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ルツの剣術

 ということで、負けてしまったが、私としては上出来だろう。去年、リベカ、今年、ミチコ、自分の専門外での優勝は大したものだと思う。お昼は今年も恒例で、ミチコのライスボール。


 私は、例の和食屋さんから取り寄せた緑茶を振る舞うことにした。六人でお弁当を食べる。さて、これからの午後の部は剣術。私の弟子三人の戦いとなる。


 前回は二人一組での参加を特例で認められたエドムとジャムだが、さすがに、今回の特例はなし。それぞれ、別々に参加ということになっていた。


 だが、二人とも単独での技もかなりのもの。変則的な二刀流は相手を幻惑し、順調に勝ち進んでいた。一方のルツは全くの正攻法。男の娘の見た目とは裏腹な力押しの両手剣で勝ち進む。


 準決勝はエドム対ルツとなった。普段から一緒に練習している二人。手の内は双方分かり過ぎるくらい分かっている。さて。どうするのか?


 亮力ではルツが上回っている。まともに組んでの鍔迫り合いは、エドムに不利だろう。だが、そこを敢えて、エドムの方から二刀をクロスさせて、ルツの一撃を受けた。


 全身の力を込めて弾き返してから、どちらから出るか分からない変幻の二刀流。私の得意技の応用だが、いつも練習しているルツは見切っていたのか。あるいは、五割の確率に賭けたのか。見事に左に交わしながらの再び重い一撃。エドムは再度受けるが、ジリジリと押されている。


 ここで、優勢なルツの方が一か八かの勝負に出た。この手のことができるのは、私の技をよく研究していたからなのだろう。とてもトリッキーな技だ。ルツはとっさに下がりながら両手を離す。虚を衝かれたエドムは前のめり。体制が崩れた。しかも、驚いたエドムは一瞬動けない。うはぁ〜こういう流れ、私流、まんまやん。


 落ちてくる剣をサッカーのリフティングの要領で、膝で止めたルツは、剣を逆手に持ってエドムの胴を薙いだ。ああーー。エドム。何も考えず、そのまま切り込めば勝ちだったのに! 負けて、観客席に戻ってきたエドムが私に語った。


「いやぁ〜。ルナさんの一番弟子は、ルツですよ。正攻法をフェイクに変えて、変幻技、すごいです。ルナさんと試合をしているようでした」


「エドムも普段とは違うソロでの戦いだし、頑張ったわ。だけど、さすがに、アレはなねぇ〜。よく練習している相手だからこそ、考えた技なんでしょうけど、実戦向きじゃないと思うわ」


「でも、だかこそ、ルツさんの勝ちたいという情熱に負けたってことでしょう」


 決勝戦はジャム対ルツだった。これにもルツに秘策があるようだ。こちらの勝負は一瞬で付いてしまった。ルツはなぜか短刀を手挟んでいる。うん? これ? しかも。長い剣を両手で回すようにして、相手に向かっている。


 本物の両手剣なら、切れる刃の部分を掴むことになり、できないことだが。今は、木刀。どこを掴んで大丈夫なはずだが。いいのか? というか、確かに「いけない」というルールはない。


 コレ、薙刀じゃん。ルツ。どこで知った? だめだ、ジャム、やられる。ああああーーー。予想通りだった。


 ルツは木刀を投げつけた。反射的な動作で、ジャムがこれを弾き返して受けてしまう。これで、ジャムに一瞬の隙ができた。短刀、もちろん木刀だが、で突き刺す仕草をするルツ。あっけなく、勝負ありだった。


 本来、この薙刀の変則技は相手の短刀を奪って刺すのだが、二刀流が許されるわけで、これも、ルツの作戦勝ちだったのだろう。


 いずれも、敢えて実戦では使えない技を研究していたルツ。昨日の私と同じだ。「人はパンのみにて生きるにあらず」。エドムの言う通り、何としても優勝したいというルツの執念。それは、それで、称賛に値する。


 親衛隊がこの日一番の黄色い歓声を上げた。ナオミも立ち上がって拍手を送っている。女生徒の甲高い歓声に混じって、男子の野太い声が聞こえてくるのは、彼ならではだ。


 夕食は六人で今日の戦いを振り返った。


「いやぁ〜。ルツすごいなぁ。いきなり優勝とか」


 好敵手となったジャムが称える。


「いえいえ。剣術は私のメインクラスですよ。皆さんがサブクラスで、あそこまで、やれてることの方が全然すごいです。僕は、ひとまずこれで剣術にキリをつけて、次は、攻撃魔法を学ぼうと思うっす」


 相変わらず、見掛けと語り口のギャップがすごいが、こう続けた。


「それより、ミチコさん。体術、優勝おめでとうございます!」


「うーーん。試合に勝って勝負に負けた感あるからなぁ」


「それな! 去年の私がそうやったけど、優勝は優勝や。ま、ルナの頑張りが、一番、称賛に値するやろ。超ハンデ戦をやってるわけやから」


「我ながら頑張ったとは思うけど、少し魔法も使ってるから、そこまでハンデはないわよ」


「いえいえ。頭の勝利もありましたし。すごいですよ、ルナさんも」


「あら、エドム、今日は素直に褒めてくれるんだ」


「えええ〜 いつも素直ですよぉ」


「それはそうと、実技を変更ということは、来年のルツ君、攻撃魔法の部で出場するのかな?」


 ジャムがルツに話を向けた。


「そうですね。土属性魔法での攻撃は、あまり強力ではないようですが、挑戦してみようと思うっす」

 手の内を知り尽くした、私の弟子たちだから、トンデモなトリッキー技出さないと、勝てないってことかな。ルールを考え尽くして、相手の意表を突くって、それは、師匠譲りってことかっ!


 リアル斬り合いならまだいいのですが、剣道試合となると難しくて。ちょっと、奇を衒い過ぎだと思いますが……。


 九月から始めた連載も早三ヶ月。師走になっちゃいました。最終章(13部分)は外伝となりますが、それも含めて約半分。やっと折り返し点です。明日から始まる新章(5部分)で学園生活は終わり、8日からは冒険者編が始まります!

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[良い点] 95/95 ・なんというか、試合が上手い? 読んで普通に分かるし、すごいと思いました。 [気になる点] トリッキーなのは良いと思います。はい。 [一言] 試合に勝って勝負に負けた感、言え…
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