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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
倉庫業と遺跡発掘業
116/226

116話「ツアーの選考基準」


 夜になれば、アラクネ織物店の向かい側にある酒場で、ロサリオとリオとツアーについての打ち合わせ。魔物がたくさん集まってくるが仕事の話をしているだけなので、案外話しかけられることはなかった。

 ミノッちゃんが八百屋を辞めて、貸店舗屋をやってもいいか相談しに来たくらい。若いうちは何でもやってみた方がいいとだけアドバイスした。

 後は客が遠巻きに酒を飲みながらこちらの話に耳を傾けているだけで、特に邪魔してくる者たちはいない。


「悪いね。うちの店の個室、荷物でいっぱいになっててさ」

 店主がお詫びの酒を奢ってくれた。


「いやぁ、いいんです。別に他の魔物に聞かれて困るような話はしないので」

「あんたたちが来ると周りの店も大入りだから、通りの店は皆助かるよ」

「そうなんですか?」

「コタローはすぐに中央からいなくなったから知らないんだ。俺たちはレベル上がってかなり大変だったんだから」

「今だって、通りの酒場や料理屋の店主たちが協力してくれてるんだぜ。コタローが来たということは商売の話だから邪魔しないように言ってくれてるんだ。高名輪地区の魔物でさえ通りに入場制限をかけられてる」

 仕事終わりのリオが言っていた。

「嘘ぉ?」

 そう思って、通りの入り口に目を向けると、馬車がたくさん停まっているように見える。


「なんだか出張しにくくなっちゃったな」

「でも、ツアーはやるんだろ?」

「やらないといろいろと滞っちゃうからな。辺境にも情報局を作ることになったし、アラクネ商会も金欠でね」

「コタローでも金欠になることがあるのか?」

「新しい事業をやる時はどうしたって金がかかるさ。で、ツアーなんだけど、やっぱりある程度制限を設けないと事故が起こる可能性もあるだろ?」

 リオが次々と酒と料理を頼んでくれる。使う機会がないから貯まっているらしい。


「夏前の俺たちみたいのばかりだと初めのスライムでやられちまうかもしれないからな」

「夜の沼を泳いで渡るか? あれ運だったよな」

「クイネさんがいなかったら山賊にやられてたかもしれないもんな」

「でも、安全なレベル上げなんて、あるのか?」

「それなんだよ。俺たちは質も量も倒してただろ? ツアーになると質を追いかけるのが難しくなるんじゃないか?」

「つまりボス級の魔物だろう? これは俺も考えたんだけどさ。呪いを辿ってみないか?」

「ああ、そういうことか……」

「どういうことだ?」

 ロサリオは仕事でやっているから気づいたが、リオは知らない。


「ツアーの最中に呪具探しをするってことだ」

「んん?」

「この前、俺たちが呪具を浄化しているって話をしただろ?」

「ああ、言ってたな。仕事だろ? レンタル業って言ったっけ?」

「そう。呪具を浄化させに行くと呪いの化け物みたいなのによく会うんだ。それで、結構レベルが上がるんだ」

「え!? 嘘だろ!? お前ら、俺の知らないところで……!」

「仕事さ。これも……」


 笑っているロサリオの顔をリオがつねっていた。


「こっちはクソみたいな仕事ばっかりしているって言うのにぃ……」

「やめろよぅ。気づかぬうちにってこともあるだろ?」

「実際は、ギリギリレベルが1上がったくらいさ。でも、ツアーの客からしたら」

「そうだな。呪具探しはやろう。中央でも裏通りで探してみる」

 リオは絶対にツアーに付いてくるようだ。


「あと狙い目はやっぱり海だよな。陸地とは違う噂があるからさ。魔物も多いだろ?」

「陸地よりも多いって話だ」

「群島も行くんだろ?」

「そうだな。リオは密輸船を探さないといけないだろ?」

「ああ。それこそ俺の仕事だ。ワイバーンがあんなに人間の国に入り込んでるとは思わなかった。たぶん、人間の国でも繁殖しているだろう。でも、やっぱり種族的にははぐれドラゴンが気になるんだ」


 リオは出された料理を口に運びながら、難しい顔をしていた。


「火山地帯を追い出されたはぐれドラゴンでも、人間の国に行けば自分が強いと勘違いできるだろ? そうすると人間の国で湧いた魔物を倒してくれという依頼が増えるわけだ。この前の辺境から連れて来たドラゴンも、単体でなら中央の衛兵よりは強かったからな。あれはまだ若いドラゴンだからいいけど、長年居座っている奴もいるかもしれないと思うとな……」

「いや、それもいると思うんだけど、俺たちが狙うのはたぶんこっちだ」


 俺は図書館で調べて書いたメモ書きを見せた。一応、周りに他の魔物がいるので口には出さないが、群島に海竜というのが大量発生することがあるらしい。


「いや、これは独自の……、じゃないのか?」

「それにしては種類がランダムすぎる。なんかあるんだよ」


 メモには「群島で実験か。それとも独自進化か」と書いた。


「これは普通に別件で調査だな」

「ちょっと待ってくれよ。そうなると連れていく魔物も決まってくるんじゃないか?」

「そう」


 もう一枚メモ書きを見せる。

『移動が早く、水に強い魔物を募集』


「それだな。そうするとドラゴンでも限られてくるか……」

「辺境にもどっちかはいるんだけど、両方兼ね備えているのは……」

 ゴーレム系は水に弱い。エキドナやラミアは水に強いが移動が遅い。アラクネさんは水に強いだろうか。逆にスライムは連れていけるが、仕事がある。


「衛兵にいるか?」

「いや、いないことはない。むしろ選考基準がわかりやすくなった」

「種族の差別にならないか?」

「ツアー自体初めてのことだし、秋は場所が場所だけに仕方がないことなんじゃないか。もしくはランクとかにこだわりがないというのも条件に付け加えようか」

「そうだな。価値基準による選考か……。俺たちもちゃんと考えないといけないな」

「本当だな。強くなると街中ではこういう扱いになるんだという実験台に俺たちはなったんだから」


 レベルが上がり強くなると、異性に言い寄られることも多くなったらしい。重婚が許されている地域に行って、ひたすら結婚をし続けて村を作ることだってできるかもしれない。

 だけど、二人はそれよりも町にいて思い悩んでいた。


「目標をはっきりさせるといいのかもな。俺の場合は『奈落の遺跡』の入場許可っていうハードルがあったからレベル上げも止められたし、レベル上げツアーという目標もあったからな」

「モチベーションは、かなり重要なことだ。俺もリオも見え過ぎるし、聞こえすぎるから、思いが自分の中に溜まってしまうんだよな」

「気もちっていうのは身体にもかなり影響するんだよ。お前たちのちょっと動作を見ても迷いがないだろ? 一時期俺はちょっと危なかったんだ。ずっと見張られているような気がしててさ」

「レベルが上がっても、なかなか心を鍛えられないもんだな」

「正直なところ、ここから先は心の戦いなんじゃないかと思う。だから魔王は国中の文化を集めたんじゃないかな」

「地上で必要なレベル……。これ以上を求めるなら『奈落の遺跡』へ行けってことか」

「結局、魔王に辿り着くんだな」

「いや相当、苦労したんだと思うぞ。今なら、あの像が睨んでいる理由もわかる気がする」

「本当だよ。中央にいるとな。意味のないことばかりだ。そんなことよりも文化を愛でろと言いたいよ。よほど気持ちが昂るし、落ち着くから」

「わかるわぁ。こっちからすれば、レベル10も20も大して変わらなく見えるんだけどなぁ……」


 些末な欲望や自惚れ、無駄な隠ぺい工作に必要のない忖度。ロサリオとリオの愚痴が酒量とともに増えていった。


「コタローはなんでないんだよ!」

「俺は仕事してるからな。嫉妬している暇がないんだよ。自分の会社のことで精一杯」

「すぐアイディアも思いつくしなぁ」

「それだよ。コタローがズルいのは」

「別にズルくはないだろ? 物の見方を変えてるだけだ。仕組みがないなら作ればいい。皆、同じ物差しで生きてても文化は発展しないだろ?」

「煙に巻かれている気がするんだよな」

「すべては人間と魔物の発展のためさ。あ、これ言ってると楽だぞ。面倒くさいこと考える必要がない。いい言い訳ができた」

「すみませーん! ボトルお願いします!」

「そんなに飲んでいいのか?」

「旅の間はそれほど飲めないからな。今のうちに飲んどけ」


 生きてりゃ頭を空っぽにしたい時もある。


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