卒業の研究
少々、話は逸れたが、卒業研究は、まず検索プログラムを拡張し、学園の蔵書五百万冊の内容全てを全文検索できるようにすることから始めて、人工知能的なアプローチへ進むことにしている。
研究を進めていて、驚いたのは魔法のCPUパワーだ。データ量に依存した検索時間がかかるという仕組みでは、ないようなのだ。どんなに量が多くてもコンマ数秒で結果が出る。応答時間を厳密に計測してみて、またビックリ。逆に、データが少なくてもこのコンマ数秒に変わりはないということも分かった。
もしかしたら、魔法の世界の中では時間の経ち方に干渉できるのではないか? 大きなデータを入れてやると、その分適切に時間を過去に遡って検索を開始しているようなのだ。
過去に行くこと。時間を巻き戻すことは、こちらのリアルワールドでも難しい。その方法は発見されておらず、できるか否かも分からない。だが、魔法世界では「情報」は過去へ送信可能なようなのだ。そう。電話レンジ(仮)を使えば、ショートメッセージを過去に送れるということだ。
「ようだ」と書いたが、実装している本人がなぜ分からないのか? 不思議に思うかもしれない。こう説明すればいいだろうか。貴方にプログラミングの経験があれば、かなり想像し易いだろう。
魔法のプログラミングはOOP(オブジェクト指向プログラミング)そのもので、そのメソッドは「秘匿」されている。だから、私たちのプログムは魔法オブジェクトに対して、メッセージを送り、その結果を見るということの繰り返しなのだ。
分からない? うーーん。このIT全盛時代に、もう! あのね。魔法でできたブラックボックスに、問い合わせると、結果が返るみたいな感じで、考えてくれればいいかしら?
「ねぇ。ルナ、貴女のいた前世、物質文明の世界って、前に、殺伐としているかも? と言ったけど、卒業研究を通じて、知れば知るほど、とっても便利な面もあるように思えるわ」
「確かに、空を飛ぶ乗り物もあって、物理的な移動手段は格段に優れていたと思う。でも、どうだろう、情報伝達手段やそれを認識するという点では、この世界も大差ないわ。それに」
「それに?」
「魔法があるこの世界は、物を作るのがとても簡単。言い方を変えれば低コストで物が作れると思うの。このことは、人々の貧富の差をなくし、無用な争いを回避できている。私の考えで、とても大きいのは、真水の確保かな。海水から雷魔法で簡易、かつ、大量に水が作れること」
「確かに水って人が生きていく上での根本だものね」
というように。ミチコとHばっか、してるわけじゃないんだからね。ちゃんとアカデミックな会話もしてるわ。
卒業研究とは別に、私個人として進めておかねばならないことがある。私がこの世界に来た使命の一つなのだから。それは、来るかもしれない、魔法のない世界に向けて、その代替手段を考えておくこと。
だが、これは、とてつもない長い道のりの先にある。例えばスマホを一台作るといっても、石油からプラスチックを作成することすら、簡単ではない。膨大なテクノロジーの集積結果がそこにあるからだ。電子素子は敷居が高いから真空管でも? ガラス管をどうやって作って、さらには、空気をどうやって抜くの? となる。
正直、もし、私がこの終末を生き残れたら。その確率がいかほどのものかなのかも分からないし、自らの自殺願望との折り合いもある。
だけど、仮に仮に生き抜けたとしても、エルフの寿命千年を要する大事業だろう。というか、千年かけても基礎技術の知識を、情報として多数の人々に与えるということだけで手一杯かもしれない。
ひとまず。本当にひとまずのトライアルをすることにした。この学園、この世界の人は音楽好きなのだろうか。入学式もそうなのだが、卒業式でも例の学芸会、演奏会があるのだ。私的にはかなり洒落っ気もでた。ここには、まだ存在しない音楽を聴かせてやろうじゃないか! という目的も兼ねることにしたのだ。
そこの君! なんだと思う??
アンプを作ってサイレント楽器と合わせる。どう? さっき、真空管の話をしたが、今回のトライアルは、物質文明で言うところのアンプを作成するわけではない。
その逆だ。魔法の珠をTV電話のように使っているという点に注目したわけ。あれは、雷属性の魔導石で動く魔道具だが、声、音声を何らかの魔法で増幅しているハズなのだ。
ならば、あの仕組みを応用すれば、ベース電流、魔法的にいうと、音声という「概念」を増幅できることになるはずだ。これで何が嬉しいって? もう。鈍いわね!!
私が作った魔法のアンプと電子回路を使ったアンプ、両者の仕組みを比較してみれば、増幅はどのようにして魔法で実現するのかが分かる。すなわち、魔道具を調べ、似た構造の部分は増幅回路で置き換えてやればいいってこと!
本来、魔道具と電子機器はその発展過程が全く違う。なので、電子機器ではありえない組み合わせで機能を実現してしまっている。
だが、アンプのように単純な仕組みなら、一対一対応で実現できる魔道具が作れるだろう。これにより、魔法と物質文明の比較を少しずつ理解していこうという試みだ。分かったかしら?
ほうらね。チャンバラばっかりやってると思ったの? ちゃんと勉強もしてるでしょ?
魔法は、全く異質な世界が、リアルワールドに重なっている感じかしら。だから、リアルと魔法は、別の物理法則に従っていても並び立つ……。で、分かる?
21世紀のテクノロジーを、異世界に持ち込むことを考えた時、「Dr.STONE」が浮かびました。だけど、まとまった成果を短期間でとなると、リアリティがないかなと。で、逆にしてみました。
電話レンジ(仮)は「シュタインズ・ゲート」ネタ。OOPは、プログラミング経験がないと知らないかな? 秘匿の意味が違うとかツッコミはなしでw
で、淡々とした説明回となりましたが、その中に、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、伏線があります!




