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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
倉庫業と遺跡発掘業
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107話「使役スキルは温いのか」



 ゴルゴンおばばはしばらくアラクネ商会の倉庫で暮らすことになり、ロサリオの能力を見て腰を抜かしていた。


「あんた、魔王になれるよ!」

「俺よりコタローの方が向いてるよ」

「ありゃま! コタロー、なんてレベルをしているんだい? あんたたち何をやったんだい!?」

「ちょっとレベル上げの旅に出たんですよ」

「そうは言ったって、私が見た時はもう最底辺なのにただの筋トレでステータス異常を起こしていたけど、もうこれは普通のステータス異常だよ」

 普通のステータス異常ってなんだろうという疑問はあるが、おばばが元気そうで何よりだ。穴倉生活だと気分も落ち込みやすいので、なるべく外を散歩でもしてほしいが僧侶に見つかると連れ戻されるかもしれない。


「大丈夫だよ。教会の人間たちは町の東側には滅多に来ないだろ? 住み分けしてるのさ」

 ゴルゴンおばばは友達になった元冒険者夫婦とのん気に温泉へと向かっていた。


「さて、俺のステータス異常よりも『使役』スキル対策だな」

「実際のところ、スキルが高ければかかりやすいのかな? それともレベルに左右されると思う?」


 俺が使役しているスライムたちはすでにこの倉庫を家だと思っているし、懐いてもいるので使役スキルを使わなくても掃除をしてくれる。彼らにとっては食事なのかもしれない。

 埃などと一緒に僅かな魔力を吸っているが、倉庫は『奈落の遺跡』に直通しているため若干漂っている魔力の割合が多い。

 身体が縮んで来たら、すぐに水と『使役』スキルで魔力を与えている。


「魔力を渡しているだけなんだけどな」

「使役スキルの高さは、魔物への命令の強制力なんじゃないか?」

 ロサリオの予想は当たっているかもしれない。


「それは考えられるなぁ。どういう感じなのか、スライムたちが喋ってくれればなぁ」

「言語を習得している魔物を使役しようっていう発想がなかったけど、そもそもそんなことできるのか?」

「気づかないうちに使役されていて、行動も誘導されるがままって魔物側からすればものすごく怖いことよ」

「ただの強制奴隷化だもんな」

「人間にも使えないのか?」

「それが出来たら、政変が起きまくるんじゃないか?」

「魔王が出るまでの歴史では、魔物の国もそんな感じだったよ」

「人間の国の歴史も調べる必要が出て来たなぁ。でも、どうやって使役スキルを解除できるかってことが先だね」


 わからないことが多すぎるので、実験するしかない。

 ということでターウとツボッカに協力してもらう。


「そんな理由で呼ばれたんですか?」

「これでも自我が目覚めている大人だよ。私たちは!」

 ツボッカは大丈夫だと思うが、ターウは危険な気がしている。環境や周囲に馴染もうとするあまり気を遣うことがある魔物はなんとなく危ういと思っていた。


「周りに皆いるし、俺は変なことをさせるつもりはない。ただ、操れると町の危機だ」

「わかりますよ。いつでもどうぞ」

 ツボッカはかからないと思っている。

「え~? なんで? まぁ、いいけど……」

 やはりターウには自信がないのか。


 ツボッカに『使役』スキルを使ってみると、魔力だけ吸い取られ特に何もない。


「嫌な感じはあるか?」

「ないですね。温かい魔力を貰った感じです。あ、でも、確かに貰った魔力分はなんか働こうかという気分にはなりますね。あ、こんな感じなんだ」

 ツボッカは驚きながら感想をくれた。いいデータが取れた気がする。


「じゃ、ターウもね」

「よし、腹を決めたよ」

 ターウに『使役』スキルを使ってみると、こちらをものすごく見てくる。


「なんか言ったらどう?」

 自ら仕事を聞くのか。

「あ、じゃあ、今月の売り上げ計算しておいてくれる」

「わかった」

 ターウはカウンターの奥で売り上げの計算を始めた。


「完全にかかってないか?」

「え~!? いや、その方がいいでしょ?」

「俺の使役スキルの実験だぞ」

「ああ、うん。それはわかってるけど……。別に社長がやってほしいことをやってあげて何が悪いの?」

「スキルはそんな高くないのに、これか? ほとんど催眠術じゃないか?」

「そうかなぁ? なんかやらない方が気持ち悪い感じだけど……」

「これ、ヤバくないか?」


 俺はアラクネさんとロサリオを見た。


「たぶん、レベル差があるからだろうけどここまでとは……」

「意識していてもスキルの方を優先するって怖いね」

「こんなに危ないスキルだったのかぁ。どうやって解除するんだよ」

「ちょっと俺に使ってみてくれ」


 ロサリオは呪具屋にレンタルしている魔力を吸う剣を持ってきた。


「本当にいいのか? 行くぞ」

「大丈夫。俺はコタローとそれほどレベルは変わらないから、そこまで影響はないはずだ」


 俺はロサリオに『使役』スキルを放った。ロサリオはすんなりと俺の魔力を受け取り笑っている。


「なるほどぉ! これはツボッカの言う通りだ。体験するとわかるな」

「そうですよね!」

「でも、これで……」

 ロサリオは魔力を吸いとる魔剣の腹で自分の手をペシペシと叩いた。


「やっぱり、コタローの魔力を譲渡されても魔剣に吸収させてしまえば、使役の効果は消える。ターウちゃんの使役も消しておくか」

 未だに売り上げを計算しているターウの背中をロサリオが魔剣の腹でそっと撫でていた。


「あれ? なんかおかしい。計算、間違ってるかな? え、なんで計算なんかしてるんだっけ」

 ターウが眠りから覚めたように、周囲を見回した。


「これ、何の計算?」

「今月の売り上げだよ。つまり使役スキルを使った者の魔力が消えれば自然と使役スキルは消えるってことか?」

「そうだな」

「じゃあ、魔力を受け取らないまじないとか、他者からの魔力をブロックできる魔道具があればいいってことか?」

「そうだね。ちょっと吸血鬼の師匠にも聞いてみましょうよ」

「でも、スライムはどうしたってかかっちゃうんじゃないか?」

 スライムは常時魔力を吸い続けている。


「いや、それはないと思う。悪意のある魔力は受け取らないはず。自分たちが言語を発せない分、感情や気分を読み取ろうとしているから感覚が敏感なんだよね」

 アラクネさんは悪意を持ってスライムに触れようとしたことがあるのか。


「いや、温泉でね。リザードマンとかラミアはまだスライムに慣れていないから、恐る恐る触れようとしていて避けられていたのよ」

「なるほど。そもそも教会には近づくなってことか」

「でも、ガマの幻覚剤は教会にいる医療技術のある者からしか買えないんじゃなかったか?」

「ガマの幻覚剤で酩酊しているときに高度な使役スキルを使われたらレベルの高い吸血鬼でもかかるんじゃ……」

「そうなると、いよいよ教会にガマの幻覚剤を卸せないぞ」

「これ、どうなるにせよ俺たちだけじゃ対処できないだろう」

「手分けして報告しに行こう。俺は役所に行ってくるから、アラクネさんは吸血鬼の師匠にお願い。ロサリオは温泉に行って高レベルの爺さん婆さんに報告して、人間の国の歴史もわかる範囲で聞いてきてくれ」

「わかった」

「了解」


 ツボッカとターウに倉庫を任せて俺たちは、それぞれ報告しに向かった。


 役所の職長に事情を説明し、ガマの幻覚剤の流通を一旦停めた方がいいのではないかと報告した。


「それはかなり正しいかもしれません。我々も商人ギルドと協力して外からの魔力を遮断する帽子がないか調べてみます」

「商人ギルドは教会と仲が良くないんですか?」

「商人は時と場合に寄りますよ。ただ、自由な商売ができなくなるのは困るはずです」

「わかりました。こちらの方でも聞いてみます。もしかしたら、すでに開発されているかもしれませんから」


 人の伝手ではなくアラクネの伝手がある。

 役所を出たところで、白い豪華な馬車が通り過ぎていった。


 馬車は教会に停まり、中から白い僧侶服を着た女たちが出てきて重そうな荷物を運んでいた。同じような馬車が何台も教会の前に連なり、町は一時騒然となった。

 相手の動きの方が早い。いつから計画していたのか。

 この辺境の町は人間だろうと魔物だろうと受け入れる。果たしてあの集団も受け入れるのだろうか。


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