前、戦闘の形を変えるつもりだな」

 リオが半笑いで見てきた。

「いや、うっかりだよ」

「ちょっと待てよ。いろんな実験ができるぞ」

 ロサリオが言うように、この魔力操作を使って、いろいろと出来そうだ。

「でも、ツアー中だぞ」

「いや、やってみてください。俺は見たいです」

「私も実験は見たいです」

「私たちも戦闘に使える実験なら、もちろん見たいですよ」

 参加者たちは魔力操作の実験を見たいらしい。


「え~、じゃあ、ゴースト系の魔物に協力してもらおうか。夕飯を食べたら、町の呪いがないか探そう」

 

 結構休んだので、情報収集くらいならいいだろう。野盗討伐の報酬もそろそろ来る頃だ。


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