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短編

集合時間まで20分

作者: 第六感
掲載日:2023/07/31

「15分だ」

斎藤はそういった。

「15分だけ話をさせてくれ」

斎藤の手首には鈍く銀色の輝きを返すメタリックな時計が光っている。

飯田は「失礼な奴だな」と思った。「15分で話を切り上げてくれといっているようなものではないか」と。思いながらも、

「それは光栄。15分でお話しますよ」とだけ言った。

「ビジネスマンみたいなことを言うね。商談でも始める気かい?」

「みたいなことを言い始めたのはお前だろう。クラスメイトと旧交を温めてるつもりだよ」

「クラスメイトか。そうだな」斎藤はそういって時計を見た。1分経った。

飯田は会話の続きを探した。とりあえず地面に落ちてはいなかったので口から出るままに任せた。「最近誰かに会ったか?」

「いや」

斎藤は左上に目を泳がせる。空には記憶が浮かんでいるのか。

「特に会ってないな。話も聞いてない。こうやって道で会うような奇跡がないと」

「うーん? まあ、奇跡か。いや、どうなんだろうな。今日まで会ってなかっただけで、この県内で一番でかいオフィス街なんだから、知り合いと会うのは全然ありうることだったんじゃないか」

「ふん、僕らは県内で一番の学校を出たというわけじゃない」

「センセイ方がなんと言おうともな。自称進学校だとも」二人は暗く笑った。

「竹刀でたたかれたことあったな。あの剣道部顧問はいま障がい支援学級で車いす押してるらしいぜ」

「なんそれ! 虐待してないかな。大丈夫なのか」

「ああいうのは明らかに弱い奴には優しいんだ。反抗的な態度をとる奴が嫌いでな」

「ふうん。障がい者学級なんてできたのか?」

「そうらしい。担任に就職のあいさつに行ったんだ。俺がスーツに菓子折りもってだぜ」

「あの頃はネクタイ締めてるお前なんて想像もつかなかったけど、こうして見ると似合っているものだ。元気だったか? 赤羽先生は」

「元気だったがも赤羽先生はいなくてな」

「やめたのか?」

「今は兼子姓なんだ」

「なんてこった。それは、、、。おめでたい、であってたか?」

「そりゃそうだろ。いや、離婚の可能性もあるか。あの先生経歴不詳だしな。結婚であってるよ。指輪と一緒に苗字が変わったって言ってた。学校ではまだ旧姓使ってるけど。挨拶に行けばいいのに」

「まあ、機会がなかったんだ。」

「そのときに聞いたけど、この辺で働いてるのは結構いるみたいだぜ。八木くん、大島くん、山田くん、と、あと古手川くん」

「なにで働いてる?」

「さあ、それは知らない。理系の名前ばっかりだしな。想像もつかん。文系はひょっとしたら僕ら二人かもしれない」

「この辺で休むとしたら何してる?」斎藤がまたもやだしぬけなことを言った。

「ああ、すまない。立ち疲れたか。カフェでも入る?」

「疲れてない。俺はよくこの辺を散歩してるんだ。足腰には自信がある」

「散歩か。僕も散歩だな。電話なんかをすっかりデスクにおいてアップルウオッチも外して、デジタルデトックスをしてやるんだ」

「デジタルデトックス。時計もなしとは徹底してるね」

「まあね。それだけにできる時間は限られてるよ。電話とれないから怒られる」

斎藤は吹き出した。「バカだな」

飯田は何を笑われているのかぴんと来ていない顔をしている。

「俺はイヤホンに映画を流して歩いているから、言ってみれば真逆だな」

「真逆だな」

「運動もできるし、映画も見られるし、お得だろ」

「見てないじゃないか。見たら危ないし」飯田も相手の休憩を笑ってみた。あまり愉快な気持ちにはならないことを確認した。

「なに見るんだ?」

「いろいろだよ。ファスト映画なんてみてちゃいけないぜ。映画は時間がかかるものなんだ」

「見てないよ」飯田はファスト映画は見ないが、漫画の最新連載ネタバレサイトは見ている。こっそりと。後ろめたく。ところで、7分が経った。

「というか、今も時計つけてないな。ひょっとしてデトックス中なのか」

「そうなんだよ。ランチタイムのついでにね」

「散歩はどれくらいするんだ?」

「1時間くらい」

「そりゃ長いな」

「休憩中にアイデアが湧くこともあるから、という言い訳の下やっております」

「アイデア降ってきたか?」

「これが全然」顔を見合わせて笑った。信号が赤から青に変わって、また赤になって繰り返している。「行く前に最後のアウトプットを止めていくんだ。するとあら不思議、帰ってきてすぐに作業に取り掛かるしごでき男が誕生するわけ」

「そりゃ『ど天才』」

「真似していいよ」

「ありがとう、謹んでお断りするよ」斎藤の仕事に、途中で止められるアウトプットはない。

「だからね、連絡先を交換しておきたいけど、スマホがないんだ」

「俺は困らん」

「よければインスタを検索してフォローしてくれ。『iida2022222』ってやつ」

「そうしておくよ。俺のインスタは見る専門だから無味乾燥なフォローが飛ぶことになる。BOTと間違えてブロックしないでくれよ?」

「気を付ける。投稿したらいいのに、楽しいぜ」

「そんなに何をアップするんだ」

「なんでも。食べたご飯とか絶景とか、人と会ったら集合写真とって、メンションしてる」

「へええ。もともと筆まめなやつだったなお前は」

「そんなことあったか?」

「覚えてるぞ、お前は、前後左右の席の奴に年賀状を送っていた」

「送ってたわ。なんなら暑中見舞いも送ってた。親が大量に送る人だったから、何人に送るのかリストを作れって言われるんだ。2,3人の名簿を出すとこれだけかって」

「変わってるな」

「うるせえ。話全然変わるけど、いい?」

「そりゃもちろん」斎藤は時計を見た。どれほど笑っても冷静なやつだ。残り2分。

「交差点の角に新しくできたラーメン屋を知っているか」

「いや、知らない。中華料理のことじゃないよな?」

「そっちもうまいんだけど、いや、本当にその中華は今この通りで一番うまい可能性がある」

「それは気になるな。まだ行けてない」

「じゃなくて、ラーメン屋の方なんだけど、本場風のとんこつなのに臭みがなくてうまいんだ」

「博多とんこつで?」

「博多とんこつで。」

「それは確かにいい話だな。今度行ってみよう」

「今からでもいいぜ?」

「いや」斎藤が時計を見せた。向けられると秒針まではっきり見える。30秒だった。「もう終わりにしよう。時間をあんまりもらいすぎちゃいけないから」

30秒を残して話すことがなくなる。

「じゃあ」


飯田と別れて斎藤はメールを見た。バイト先に遅れるところだった。集合地点はこのオフィス街の時計店の前である。斎藤は覆面と平バールを用意した。この街での仕事は最後である。

FIN


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