120話「反省会という名の各自の能力確認」
「重要なのは反省会なんだけど、あんまり反省することがない」
「むしろ俺たちが反省しないといけないかもしれない」
夜中。全員で大部屋に行き反省会をやったら、リオとロサリオが勝手に反省を始めた。
気持ちはわからなくはない。
「実際のところ、今日の野盗の討伐についてどう思った?」
「どうって……。弱く感じました」
「俺も、言われたことをやっていたらいつの間にか終わっていて」
「野盗が予想通りに動いてくれたというか」
「そう。逆に皆さんにはどう見えてるんですか?」
「特にコタローさんは、ほぼすべての罠に野盗を嵌めてましたよね? どうやってるんですか? まるで予知能力みたいでしたけど、スキルですか?」
「どうって……。わざわざ石があるところを踏まないだろ? 坂になっているところはバランスを崩しやすいから戦闘では不向きだ。たぶん、そういうことの積み重ねがあって、野盗の踏む場所が見えてたんだよ。そうすると、攻撃が当たるとすれば、魔法使いのマーラくらいだから防御魔法で固めておいてくれればよかった」
「そうだったんですか?」
「他の者にはありますか?」
イザヤクが俺に聞いてきた。魔物の参加者たちも俺の意見を聞きたいらしい。
「イザヤクの身体の小ささは才能だから、ちゃんと戦術に組み込んだ方がいい。ハピーとアーリャは一撃で仕留めたいんだな?」
「そうかもしれないです」
「だとしたら、状況を作ることを考えた方がいい。確実に当たるまで待つのも戦闘だ。相手の選択肢を一つずつ潰していくんだ。だから、もっとリイサのやっていることを観察して罠に追い詰める一手を常に出していくことが大事なんじゃないかな」
「ああ、そうか。敵だけでなく味方の動きも大事だと」
「そうじゃないと連携が取れないだろ?」
「リイサはわかっていると思うけど、致命傷を負わせることではなくて次の行動をとらせないこと、次の行動を狭めていくことが仕事だ。だから自分の予想を外れた行動をして来たら、次はどうするのかを常に考えて行かないといけない」
「はい、わかります。でも、その次の行動に対する対処が採られている状況だったんですよ。だから、なんというか、野盗が出て来た時点で仕留めることは決められていて……。あの状況で、野盗たちが出てくるなら天井に穴を開けて脱出するしかなかったですよね?」
「いや、あの状況だと、天井に穴を開けたらアーリャに対処してもらう予定だった」
「あ、そうか……」
リイサはノートにメモをしながら、考え始めてしまった。
「ちょっと待ってください。私に向けられた火の玉はものすごく受けやすかったんですけど、それって計算してあの位置で私は待機していたんですか?」
「そう。相手からすれば、マーラの位置は見やすいし、わざわざカーブするような魔法を放つ意味も時間もないからね」
「じゃあ、私がゴブリンシャーマンを倒すところまで見えていたってことですか?」
アーリャが迫るように聞いてきた。
「そうだね。出口の上に立っていたから一番、見えやすかっただろ? まぁ、アーリャが動かなくても、あの位置にゴブリンシャーマンがいたら、イザヤクも横から斬れただろうし、ハピーも飛びつけただろうけど……。そうは思わなかった?」
「思いました」
「俺が考えていることまでわかってたんですか?」
イザヤクは目を丸くして驚いていた。
「いや、思わないと俺たちも困るからね」
「俺たちってことは、リオさんもロサリオさんも結末はわかっていたんですか?」
「ああ、そこからだよな」
「初めは皆そうさ。俺たちは戦術だけはバカみたいに考えてたんだ。それこそ、山賊のアジト襲撃なんて、まだやるのかってくらい夜中まで話し合ってる。だから、あの草原の洞窟みたいなのも頭に入っていた通りの状況なんだよ」
「だから、俺たちはイレギュラーがあった場合を考えて、遠くからでもお前たちを逃がせるような位置で待機していたんだ」
「ということは、私たちはリオさんたちが考えていた通りに行動できたってことですか?」
「ああ、そうだ。はっきり言えば、野盗が俺たちの想像を下回っていたし、俺たちはどこでボスを誰が倒すのかを考えて逆算していくから、最後の一手は誰でもいいようにしておいたというのが本当のところかな」
「レベル50になると、そんなことまで出来るんですか?」
「いや、これに関してレベルは関係ない。コタローとロサリオの戦闘に対する考察が異常なだけだ」
「全部コタローの影響だ。もっと言うと、俺たちは早い段階でスピードやパワーを鍛えるということから抜け出したせいだと思っている」
ロサリオが持論を語り始めた。こういうのもツアーにとっては面白いかもしれない。
「これからツアーを続けるとして、最後までタイミングと精度について厳しく追い求めることを要求すると思う。タイミングが合わない攻撃は何度挑戦しても当たらないし、精度の高い攻撃は力強い攻撃を凌駕するからだ。それを考えると、戦闘の組み立て方、つまり戦術や準備が見えてくる。そうすると、今度は自分に足りないものは何かが見えてきて、そこを鍛えるようになってくる。すべて逆算で考えていくんだ。だから五感と魔力なんだよ」
そう言われてもツアー参加者たちにまだ実感はないだろう。
「具体的に言うと、俺たちはアジトを攻める前に斥候を倒していただろ? その時点で装備を剥いだよな? そこからだいたいアジトの規模やトップのレベルなんかを予測できる。アジトまで行くと足跡から、重心の位置も見えてくる。臭いとかも含めて、どのくらい前にどのくらい大きい魔物が通ったのかもだいたいわかる。そうするとだいたいボスもこんな奴だろうということは予想するんだ。あと準備はそれに合わせればいいだけだろ?」
「すべてはタイミングと精度のためですか?」
「そうだ。特にアーリャとハピーは特殊な武器や重い武器を持つつもりだろ? だったら、一撃で仕留めるための精度とタイミングを追求した方がいい」
「俺たちはどうすれば……?」
いつの間にかイザヤクは前のめりになっていた。本当に強くなりたいのだろう。
「イザヤクに関しては本当に刀の精度が高い。急所のみを狙い、刃こぼれを嫌う。多人数戦ではそれが正解だ。ただ、ホブゴブリンの大槌をどうやって受け流せるかを考えた方がいい。受けに回るとすごく脆弱だろ?」
「そうです。刀と言っても所詮鉄の板。刃の腹で攻撃を受けると曲がってしまうこともあります。刃こぼれを直せば鉄が痩せてしまう。うちは貧乏剣士の家で育ちましたから、そんなにすぐ刀を買ってもらえるような家ではありません」
「イザヤクの身体の使い方が上手いのはそれでか……」
ロサリオが感心していた。
「俺の身体の使い方ですか?」
「そう。腰がものすごい安定しているよな。その上で手首や肩は柔らかい。だから攻撃が伸びるように見えるんだ。相手は、小柄だと思って油断しているといつの間にか間合いに入られている」
「他の人にはそう見えているんだ……」
初めて自覚したらしい。
「だから、才能なんだよ。あまり戦いにおいてそう思われないだろうけどね」
「私はどうでしたか?」
リイサがノートを片手に聞いてきた。
「もうわかってるだろ? リイサの武器は観察と思考力だ。量にまみれろ。どこにどう仕掛けるのがベストなのか、自分の位置、相手の位置、味方の位置を頭に叩き込んで最適解を導く。それを迷いなく当たり前になるまで繰り返すことだ。はっきり言えば、努力が実ることの方が少ない。考えていた机上の状況なんてほとんどやってこない。それでも考え続けるんだ。諦めるな。それが自分の仕事だ」
「はい」
「あの私は……、私はどうでしたか?」
マーラが杖を握りしめて聞いてきた。
「マーラが一番精度とタイミングがよかったな。魔法防御の作り方もそうだけど、出口を塞いだ壁で分断できたからな。あそこで俺は勝ちを確信した」
リオが褒めていた。
「そうなんですか?」
「ああ、俺もそう思うよ。敵が複数の場合、どうやって分断するのかが戦闘の鍵になってくる。いかに連携をさせないかの肝だからね。だとすると低レベルとは思えないな」
「そんな風に言われたのは初めてです」
「しかもほぼ無詠唱で防御壁を即時展開できるんだろ?」
「魔法はほぼそれしかできないので。あと出来るのは身体強化くらいですから……」
「罠師からすればズルだよな?」
「そうですね。敵の行動を制限するってことですから」
俺もリイサもチートだと思っている。
「魔法の防御壁ってどれくらいの攻撃で崩せるかも調節できるのかい?」
「魔力を調節すれば可能ですが、防御壁を脆く作るってことですか?」
「そう。脆い壁と固い壁を作れれば、罠もかなり変わってくるんだけど……」
「練習してみます!」
「ちなみにマーラは魔法学校に行ってたんだろ? もしかしていろんな失敗した防御壁ってあるんじゃないの?」
「あります。私はそもそも魔法をイメージするのが下手なので、穴だらけの壁とか、よく作って笑われていました」
「え? なにそれ? 今でもその穴だらけの壁って作れる?」
「作れと言われれば……」
「終わりだ。終わり」
「どういうことですか?」
「飛び掛かってきた魔物を穴だらけの壁で止めて、穴から槍でも突き刺せばだいたい戦闘は終わるだろ? あとは水の中を泳いでいる魔物を水面の上に穴だらけの壁で持ち上げたりするともうやりたい放題じゃないか」
「そうなんですか?」
「とりあえず、どういう防御壁を張れるのか、メモ帳でいいから書いといてくれないか。失敗作でもなんでもいい。自分が詠唱もせず即時展開できる魔法は全部書いてみてくれ。俺もリイサもそこから考えるから」
「わかりました」
魔法使いの婆さんはとんだ天才を連れて来たな。