深い精霊の森の中
鬱蒼としげり光を通さない森の中を、私は歩く。
暗い森の中では、絶望の思いに私は縛られていく。
息は上がり、水ももうない。けど、戻ろうとしても、もう無理だわ。
ふらつく足をなんとか上げて歩いてきた。しかし、それももう限界に近づいている。
精霊森はまだなの?
そう思った瞬間、視界に明るい光の塊が現れた。
もしかして、精霊!?
希望の光だと思った。
いえ、そう信じ込んで顔を上げた。
けれど、それはただの塊だったの。
光る魔法の素となるエネルギーの存在。
「ああ…」
なんで?
なんでなの?
このままでは母上は死んでしまう。
精霊は人々の治癒ができる生物。そう、聞いてきたのに。
生物でもなんでもないじゃない…!
怒りに任せて腰にある剣を握って、光に振り下ろした。
否______振り下ろそうとした。
光に当たる瞬間、声が聞こえた。
『ただのエネルギーの塊と言っても、精霊になるまでに時間がかかるからやめてくれません?』
少し困ったような、そんな声音。
急に頭に響くその声に驚いて、私は剣を取り落としそうになった。
「あ、貴方は…?」
もしかして、この声の主が精霊なのかしら?
「私に…何をしているの」
冷静になりなさい、と頭に言い聞かせて。努めて声が震えないようにする。
あたりに気配はない。
なら、この声をどうやって私に届けているの?
『何…と言われましても。魔法で貴方の耳を対象に、声を生み出しているだけですよ』
魔法…!?
私は今度こそ、本当に剣を落とした。
魔法は、星の引力を用いて、生み出す力。人類には、魔法が使えないはずなのに。
さっきから驚くことばかりだわ。
でもとりあえず、敵対意識はない…わよね?
精霊なら、この森に入ってきて怒る…とかもありえるかな、とも思ったけど…。
『…大丈夫ですか?』
困惑したような声がまた聞こえて、私はほっと息をつく。
「ええ…大丈夫よ。貴方は精霊なの?」
『いえ…、ただの人間ですよ』
「人間には魔法が使えないはずよ」
『……そうなんですか』
やっぱり、人間じゃないわね。魔法が使えないと聞いて、驚いている声音だったもの。
精霊ね。人間のことを知らないんだわ。
「精霊森では、どんな病でも治ると聞いたわ。お願い、私の母の病気を治してほしいの」
『お断りします』
「なっ、んで…」
すると耳に残っていたくすぐったさが消えた。
もしかして____相手の声が聞こえなくなった?
私は慌てて声を発するが、何も返ってこない。
嘘でしょ…!
やっと見つけた希望の光なのよ。
なんで……。
膝から崩れ落ちる。
もう、駄目だわ。
助からない。
やけに冷静な頭がそう判断した。
ああ…眠い。
目を閉じようとした時。
『死にそうなんですか?』
見てたのね。
助けてよ……。
ああ、でもいいかも。母上が助からないなら、もう私も一緒に死んで…。
「困りましたね。僕、あまり力が強くないのですが」
とん、と木の上から人が降りてきた。
誰…?
白いローブで顔を隠していて、何も見えない。
けれど、隙間から見える肌色に私は少し驚いた。
エルフ……?
いない種族だと思っていたのだけど。
少し、きょう…みが…。
眠い…。ものすごく眠い。
まあそうよね。目をもう…開けられないもの。
体に力が入らないもの。
「ゆっくり休んでいいですよ。危害は加えませんので」
その言葉を区切りに、私の意識は暗闇に落ちていった。
読んでくださって、ありがとうございました。
ゆっくり投稿していこうと思うので、よろしくお願いします。