異星人侵略編 【R15】(SF/ホラー)
【R15】です。残酷かつ、少々グロテスク、人が死ぬシーンがあります。
苦手な方はブラウザバックをお勧めします。
「ヴッ……ごの味噌汁、しょっぺえぞ」
食卓の向こうで彼がそう言った。
「そう? いつもの記憶通りだったけど」
「あ゛ん?」
彼は妙な返事をして鼻をかみ、リモコンでテレビをつける。
食事中にテレビを見るのはやめて、とわたしは何度も言っていた筈なのに、なぜ今日にかぎって守ってくれないのだろう。
朝のニュース番組が始まる。
『では今日のトップニュースです。数日前から噂となっていた異星人の存在を政府が正式に認め、危険な存在であると発表しました。先週、✕✕山中に墜落したと思われる謎の物体ですが、これは宇宙船と思われ―――――』
ニュースを見て私達二人ともが呆然とした。暫くして彼が口を開く。
「あ゛あ゛~、やっぱりぞうが。ネ゛ットで皆が言っでだもんな゛あ゛」
『―――――まだ未確認情報ではありますが、地球人を襲い、更に襲った人間に擬態して活動するとの説もあります。その為、政府は危険とみなし情報の公開を異例の早さで決断したものと思われます―――――』
私はぼんやりとニュースを聞き流しながら答える。
「ただのタチの悪い冗談だと思っていたわ」
『異星人の特徴については言語は濁音を多用する、味覚が異なると言う話ですが、これはまだ未確認なところが多く、誤った情報の可能性もあります。ニュースをご覧の皆さん、怪しい人物や物体には決して近づかず、まずは通報をお願いします―――――』
「恐えな゛ぁ……。おい゛、やっぱり味噌汁がしょっぺえぞ」
「そんな筈は……」
彼の真剣な眼差しに、私の体温が下がる。
彼は横にあったスマホを手に取った。なにかを調べている? それともどこかに連絡を取るつもりなのか。
「な゛あ、お前、の゛うごうぞくなんじゃねえが?」
「え?」
「だがら、の゛うごうぞく。ぞうなるど塩気がわかんね゛えんだど」
「なんで……何故、私が」
"背筋が凍る"というのはこういうものか。私はそれを実感し、そして身の危険を感じる。
やっと理解した。
彼はきっと、異星人として地球人を襲う存在だと―――――――――
―――――――――私を認識したのだ。そしてそれは正しい。
「私が『ノ゛ーゴー族』だと何故わかったあああ!!」
私は擬態のために被っていたわたしの皮を脱ぎ捨て、彼に襲いかかった。
「ひっ! ぎゃっ……」
「だま゛れ゛ぇ゛!」
叫びかけた彼の口を塞ぎ、手を抑え、スマホを取り上げる。
「黙れ」と言ったつもりだったが、地球人の皮がないとやはり声は変わってしまう。さっきのニュースでは私達は"濁点を多用する"とか言う表現をしていた。そのニュースはまだ流れ続けている。
『では次はお天気です。今日は特に花粉の飛散量が多く、例年の三倍以上と言われています。私も鼻がつまりそうです――――――』
彼を捕まえ、口封じを兼ねて"補食"する。
私達『ノ゛ーゴー族』は、皮を残し中身を吸う。そしてわたしの時と同じように、吸った相手の記憶の一部を吸収できる。
しかし私達は弱点も多く、この星でいう銃火器などで本体を撃つか焼かれれば簡単に死んでしまう。
その為、私達はその星の人間の皮を被り擬態してひっそりと活動するのだ。
何故彼は私の擬態を見破れたのか? そしてまだニュースにも出ていない種族名を言い当てたのだろうか。
数分後、記憶を吸収し、謎は解けた。
彼は私達の種族名を知っていたのでは無い。それどころか異星人だとすら思っていなかった。
わたしを心配して「脳梗塞なんじゃねえか?」と言いたかったのだ。
脳梗塞と味覚の関係について。
私は医療に詳しくないのでざっくりとした説明となりますが、脳梗塞とは血栓等により脳の血管が詰まり、脳の機能の一部が働かなくなる(脳細胞の壊死が起こる事もある)症状の名前です。
脳梗塞により働かなくなるなる機能は人それぞれです。つまり運動系であれば箸をつかめなくなったりしますし、味覚を司る味覚野の機能が働かなければ味覚障害を起こす場合もあります。
脳梗塞だから必ず味覚障害になるわけではありません。ただ、逆に突然味覚障害を起こし、口腔科等で診て貰ったり投薬治療をしても効果がない場合は脳梗塞等、他の病気も疑った方が良いという指針にはなりえます。