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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
アラクネさん家
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11話「ヒモ男はどうにか癒したい」


 ウブメ大発生討伐の翌日は、冒険者ギルドの周りに屋台が出て、ギルドの奢りで冒険者たちは酒を飲んでいた。

 ウブメはすべて討伐されたらしい。山には血の臭いが漂っているため、罠が張り巡らされ、新たな魔物を避けている。


「コタロー、温泉に行こう」

 アラクネさんは早く汚れを落としたいらしい。ラミアたちも酒より、汗を流したいとついてきた。

 徹夜明けの冒険者たちは疲労も溜まってふらふらしているので、ゆっくり山へ向かう。


「皆さん、酒はいいんですか?」

「今、酒で酔っぱらっている奴らは、ウブメを忘れたいからさ」

 ラミアが語った。

「それほど凄惨な現場だったんですか?」

「血生臭い現場だったことは確かだ。それよりも戦闘力とかで差が出たのだ」

 エキドナは、溜息を吐いていた。


「人間の冒険者がそんな非道なことをしましたか?」

「いや、そう言うことじゃなくて、戦闘そのものというか、体力の配分を考えていないというか……」

「あー、つまり、途中でへばってしまったんですかね?」

「後半は使い物にならなかったな。最初の威勢だけはよかったんだけど、引くところで引けないから怪我をする。相手の攻撃がわからないのに突っ込んでいくから、アラクネが糸で引っ張ってやっていた」

 リザードマンは呆れていた。


「最後の方は結局私たちが全部やった。死体も焼かないと、また魔物が現れるというのに、怪我をした、体力が底を尽きた、動けない。せいぜい使えたのは最期まで立っていた魔法使い一人くらいだったね」

 エキドナが認めているのは一人だけか。


「アラクネさんもそう思う?」

「うん。というか、私たちの武器も知られてなかったから。ここから先は蛇族の領分だとか、私の糸が張ってあるから森まで追わなくてもいい、っていうことがわかってなかったんだと思う」

「コミュニケーション不足ということですか」

「そうだね」

「いや、実力不足もかなりあるぞ。コタローはなんで冒険者にならない。コタローの方がよほど動けているよ」

 エキドナが迫ってきた。

「いや、俺は武器を扱えませんから」

「だったら、私が教えてやる。次、こういうことがあったら、こちらの負担が大きすぎる。間に入ってちょっと戦術を伝えてやってくれないか」

「それは、俺の仕事というか冒険者ギルドの仕事でしょう」

「ギルドは見ているだけで、現場では動けないからな」


 そんな会話をしながら、温泉まで連れていく。


「鎧も下着も置いといてください。俺が支流で洗っておきますから」

「悪いな」


 チャポン。


 温泉に浸かっている音を聞いて、俺は脱衣所の鎧や下着の入った籠を持って、支流へ向かった。


 鎧は血がべっとりついて汚れていたが、内側には全くない。返り血だけのきれいな鎧だ。さすがに得物までは洗えないが、下着も洗って干しておく。風もあるのですぐに乾くだろう。


 リザードマンが一番先に出てきた。


「これは血行促進にはいいな。療治の湯だ。すまぬが、これを背中の傷に塗ってくれるか」

「はい」


 リザードマンの背中には大きな古傷があり、赤く腫れていた。


「興奮したり暖まりすぎると開いちまってな。背中の傷は剣士の恥と言われているが、囲まれちまうと、手が二本じゃどうにも防げないことがあるものよ」


 リザードマンは恥じていたが、傷ができた当初は死の淵を彷徨ったんじゃないか。


「仕事でついた傷なら、労災です。治療費は依頼人から貰った方がいいですよ」

「生きてたら貰ったんだがなぁ」


 リザードマンは笑っていた。


「あら、男同士で仲いいこと。今日は誰のベッドで寝るのか決めてるのかい?」

「養生の日なのに出すか。コタローが全員相手してやるってよ」

「いや、そんなこと言ってないじゃないですか」

「近くに休めるところはないか?」

 ラミアが聞いてきた。

「え? 本当にするんですか?」

「そうじゃない。ケガをしていないとはいえ、疲労が溜まってる。どこかで休みたいだけさ」

「だったら、うちに来るといい。ベッドはないが毛皮がたくさんあるから」


 結局、魔物の冒険者たちを引きつれて家へと帰った。


「今日は、そんなに食べないから、薄い塩と細切れの肉を入れたスープを作ってくれない?」

「わかった」


 おそらく消化しやすい物を食べたいのだろう。冒険者たちが寝床を作っている間に俺はスープを作り、暖炉の側に置いておいた。腹が減ったら食べるだろう。


 程なく鼾が聞こえてきた。


 俺は一人、外に出て薪わりをしていた。パンはあるし、干し肉だって大量にある。食うには困らない。


「戦闘に対する考え方の違いか……」


 魔物には領分という考え方がある。あちらには手を出さないでも大丈夫、なぜなら誰かの罠が仕掛けてあるから、という暗黙の了解がある。魔物界隈のハイコンテクスト文化というのか。


 きっと人間たちには認知されていないことが多いのだろう。

 仕事終わりについての考え方も違う。魔物たちは自分の疲労の度合いを知っているから、肉体の修復に時間を使っている。


 人間たちは……、精神的に疲労が溜まる現場だったので、それを解消しようと酒を飲んで忘れる。


 どちらにも正しさはあるが、復帰が早いのは魔物だ。逆に、魔物は精神的な疲労をどうやって解消するのか。後を引くのは魔物か。

 酒、食、性に関するあれこれ、音楽、お笑い、スポーツ、何でもいいが、精神的疲労を取るならポジティブなことをすることだ。


 薪割りもほどほどに、俺は鍛冶屋のドワーフを訪ねた。


「なんだ? なんか用か?」

「祝いや祭りの時にやる行事で、こちらの世界で有名なものって何かありますか?」

「藪から棒だな。誰かの誕生日か何かか?」

「いや、ウブメの討伐に行った冒険者たちが、肉体の修復には時間を使っているみたいなんだけど、酒を飲んだりしないようでして。俺はこの世界の人間じゃないから、もし人間のお祭りみたいなのがあれば、やってみたらどうかと思って」

「祝勝会みたいなのでよければ、酒樽を割ったりするけど……。まぁ、それはドワーフだけかもしれん」

「魔物はあんまり酒を飲まないらしくて……。動物はアルコールがダメだっていうじゃないですか」

「まぁ、そうか。パッと思いつかねぇな。ちょっとエルフにも聞いてみな。なんか作るんなら協力してやるよ。今回の件は、冒険者のお陰で町の安全が保てたんだからな」

「ありがとうございます!」


 俺はエルフの薬屋へ向かった。


「今日はどうした? 回復薬でも買っていくかい?」

「いや、ちょっと教えて欲しいことがあって……」

 エルフの婆さんにも祭りでやるものを聞いてみる。


「だったらくす玉かなぁ」

「くす玉って、紙吹雪が入っているようなものですか?」

「いやぁ、お菓子が入っているやつさ」


 俺は前の世界であったメキシコのお祭りを思い出した。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 街まで、家でアラクネたちが寝ている間に行ったのかな?距離としては数時間はかかりそうですが。
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