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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
倉庫業と遺跡発掘業

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115/226

115話「中央へ出張!」

 商人ギルドからの条件としては、商売に関することは教えられないとのこと。売上や新商品などは教えられないが、町の危機については共有したいという。こちらも出すから、そちらも出してくれ、ということだろう。


 また冒険者ギルドのランキングについて、すでに道場運営などが始まってしまっているが、できるだけ公正に入れ替わりがあるランキングにできないかという要望もあった。

 

「それは俺たちに言われてもなぁ」

 ランキングに手を入れ始めると冒険者ギルド内の職員の仕事を奪うことになるので、要望は冒険者ギルドに伝えるように言った。商人ギルドはランキングを俺たちが決められると思っているのか。


「ランキングの上位全員と仕事をしているからでしょう」

 言われてみると、道場主と門下生たちがランキングの上位を占めている。別に手を貸しているわけではないが、浄化呪具の効果も知っている門下生たちが闘技会で勝つのは当然だ。そもそもランキングの上位同士で戦っているのだから、変わらないんじゃないか。


「ハンデ戦とか作ればいいのにね」

「ああ、本当の呪具を付けるとか?」

「そう。あとは剣士と魔法使いと分けたり、時々野生の魔物を入れてみたりさ。興行として儲からないでしょ」

「でも、たぶん職員たちの好みの闘技者が一番になるランキングになるんだよ」

「ビジネスライクな人がいればいいんだけど」

「コタローが提案してみたら?」

「え? 関わり過ぎるのはよくないよ。温泉の爺さんたちにちょっと言ってみる程度でいいんじゃない?」

「老人は変わるのが苦手だからねえ」

「じゃ、案だけ出しておくから、アラクネさんがこっそり職員さんに伝えておいて」

「また、私任せにしているね」

「俺は情報局を作るのにお金を作らないと」

「タナハシさんのレベル上げもでしょ」

「そうだった。結局ツアーの開催をしないといけない流れなんだなぁ」


 結局、俺は中央へ出張に行って、酒場の過去の依頼書を図書館で確認。ツアーの準備に入ることになった。

 ロサリオは呪具浄化のため『もの探し』スキルを取ろうとしていたが、なかなかレベルが上がらないらしい。門下生たちにも発生していない。上位互換のスキルが発生するのはそれほど難しくはないが、下位互換というのはかなりレベルが低い時にしか発生しないからレアなのだろう。

 レンタル用に『奈落の遺跡』で取れた呪具をたくさん浄化して、吸血鬼の呪具屋に預けた。

 すでにブラウニーたちは工事を始めている。急がないと借金生活だ。


 闘技会の案だけ出して、俺とロサリオは出張に行く。ロサリオにとっては里帰りも兼ねている。稼いだお金を実家に届けるらしい。


「じゃ、二、三日留守にするからよろしく」

「はい、その間にちゃんとツアーの計画を立てておいてね」

「わかった」


 アラクネさんに倉庫を任せ、ツボッカとターウに経費と収入の計算や業務を頼んだ。スライムたちもアラクネさんの使役スキルに従っているようだ。


「いってきます」

「いってらっしゃい」



 俺たちは東の山へ向かう。

 特に野生の魔物はいないし、山賊も出なかった。


 山で川を下る船に乗せてもらい、一気に中央近くまで進む。

 行商人と情報交換をしながら、中央の門をくぐった。


「じゃ、俺は実家に行ってから図書館に行くから」

「おう。親御さんによろしく」


 ロサリオと別れ、俺はアラクネの織物屋に挨拶に行く。


「あ、今日だったかい?」

 来ることは伝えていたが、アラク婆さんは忘れていたようだ。


「二日くらい泊めてもらえると助かるんですが……」

「ああ、こっちも仕事をちょっと手伝ってくれると助かる」

「なんです?」

「まぁ、蜘蛛の巣玉作りの内職さ」

「あ、それならやりますよ。とりあえず荷物を置かせてもらって、図書館が開いているうちに行ってきます」

「ああ、帰りがけに屋台で夕飯買っておいておくれ」

「わかりました」


 中央のアラクネの織物屋は俺の実家のようだ。



 紙とペンを持って図書館へ向かう。相変わらず、日中だというのに魔物の出入りはほとんどない。大丈夫なのか。


「こんにちは」

 ヴァンパイアの司書は前に会った時と同じ格好同じ体勢のまま、受付に座っていた。吸血鬼とヴァンパイアの違いはないのだが、こちらの司書さんはゴシック風の服を着ているし肌が白い。


「あら、いつか来た人間の?」

「コタローです。相変わらず静かですね」

「あなたが言ったイベントをやってみたのよ。お泊り会ってやつ。上手くいったのだけれど、ブームはあっさり終わってしまったわ」

 利用者が付かなかったのか。ちゃんと寝袋は用意したのか、飲み物は血じゃなかったか、寝ている子の血を吸っていないかなど考えられることはあったが聞かなかった。


「そうですか。秋の催し物でも考えてみればどうです?」

「秋だからって何かあるわけじゃないでしょ」

「いやぁ、食欲の秋とも言いますし、スポーツの秋、読書の秋、何でも秋を付ければいいんですよ。週一回やってみてはどうです? あ、秋の魔物討伐の記録を探しています」

「はいはい」

 仕事はしっかりやるようだ。


 秋ともなると、大森林の南側でカボチャ頭の魔物が出るらしい。それからマンドラゴラも多く、蔓植物のバラの魔物も一時的に巨大化する時があるのだとか。

 南部の港町では、切り裂き魔が現れるが姿を見た者はおらず、魔物の仕業ではないかと言われているらしい。かまいたちかな。


「群島の記録もあるんですか?」

「一部だけよ。研究者たちがそれぞれで勝手に魔物を進化させているから。魔物だけでなく魔法も進化しているし、密漁の旅団までいるらしいわ」

「その旅団が密輸に絡んでいるってことは?」

「密輸? どこに?」

「人間の国にはぐれドラゴンを紹介していたりしませんかね?」

「そんなこと……しないと思うけど、それって儲かるの?」

「儲かるんじゃないですかね」

「密輸の秋か……」

「あんまり悪いことは考えないでくださいね」

「いえ、収穫も始まるし、秋の実りも多いから、この時期ほど犯罪がしやすくなるってもんだわ。ちょっと注意喚起のイベントを考えてみようかしら」

「ああ、それはいいんじゃないですかね?」

「本当に? 嘘ついていない?」

「嘘じゃないです。なんでもやってみるといいですよ。秋の夜長と言いますから」

「そうね。読書しながら防犯意識を高める夜の読書会ね!」

「いいんじゃないですか」


 背中を押せば、このヴァンパイアは動き出すだろう。

 話している間にロサリオがやってきた。


「お、魔物の群れの記録は見つけたか?」

「ああ、いくつか見つけた。秋は南部だな」

「そうか。そこでリオに会ったんだ。レベル上げツアーの準備だって言ったら、衛兵も混ぜてほしいって言ってたぞ」

「ツアーと訓練はまた別だろう?」

「火山地帯に行かなければ、見聞のための出張ということで上には通せるらしい」

「大所帯で行くと宿はなくなるし、経験値も少なくなるんだけどなぁ……」

「海の魔物は森の魔物より研究も進んでいないから危険だしな」

「ツアーの最初は少人数にしよう」

「そうだな。辺境の門下生たちもいるし」

 そんな会話をしていたら、ヴァンパイアの司書が聞き耳を立てていた。


「そのツアーには一般の方も参加できるようになるの?」

「だいぶ先ですよ」

「だいぶ先でも行けるようになるのね!?」

「まぁ、そのつもりですけど……」

「そう。宣伝はしておくわ」

「いや、しないでください。どうなるかわかりませんし、責任取れませんから」

「そんな……。これも犯罪の秋……? 詐欺にはご注意って張り紙をしておくわね」

「お願いします」


 ヴァンパイアの司書は、推理小説などを選んでいた。


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