117話「ツアー参加者たちは控えめ?」
翌日、中央で南部に行くレベル上げツアーの準備をしておく。鞄や靴など丈夫な革製品とナイフや武器を見ておく。防具に関してはそれぞれの動きやすい格好がいいだろう。
幸いリオの日頃の行いがいいため、衛兵隊からすぐにツアー料金を支払ってもらえた。ただし衛兵隊から三名は必ず参加させるようにという要望があった。選抜には俺も顔を出した。単純にリオだけで決めると恨まれる可能性を考えてのことだろう。
「秋は南部と決まりました。移動速度と水に強いかどうか、旅に連れていけるかどうかなどが選考基準ですので、今回選ばれなくてもいずれまたツアーは開催しますからお待ちください」
リオはリザードマンとウェアウルフ、ハーピーをそれぞれ選んでいた。
「この中には水に弱い者もいるだろう。ただ、この三人ならお互いを助け合って、危険な野生種にも対処できると考えている。レベルはあまり関係ない。目端が利く者でないと、旅のスケジュール管理や食べ物の量を調節できない。今回はこれを最低条件とした。ツアーとはいえ、野外訓練の一環だと思って任務に当たってくれ。よろしく頼む」
「了解しました!」
それぞれ、レベルが20そこそこらしい。全員女性なのは、リオの趣味というわけではなく、成長率を考えてのことだ。訓練でもやる気のある男たちはすぐに戦闘をしたがり、レベルがそれなりに上がってしまい、逆にレベルが上がりにくくなっている。
控えめな女性たちの方が自分たちにできることを知っているので、戦術も組み立てやすく、予想外の相手にも対応できる。妥当な理由だった。
彼らを伴って、寝袋と武器を見に行く。野営だと寝袋はかなり重要だ。マントでいいという酒場のレギュラーもいるらしいが、回復を考えるなら断然に寝袋がいい。小さくまとめやすく自分たちの体に合った寝心地がいいものを揃えていた。種族が違えば全然違う。
武器に関してはナイフとスコップがいいと言っていて驚いた。ウェアウルフの女性衛兵は、つるはしと言っている。
「穴を掘りたいのかい?」
「いえ、スコップは研ぐと結構危ない武器になるんですよ。それにフライパン代わりにもなりますし、落とし穴も掘れて、たいていの罠も崩せます。使う人が少ないので、結構対山賊にもいいんです」
「自分は鉱山出身なので使いやすいんです」
リザードマンとウェアウルフはまだいいとしてハーピーに関してはちょっと難しそうだった。
「本当はアンカーがいいんです。船の錨が。結局のところ我々の種族は足を使うしかないので、重い武器がいいと思うんですが、リオ隊長からはもっといい武器があると言われてまして……」
「ハピーは引く力が強いんだ。重い武器は移動の邪魔だから禁止だ」
ハピーという名前らしい。
「じゃあ、大きい鋸とかやすりとかがあればいいけど、ないから普通に刀でいいんじゃないか? 力は要らないから一番楽に斬れるようにツアー中に練習しよう」
「わかりました」
魔物も個体によって、性格は違う。得意なこと不得意なことも違うから、どういうスキルを取っていくのかもわからない。
「三人とも、目指す理想像みたいなのはあるの?」
「いや、それがその……」
「強くなりたいとは思うんですけど……」
「力に屈することなく弱者を守りたいという気持ちはあります」
「リオはどう見える?」
「強いですよ。急に入ってきた学生上がりなんて、もう誰も思っていません」
「ミッションの達成までのスピードが異常に速いです。私が噂を聞いたレベルの時には、もう解決しているので」
「強いのに優しいから、苦しいんだと思います。我々のような者まで視野に入れてくださっていたのかと……。衛兵の中では新人だから、損な役回りばかりさせられてるんですよ。リオ隊長は。それを見ていると、ちょっともう……。だから、このツアーはものすごく楽しみにしています。全力で参加させていただきますのでよろしくお願いいたします」
リオが自分の刀についてと技師から説明を受けている最中に、ここまで言われるとやる気にならざるを得ない。
「後は回復薬と、毒消しを各種揃えてほしい。俺たちはこれから辺境に戻って選抜してくる。なるべく3人と同じモチベーションの者たちを選んでくるよ」
店を出て、俺とロサリオは、リオに辺境へ一旦戻ることを伝えた。
「俺たちも行こうか?」
「いや、手間だろ? それより、ちゃんと準備をしておいてくれ」
「わかった。地図でも眺めながら、待っているよ」
俺とロサリオはアラクネ織物店とサテュロス楽器店で荷物をまとめ、辺境へと戻る。
帰りは道は通らず、山の中をまっすぐ進んだ。崖も山もロサリオが跳び越える。俺たちは連携を確認しながら、丸一日かけて辺境に帰った。
疲労は溜まるし、魔物に見つからないようカモフラージュのため身体を汚しているので、 アラクネさんが心配してくれた。
「大丈夫?」
「どこも怪我はしてないよ。山の中を走ってきたから汚れただけさ」
「なんでそんなことをしたの?」
「連携の確認だよ。俺もコタローもなかなか全力を出す機会が少ないから、身体が鈍ってるんだ」
ロサリオは『奈落の遺跡』があって本当によかったと思っている。
「ツアーでは、後方支援がメインになると思うんだけど、緊急事態には俺たちが連携して動かないといけなくなるだろ?」
「衛兵はやる気のある三名が参加するから、こっちもそれなりに集めないと」
「志願者はいるけど、何か方法はある?」
「移動速度が速くて水に強い、後は目端が利く、レベルは不問、これくらいかな」
「はっきりしているのね」
「ああ、秋は南部の方に行くことにしたから、山と群島を回ろうと思ってね」
「そう。じゃあ、志願者のリストを作っておけばよかった」
「名前聞いて、冒険者ギルドで見ていくよ。今なら闘技会をやっているかな?」
「たぶん、道場の門下生たちも来ていると思うわ」
荷物をアラクネさんの家に置いて、温泉で汗を流してから町へと向かった。
アラクネさんにツアーの志願者を教えてもらいながら、闘技会を見て有望な人たちをチェックしていく。ところが、見れば見るほど決められなくなる。いいところを見つけようと思えばいくらでも見つけられる。
観客席で難しい顔をしていると、元冒険者夫婦が声をかけて来てくれた。
「帰ってきたのかい?」
「ええ。選抜方法を決めていたのに、有望な人材が多くてなかなか決められませんよ」
「基準は何かあるかい?」
「一応……」
俺は簡単に秋に南部で出る魔物や群島のことなどを語り、ついでに呪いの浄化もすることを伝えた。
「レベルはどうだい?」
「レベルこそ一番どうでもいいですね」
「わかった。道場でも考えてみるよ」
「魔物の衛兵は来るんだろ?」
「ええ。3名来ます。それぞれ、リザードマン、ウェアウルフ、ハーピーです。しかも武器というか工具を使うんですよ」
「どんな?」
「スコップやつるはしです。ハーピーは船のアンカーを使いたがっているんですけど重いので、刀にさせました」
「そうかい。アンカーを使うハーピーか……」
「なるほど、わかった。明日までに決めておくから、倉庫の前で待ってな」
「いいんですか?」
「ああ、こっちもレベル上げツアーのために門下生を鍛えていたんだが、季節によってあるとわかれば考えないといけないからね」
「すみません。初めてなもんで」
「いいよ。その方が信用して弟子を預けられる」
「じゃ、明日」
「ああ、明日の朝に連れていく」
俺たちは結局、選抜を元冒険者夫婦に任せることにした。
「期待されてるんだな」
「そりゃそうよ。私だって行きたいのに我慢しているんだから」
アラクネさんも行きたかったらしい。
「すまない」
「いいのよ。私は『奈落の遺跡』で一緒に入ることにする」
「わかった」