転生したら入道雲だった──復讐するまで死ねんと叫んだら、通りすがりの天気の神様が助けてくれました。って、入道雲になるなんて聞いてない！
「あいつに復讐するまで死ねん！」
それが俺の今際の際の叫びだった。
そこへ
「それはタイヘン」
とやけに気軽な声が返ってきた。
周りを見ると、明らかに神様でございという風体のじいさまがいた。
「あ、わしは通りすがりの天気の神じゃ」
……天気。復讐には役に立たなさそうだ。
「そんな顔をするでない。わしも流行りの転生とやらをさせてみたいのじゃ。異世界はムリじゃが、そなたの場合は現世でよいのじゃろ？」
俺はすかさず平伏した。
「よろしくお願いしやっす！」
「ほっほっほ。任せたまえ。これでわしもトレンドじゃ」
神様が手にしていた杖をひとふりした。
◇
気がつくと、体の感覚が頼りない。頭の上は暗い青。足元は町並み。
え！？
俺は何に転生したんだ。鳥か？
「入道雲じゃ」さっきの神の声がした。遅れて姿が現れる。「わしは天気の神じゃからな」
「入道雲でどうやって復讐するんだよ」
「憎き相手に雷を落とせばいいじゃろうが」
神様のくせにエグいことを言うな。
「ほれほれ、雷を発生する練習をしないと。入道雲の命は最短10分じゃ」
「ええっ。どうやるんだよ」
「それはじゃな。ほれ、こんな感じじゃ」
神様が杖を振る。すると感覚が曖昧な俺の腹の中がざわつき始めた。気味が悪くて、ふんっと力をこめると、
バリバリバリッ
と音を立てて雷が地上に放たれた。
「うまい、うまい」
手を叩いて喜ぶ神様。
「この雷をどうやってあいつに当てるんだ？」
「練習あるのみじゃ」
どんなムリゲーだよ！
また腹の中がざわざわしている。
ふんっ
バリバリバリッ
「お。さっきよりスムーズじゃの。その調子じゃ。わしは神友に自慢してくる。達者でな」
「いやいや10分の命に達者でなんて言われてもっ」
そうじゃのぉぉ
そんな声が遠くから聞こえた。
◇
雷を星の数ほど落としたけど、あいつに当たることはなかった。
まあ、いい。俺の彼女を横取りしたヒドイ奴だけど、許してやろう。雷雨の中、俺の葬儀に向かう姿が見えたのだ。
俺は最後の意識を雨に変えて、地上に降っていった……。
◇
「あれ？」
頼りない体の感覚。頭の上は暗い青。足元は町並み。
また入道雲になっている！？ 成仏するんじゃねえの？
「お、この入道雲はあのときの君じゃな」
聞き覚えのある声と共に天気の神様が現れた。
「ということは雷シューティングは成功しなかったのじゃな。だが安心するとよい。オート転生機能を付けておいたから、復讐が果たせるまで、何度でも入道雲に生まれ変われるのじゃ！」
