8つ目の窪み
2回目の投稿になります
前回より今回は自分で読んでもひどいなぁと感じます
気が向いたら全項修正するかもしれません
八窪峠、この峠はその名とは裏腹に7つの窪みがあり、そこを沿って道が整備されている
道の幅は軽自動車とバイクがすれ違えないほど狭く、7つの窪地を沿ったカーブも急であることからほとんど車は通らない
歩行者や自転車もこの前にある坂道で挫折して上ってこようとしない
みんな遠回りしてでも別の道を使う。主要な行先なら10分も遠回りすれば着けてしまうし、カーナビすらここを道として表示していない
それでもこの道を使う業突く張りは命知らずかバカなのだろう
毎年数名の犠牲者を出しながら、いまだにここを閉鎖しない行政の問題もあるのだろうが・・・
しかしここを閉鎖されてもらっては、俺たちが困る。
峠の細い道を1台のスクーターが男を乗せて走ってゆく
2年前に就職して以降毎日1回はこの峠を走るようになった
男の職業は3交代制の工場オペレーター、通勤ギリギリまで寝ていたい男にとってこの峠はなくてはならない通勤路となっている
週毎にシフトが変わる男にとってこの峠の朝、夕、夜は、勤めてから2年で親の顔よりよく見ている
どこでブレーキを入れどこでハンドルを切りどこで加速すればいいのか、目を瞑っては言い過ぎだがそれほどには熟知していた
「ラッキーセブンで末広がりなのに辛気臭ぇなぁ」
男に言わせればこの峠の印象はこうである
峠全体は高い木で覆われ景観が悪く、昼でも薄暗いためこの道を利用する者はライトをつけて走行するほどだ
各所のカーブにはガードレールが申し訳ない程度に並び、危険をその白い姿で守っている
しかし毎年人死にや行方不明が後を絶たず、そのおどろおどろしい空気は「ラッキーセブンで末広がり」な峠の姿と名前を死と恐怖の代名詞としていた
男が6つ目のカーブに差し掛かった時、珍しいものを発見した
「登山客?」
ガードレールの向こう側、背丈はかなり高くすらりとしている、大きな鍔のついた帽子を被る人影があった
男は特に気に留めるものでもないと、そのカーブを曲がり職場へと向かった
翌日、八窪峠で死亡事故があったことを知った
夕勤というのは厄介で、夕方出社の帰宅は真夜中だ
毎日深夜営業のキャバや飲み屋を巡るのも悪くないが、生憎そんな金は給料日くらいじゃないと出てこない
ほとんどの日は家に直帰でパチ屋開店までゲームで時間を潰すか寝るかである。時期が合うなら釣りもいい
男は帰宅後、寝るタイプの人間であった
パチ屋に行く以上晩酌が困難なため、素面でゲームに興じる事をしないのだ
そして6時間ほど寝て午前9時過ぎ、いつものように作り置きしてあった煮物をほおばりながら行儀悪くスマホで地方のニュースを眺めていると、小さく、その話題が取り上げられているのを見つけた
死亡したのは20代男性、昨日の昼に6番目のカーブでガードレール下に車ごと転倒、そのまま車外に放り出されて斜面を滑り落ち亡くなったそうだ
車は男性の友人のもので、その友人は見つかっていないらしい
シートベルトを締めておけば木々に車体が引っ掛かり助かる事もあったのだが、どうやら彼は、あの峠を甘く見ていたらしい
そんなことを考えながら10時開店のパチ屋に「出勤」するため急いで朝食を平らげ支度をする
夕勤は会社の「出勤時間」までパチ屋で遊んだ後、そのまま「出勤」するのが男のライフスタイルだ
店はその日によって異なるが、今週は峠の「こっち側」にある店が開店記念をやっており、しばらくはその店で打つと決めている
(昨日は2万勝たせてもらった、今日も勝たせてもらえるならこの先少し負けたことがあっても通ってやるぜ)
そう思いながら彼は「出勤」するのであった
結果から言うと「勝てた」
男の座っていた台は男の「もう一つの出勤時間」少し前から当たりだし、そのままロスタイムを使用して男に勝利をもたらした
そしてその代償は男のスクーターが現在進行形で払っている
峠の5つ目のカーブを勢いよく駆け抜ける
1つ目のカーブでは危うく人身事故を起こすところだった
「まさかまた登山客に出くわすとはなぁ」
1つ目のカーブを抜けた先に若い女2人組が歩いていたのだ
男はブレーキをかけながらハンドルを切り二人を避けることに成功させ、停車して2人の状態を確認する
1人は20代前半くらいだろう、黒基調の落ち着いた服と驚いた顔がミスマッチしていて印象的だ
もう一人はその妹かなにかだろうか、頭一つ分小さい彼女は驚くこともせずこちらを見ていた
男は急いでスクーターから降りて謝罪をし、その場を去って今に至る
次が6つ目、これが少し厄介だ
事故が起きた直後というなら現場検証に警察が来ているかもしれない
男は速度を落として6つ目のカーブに差し掛かる
警察はいなかった
拍子抜けだ、これならもう少し速度を上げてきたのに
男はガードレール越しに事故現場が見えないか、興味本位で首を伸ばした
そこにはいつもより少し鬱蒼とした斜面と1人分の人影があった
(あんな場所で何をしているのだろうか?)
男は疑問に思ったが、すぐに頭を切り替えスクーターを加速した
そして7つ目のカーブに差し掛かった時にミスをした
男は急斜面をスクーターと滑り落ちながら考える
なぜこんなことになった?
急いで注意力が散漫になっていた?
毎日の運転で慢心していた?
そもそもなんで、こんなことにならない為の「ガードレール」が無かった?
昨日の事故で「ガードレール」が壊れていた?
そしてなんで木にぶつかって止まらない!こんな時の為の林じゃなかったったのか!
滑り終わるころ、男は全身打撲で身動きが取れず仰向けのまま呼吸するのがやっとであった
意識はまだかろうじてある。しかし助けを呼ばないと時間の問題だろう
男は痛みを我慢しポケットからスマホを取り出す、がジャケットから出てきたスマホはそのまま地面に滑り落ちてしまった
「ここで死ぬのか?」
男が死を覚悟した時だった、自分を囲むように人影が現れた
それは大人から子供まで様々な大きさの人影が大きな鍔付きの帽子を被ってまるで地面から湧き出したかのように表れたのだ
男が力を振り絞り再度助けを求めると、人影は男の体を抱え、滑るようにその場を後にした
「もう少し頻度を落としてもよいのではないでしょうか?」
若い女の声がする
「そうは言っても昨日の今日で実行されるとさすがに目立ちます」
女は誰かに対して怒っているのだろうか?
「我々もあなた方と敵対したくありません。その為にも多少の犠牲には目を瞑りますし、看過できない場合の交渉役として私たちもここに来ているのです」
ずいぶんと険悪だ。あなた方ということは相手は複数人なのか?
「・・・わかりました、資料とシナリオはこちらでも用意します。あとは上手く成り代わってください」
話はまとまったようだ
まどろみにある男の意識は、覚醒することなく誰かの会話を聞いていた
女の言は刺々しいが、その声は甘美で心地よく全てを委ねたくなるような衝動に駆られる
対する者の声はよく聞き取れない
周囲で何やら始めるような音が聞こえるが、男にとってもう考えるだけの気力は残っていなかった
男の意識は覚醒することなく、まどろみの中に溶けていった
会社についたのは始業開始30分後だった
俺は上司に寝坊したと嘘をつき、休憩時間に同僚へ3万勝ったことを自慢した
「今日は迷惑をかけた分勝った金で飲みに行こう」
俺は同僚と約束をし、その日の仕事を定時で上げて同僚と朝まで飲み明かした
キャバの姉ちゃんに「あんたちよっと泥臭いよ」と言われたのは少しショックだった。あのデオドラント好きだったのになぁ
「そういえばお前、寝坊したことにするとしても連絡くらいちゃんとしろよ」
別れ際同僚がそんな注意をしてくれた
俺はポケットの中に手を突っ込みスマホがない事に今更気づく
「すまない、スマホどっか落っことしちまったみたいで気づかなかった」
俺はそう答えて今昼の宿を探しに行った
正直最後まで読んでも説明しなければわからないものがたくさんあると思います
前回はその辺話してくれる人がいたんですが、状況だけで物事を伝えるのは難しいですね