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知識量を買われて祓魔師候補生になった僕と、意地悪臆病令息の最初の事件   作者: 新 星緒


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エピローグ

 結果から言うと、アルフォンスのお兄さんは助からなかった。異形ごと祓魔師たちに討伐されたのだ。


 私はお祖父ちゃんの蔵書を読んで、祓魔師のことならなんでも知っていると思っていた。けれども肝心なことはなにひとつ知らなかったらしい。

 事件のあとにアルフォンスと私は祓魔庁長官のもとに呼ばれて、異形に関する機密事項を教えてもらった。


 異形は恐らく、人間がひとり取り込まれて完成していること。その多くは王侯貴族であること。どうやら高貴な血肉が異形に好まれているだろうこと。ほとんどの王侯貴族が、身内が異形になった事実を隠したいと願うために、これらのことが絶対の機密事項になっていること。


 これらは実際に祓魔師になったときに教えてもらえる情報らしい。


 私とアルフォンスは異形にお兄さんの顔を見たけれど、あれは同化の途中だったそうで、退治されたそれの腹にはなにもなかった。一度異形になった者が助かる方法はないのだという。


 ただ今回の事件は祓魔庁にとっても、特殊なものだったみたいだ。異形は新種だったけどそれは最近の傾向だからよしとして、繭とそれを管理する存在なんてものは初めての事例なんだそう。


 でも生き証人はアルフォンスと私しかいないので、詳しいことはわからない。逃げ出した悪人たちは原因不明の死をとげ、潰されなかった繭があったものの中の人間は死んでいたという。それもカラカラに干からびて。お兄さんの友人はその中にいた。私が服装で特定した。


 だけどそのひともお兄さんも、事件とはまったく無関係のことで死亡したことになっている。貴族の体面ってやつだ。



 ◇◇



 待ち合わせ場所にはすでにアルフォンスが来ていた。

「ごめん、遅れた。寝坊しちゃって」と素直に謝る。「全速力で走ってはきたんだけど」

「ユベールって小さいのに体力があるよな」とアルフォンス。「あ、悪い。褒めてる」

「きもっ」


 わざとらしく言ってからアルフォンスを観察する。手紙のやり取りは二往復ほどしたけど、会うのは事件の日以来。十日ぶりだ。彼はずっと学校を休んでいる。

「君、ちょっと痩せすぎだよ」

「そうかもな。でも明日から学校に行くよ」

「ふうん」


 きっと陰口を叩かれるだろう。アルフォンスと私が異形討伐の現場にいたことは公表されている。拘束したのはアルフォンスの手柄となっているけど(私は悪目立ちしたくなかったから、そういうことにしてもらった)、休んでいることについては、『案外繊細じゃん』と嘲笑われているのだ。

 彼と並んで歩き出す。


「まだちゃんと言ってなかったと思うけど」とアルフォンス。「色々とありがとう」

「別に」

「兄さんを拘束したのは、助けることを考えてのことだろ?」

「……うん」

「ありがとな」

「最善策を考えただけだよ」

「俺はなにも考えられなかった」

「鼻水でぐちゃぐちゃの顔をしてたもんね」

「ユベールは強かった。心が」アルフォンスが私を見て微笑んだ。「俺は完敗」

「だったらバイト料に色をつけてもらおうかな。未払いだよ」

「忘れてた!」

「滞納料もつけてね! あ、待ってて」


 そう言って花屋に向かう。これからお兄さんのお墓参りに行くのだ。ラフォン公爵夫妻は異形になった長男を許せないらしい。体面を保つために葬儀はしたけど、お墓は作っていない。だからアルフォンスが、保管されていたお兄さんのトゥースボックスを使ってお墓を用意した。実際に動いたのは執事だそうだ。


「俺も買うし」とアルフォンスがやって来て、私と同じ花束を買った。

 店を出て、目の前の墓地に入る。


「だけどユベール。『二連』は昔流行ったって言ったよな?」

「うん。本当だよ」

「わかってる。俺も調べた。それよりも廃れた理由。お前が知らないはずはないよな」

「そりゃね」


 二連は強大な異形に対抗するために編み出された技なんだけど、問題点があった。どうやら前側の祓魔師の負担が大きいようで、突然死が多発したらしいんだよね。


「死にたいのかよ」となぜか怒り顔のアルフォンス。

「一回くらい平気だよ」

「神経が図太すぎ」

「じゃないと学校に行けないよ」

「……後悔はしている」


 ぼそりと呟かれた声。

 面倒なので聞こえなかったことにする。


「あ、ここだ」とアルフォンスがひとつの墓を示した。

 ふたりで花を捧げて祈る。


「……あの男の言ったことは本当だった」祈り終えるとアルフォンスは墓碑を見つめたままそう言った。「執事が教えてくれたんだ。兄さんは俺に対してコンプレックスがあったって」

「そっか」

「しかも両親と食事を一緒にするようになってからは、頻繁に叱られていたみたいなんだ。長男なのにどうして俺みたいな才能がないんだって」

「酷い」

「『味方じゃなきゃ敵』」


 アルフォンスがいつだったか私が言った言葉を口にした。


「俺は兄さんの敵だった」

「あのさ、アルフォンス。僕はずっと考えているんだけど――」


 あのときお兄さんが異形になって繭から出てきたタイミング。

 潰したのは悪人と繭。

 一番近くにいたはずのアルフォンスを殺そうとしなかった。


「もしかしてお兄さんはアルフォンスを助けようとしたんじゃないかなって」

 お兄さんは弟が憎いのと同時に好きだった。

 だいぶ私の願望が入った見方だけど。

「俺もそう思った。でも絶対、俺が自分に都合よく考えているだけだよな」


 アルフォンスがぼろぼろと涙を流す。

 彼の手を取り、近くのベンチにいざなった。隣り合ってすわる。

 泣きたいのなら、泣けばいい。私はガマンして生きてきたけど、だからこそほかのひとにはガマンするのはよくないと言ってあげたい。それがいじめっ子アルフォンスだとしても。



 ◇◇



 どれほど経ったのか。アルフォンスがようやく落ち着いたようなので、

「帰ろうか」と声をかけた。

 うなずいたアルフォンスが立ち上がる。が、泣きすぎたせいか足がすべったのか、ふらついた。

 すかさず手を出し支える。


 でもアルフォンスは重いんだった!


 支えきれずにふたりしてベンチに倒れ込む。かよわき私の上にずしりとしたアルフォンス。

「ちょっと、しっかりしてよ!」

「悪い」

「重い! 早くどいて!」

「ああ――」


 起き上がろうとしたアルフォンスの手が、ぐいと私の胸を押す。

「あ?」とアルフォンス。


 もにゃもにゅと動く手。やけに感触がダイレクトに――


 みると倒れた拍子に上着のボタンが飛んだようで、アルフォンスの手が服の下に入りこんでいた。今日は寝坊したから上着の下は下着で、しかもサラシも巻いてない。


「……」

 アルフォンスも自分の手が押しつぶしているものを凝視している。

 ささやかだけど、一応はふくらみのある胸。


「えええええっっっ!!!」

 叫んだアルフォンスがすごい勢いで飛び起きた。


「え、なに、どういうことだ? ユベール? え?」

 混乱しているアルフォンス。でも私だって。


 えっと、えっと。



 どうすればいいの、お祖父ちゃん!




《おしまい》



お読みいただき、ありがとうございます。

この続きのSSと未解決ネタについてが活動報告に載っています。公開は一週間程度です。

ご興味がありましたら覗いてみてください。

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