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ひとりで家にいる

作者: 西牙叶
掲載日:2022/01/11

 起きると熱がある気がした。


 お母さんも気づいて、熱を計ってみると7.3度


「あら、ちょっとあるね」


 今日は学校は。

 我が家は、熱は低いうちに治すようにしているから。


 思った通り、お母さんは学校に休みの連絡をした。

 リビングのテーブルに水と風邪薬とレトルトのおかゆを置く。大好きな、たまご焼きも。


 自分で毛布を持ってきて、くるまってソファに横になる。

 これで、準備万端。


「お母さんは、仕事に行ってくるから」


 これは予想外。いつも居てくれるのに。


「もう、ひとりで大丈夫でしょ?」


「大丈夫な、気がする」


 お母さんはニヤリとしてうなずく。


「キツくなったら電話して」


「うん」


「お昼には電話するから」


「うん」


 お母さんは出かけてしまった。


 しーんとした家の中。耳をすまして外の音も聞いてみるけど、しーんとしている。


 テレビをつけて子供番組を観る。

 まるまったまま手を伸ばして、卵焼きをひとつ食べる。

 特別な時間。だけど、体が熱くて少しだるい。

 好きな番組達が終わってしまった。


 テレビを消して目を閉じる。

 うとうとしたけど、冬のヒヤッとした空気が顔に当たって気になる。

 イモムシのように体を動かしてまわりをみる。

 ソファの右横のベランダは閉まっている。左横の玄関ドアも閉まっている。

 でも、鍵は? よーく見ると閉まっている。


 だけど、安心はできない。


 なぜなら、こうやって、ひとりで家にいると


 ピンポーン!


 インターフォンが鳴って、ドアスコープをのぞいてみると


 着物姿のおばあさんがいる。


 ざんばらの白髪で怖い顔をして、手には(かま)を持っている。

 おばあさんを見てしまったら逃げられない。

 ドアをすり抜けて家に入ってきてしまうから。


 この話をどこで聞いたか忘れたから、追い払う方法もわからない。


 毛布にもぐりこんで震える。

 インターフォンよ鳴らないでと願うしかない。


 熱くて、息苦しくなってきた。

 耐えられなくて毛布から出る。

 お水を飲む。ひんやりした空気。


 トイレにいきたい。トイレは玄関のそばにある。


 玄関とトイレのところだけ暗い。

 我慢はできないので、いい方法を考える。

 テレビをつけて音量を上げる。

 毛布で玄関が見えないようにして、トイレにいく。


 なんとか最大の問題はクリアした。


 もうお昼。

 温めたおかゆと残りの卵焼きを食べる。


 トゥルルルル!


 電話が鳴った。お母さん?


 毛布にくるまったまま、電話に近づく。


 知らない人かもしれない。

 それとも、さっきのおばあさんが“玄関を開けな!”と電話してきたのかもしれない。


 恐る恐る出てみる。


「もしもし?」


『もしもし』


 お母さんだった。


『元気のない声ね。きつい? 熱はどう?』


 おでこに手を当ててみる。


「さがったみたい」


『ご飯は食べた?』


「うん」


『薬は飲んだ?』


「う、うん」


『飲んでないね? 早く飲みなさい』


「忘れてただけ。今から飲むから」


『飲んだら寝てるのよ。3時過ぎには帰るから』


 まだ、3時間ある。


 ソファに戻って薬を飲んで、横になってまるまる。


 静かなのは怖いので、テレビをつける。

 ぼんやり観ているうちに、サスペンスドラマが始まった。


 殺人事件を目撃してしまった女の人が、犯人に命を狙われて次々怖い目にあっている。


 もしも、目撃してしまったら、こんな目にあうのか。

 たとえば、ベランダから見える隣のマンションの人が、人を殺すところを見てしまったら。


 隣のマンションは道路の向こうなので結構遠い。でも、ギリギリ顔はわかりそうだ。

 ベランダがあるけど、向かいの人が出てるのは見たことがない。だから、どんな人が住んでいるのかは知らない。


 男の人で、殺人鬼だったら。

 目撃者は生かしておかないだろう。


 家の中に隠れる場所は……押入れかな。

 押入れなんて、一番に探すんじゃないかな。

 なら、お風呂の中に入って、フタをしめる?

 安心できそうにない。お風呂場は怖いし。

 電話で助けを呼ぶ? 助けが来るまで逃げ回らないといけない。

 ベランダに出て助けを呼ぶ? 7階だから聞こえないかもしれない。お隣さんは昼は留守みたいだし。


 大丈夫。家にいれば、鍵を締めてるんだから大丈夫。

 もうすぐ、お母さんも帰ってくるし。


 だけど、明日、学校に行く時に襲ってきたら?

 学校に行く時は、殺人鬼のマンションの横を通らないといけない。マンションには裏にも出入り口があって、その前には人があまり通らない道がある。


 殺人鬼はそこで待ち構えていて、顔を見たら追いかけてくるに違いない。


 そこからなら、まっすぐ学校に逃げるしかない。だけど、熱が出た後だから、全速力で走れる自信がない。


 殺人を目撃しないのが一番だ。

 向こうから見えないように、毛布をかぶってソファにペッタリと横になる。


「キャアー!!」


 女の人の悲鳴!


 テレビだ。消したいけど、怖くて動けない。


 ガチャガチャ!


 今度は玄関ドアからだ。まだ、なにも見てないのに。

 毛布の中で固まったまま、玄関の音に耳をすます。


 誰か入って来た。おばあさん? 殺人鬼?


「ただいま」


 お母さんの声だ。


「寝てるの?」


 毛布から顔を出して見る。やっぱり、お母さんだ。


「どうしたの? 泣きそうな顔して。一人でいるの怖かった?」


「ううん。おかえりなさい」


 怖かったけど、ちょっと楽しかったから笑ってみせた。


「すごい汗ね。熱がぶり返した?」


 計ってみたら平熱になっていた。汗をかいたおかげかな。


「プリン買ってきたよ」


 大好きなプリンがおいしい。


 また明日も休みたいような、休みたくないような。

おばあさんは恐らく、よじばばを間違えて記憶しているのだと思います。

ここまで読んでくださってありがとうございました。

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