12
アリシアはただ呆然と突き破られた窓を見ていた
「………
…馬鹿なお兄ちゃん」
アリシアの口は歪んで
笑みをこぼした
………
……
…
『……く…』
目を覚ました俺は
それと同時に強烈な痛みが俺を襲った
『……ぐああ…ッ…く…ッ……』
だが、その痛みが生の実感だと感じた
(…どうやら…俺は生きているらしい…)
屋敷の傍にあった木が俺を地面へ直接激突させず
1クッションをおいて地面に到達したのだ
『ぐ……』
俺の頭は寝起きでありながら、痛みで目が覚め
何をすべきか、すぐにわかった
俺は鉛の様な身体を引きずりながら…
まともに動かない左足を引きずりながら
這う様に歩いていった
目的は…船だ
動かしかたがわからなくても
とりあえず、エンジンさえかかれば
何とか操舵できるだろう
そう考えた
俺は斜面に転がる様に洞窟の中へと落ちて…もとい入っていった
だが…
-バチバチバチ…メラメラ…-
船は炎上していた
「残念だったね
称お兄ちゃん」
『アリ……シ…ア…』
暗闇の中からアリシアの輪郭が炎によって照らされていた
俺の目の前が真っ白になったかの錯覚を起こした次の瞬間
-ガンッ-
『…ぐ……』
目の前が真っ暗になった
-ドサッ-
「………」
アリシアはただ佇んでいた
船が燃え尽きる様をただ静観していた
やがて、船は燃え尽き
真下の海水によって鎮火された
すでにそれは船の形をしていなかった
後に残ったのは
黒い…燃えカスの塊だけが
海水の上に浮いていた
………
『……つ……』
どうやら、俺はまだ生きているらしい
一日の
しかも、さほど開いていない間隔で
二度も気絶する事になるとは…
「…お目覚めはどう?」
俺はその言葉に顔を上げた
『……アリシア…!!』
金色の長い髪をした少女は
俺を見て笑っていた
その微笑は
少女のものと言うより
大人の女性のもののように見えた
それはまるで…
ジュリアさんのような…
『…殺さないのか?
俺を…』
「そうしたいと思ったけど…
やっぱりやめた
約束…したしね」
『約束…?』
「そう
まぁ…あっちが一方的にしたんだけどね」
『あっちって…誰と…』
俺は上手く動かない自分の身体を必死で持ち上げ様とした
「…凜音お姉ちゃん」
『凜音だと…!?』
「なんだ…そこまでは考えてなかったんだ」
『…何が……』
「…お姉ちゃんはね
気付いてたんだよ
貴方より前に」
『…そうだったのか?!』
「考えてもごらん?
お姉ちゃんの行動…思い出してみたら?」
『凜音の行動…?』
「…わからない?
なら…せっかくだから
お兄ちゃんには全部知っていて貰おうか…」
『…凜音の事を…か?』
その問いにアリシアは直接答えなかった
ただ、話し始める事でその答えとした
「お兄ちゃんと同じでね
お姉ちゃんは初めから私を疑っていた
お兄ちゃんが通気孔を調べてる間
お姉ちゃんは私の部屋を調べてた
…まぁ、お兄ちゃんの場合
断定して調べた訳じゃないから
同じとは言えないけどね」
『……もしかして…
隼人さんが殺された時
凜音の手が汚れてたのって…』
「私の部屋で見つけたみたい
通気孔を通った服を」
『………』
盲点だった
そんな事…気付かなかった
「あれはどう処理すべきか悩んだの
安易に捨てたら
万が一、発見された時
泥とかならともかく
埃に塗れた服なんて、疑われるし
燃やしたら目立つ
花瓶みたいに通気孔に捨てる訳にはいかないしね
だから、部屋に隠した」
『凜音はそれを見つけたのか…』
「案外、簡単なものだった
たったそれだけの一つの…
通気孔を通ったって証拠だけで、犯人が私だって見破ったんだよ
……クスクス
馬鹿みたい…」
俺は今のアリシアの最後の一文は誰に向けたものかわからなかった
「だから、お兄ちゃんが
昨日、外の空気吸いに出掛けた時に
お姉ちゃんは私を問い詰めた
そして…私は話したの
私の考えを」
『考え……全員を殺すってやつか…』
「お姉ちゃんはね
それを知って逃げようとしたの
お兄ちゃんを連れて…」
『俺を連れて?!
…もしかして…俺を後ろから殴ったのは…』
「手荒な真似だったけどね
話して信じてくれる様な話だと思わなかったから、だって言ってた」
『………』
(確かにそうかも知れない…
確かにアリシアに疑念は持っていたが
いざ、あの時
そんな事を言われて
俺は信じていただろうか?
タチの悪い冗談だと思って
相手にしなかったんじゃないだろうか?
だから…凜音は俺だけを連れて…
他のみんなに言ったって信じなかっただろうし
下手すりゃ、自分が批難される…)
「…お姉ちゃんはその後私が隠した船を見つけたの」
『俺はそこに運ばれたって訳か…』
「だけど、逃げられちゃ困る
私の完全犯罪が成立しないもの」
『…完全犯罪だって…?
そんなの…凜音が見破った時点で壊れたよ』
「…歪みは正せばいい
見破られたなら…消せばいいんだよ」
『ッ!!
だから…殺したのか!』
「うん」
『…たったそれだけの理由で…
凜音は…お前と仲良かったはずじゃないのか!?
まるで、本当の姉妹みたいに…!!』
「…今となっては…
関係ない事だよ」
『……なんだよ…それ…!!』
「…凜音お姉ちゃんね
抵抗しなかった
私を撃ちたいなら撃てばいいって
言ってさ」
『…!』
「…でも、その代わり
称お兄ちゃんは殺さないでってさ」
『凜音が…!?』
「…私の…好きな人だからって…言ってた」
『…!!!!!』
(どうして…
どうして…もっと早く…
気付かなかったんだ…!
両想いだった事が…死んでから解るなんて…!
何で…今更ッ…!)
「…船を移動させた理由は燃やすため
動かしかたは源吾郎さんに簡単にだけど、教わってたからなんっか出来た
あの場所じゃ…ばれやすかったからね
燃やすより動かしたほうがばれにくかったしね
時間はかかったけど
確実に実行したかったの」
(………
………
………
………
……!)
『船を…燃やす為!?
何で…そんな事を!?
そんな事をしたら…』
「…言ったよね
…完全犯罪の仕方」
『…まさか!』
「ふふっ…お兄ちゃんは見逃してあげる
どうせ、この島から出る方法なんて無いもの…
それに…約束したしね」
-カチンッ-
アリシアは銃口を自分の耳の上に突き付けた
後ろは断崖絶壁…
自分で自分を撃って海に消える気だ…
『アリシアッ!
駄目だッ!』
俺は必死でアリシアに飛び付いた
「…くっ…称…お兄ちゃん…何…を!」
俺はなんとかアリシアの手から拳銃を叩き落とした
しかし、その時すでに俺達の身体は
地から離れていた
-ドブォン-
海の中
俺は必死でアリシアの姿を探した
彼女の長い金色の髪が彼女を包んでいる姿を見つけた時
俺の意識は
完全に尽きていた
(……アリ……シア………)