春の競技会再び
ということもあって、競技会当日。今回、私たちのパーティ、名付けてからあまりその名で呼んでいないが、ベルフラワーのメンバーと弟子一人はもちろん参加。
私、ミチコ、リベカは体術、エドム、ジャム、ルツは剣術参加となっている。一日目は、関係者が出場しないので、気楽にお弁当会。鯖サンドばかりは、少々不評なので、ハム、卵、薔薇のジャムのサンドイッチにした。そうよ。サンドしか作れませんけど。
私は、秋から体術を学んでいるのだが、基本は、自主トレ、基礎体力作りに近い。縄跳び、ウエイトリフティング、筋トレ、ランニング、に加えてボクシング系。サンドバックやパンチングボールは専用に作ってもらった。鏡は元々トレーニング場にあるので、シャドーボクシングもかなり練習した。このあたりは前世の知識が生きている。
ひ弱すぎて、折角の魔力が生かせない場面もある。熱中症のように命の危険すらある私だ。基礎体力向上はとても重要なテーマで、冒険者になっても、トレーニングは続けていかなければならないだろう。ちゃんと水分補給しながらね。
だけど。だけど。やっぱり。最後の競技会で優勝したい! 目的のためには、手段は選ばないんだから! 見ててごらんなさい。
体術は、総合格闘技といってしまえばそれまでだが、この世界ではレスリングの立ち技に加えてパンチと蹴りという具合だ。前回の大会でミチコが活躍できたように、柔術技など、この世界に馴染みのない武術を応用すると、かなり有利だといえる。
そもそも腕力がない、というか、皆無の私に組み合うような接近戦は難しいので、授業ではボクシング風の練習しかしていない。だが、リベカ、ミチコにも勝って優勝を狙うとすれば、それだけでは難しいだろう。
一瞬の隙をついての接近戦と投げ技は必須となるはずだ。そこで、ルツに手伝ってもらって、前世の武術を応用した秘密の特訓も行っている。彼は大喜びだが……。
私にとっては、男性と体を触れ合う練習になることから、彼が男の娘であるという点は、心理的にちょっと助かっている。彼には魔法の自己防御がある。さらに、女の子とは違い骨格も筋肉もしっかりしているので、遠慮なく技をかけられるというメリットは大きい。
さてさて。二日目。朝から体術の試合。今回は十四人参加で、ディフェンディングチャンピオンのリベカ、前回準優勝ミチコはシード。同じパーティはできるだけ分散する組み合わせとなっていることから、順調に勝ち上がれば準決勝でリベカ、決勝でミチコと対戦することになる。
私は例の体操服コスプレ。もう、オタ受けは諦めたが、それなりの意味がある。リベカ、ミチコは和服風スタイルだから、私は彼女らの襟を掴めるが、この装備に襟はない。
私はボクシングスタイルなので、手の保護用にグローブを着用する。ただ、故あって、オープンフィンガータイプを選択した。もちろん、今回は入念に防御魔法をかけてもらう。
まずは一回戦。長身の男性だ。体つきもがっしりしている。見た目は、ストロー級対クルーザー級くらいか。だが、私の体重はストロー級ボクサーの十分の一。加速技はもちろん使用禁止にしたが、さすがに、パンチやキックに少しだけ魔力での補助を行う点は承認してもらった。
私は赤い縁取りのある上履き。つま先で立って、距離を取る。こんな軽量級の私、捕まえたら勝ちという点は、相手も理解しているようだ。慎重にタックルのタイミングを伺っている。
軽くジャブを見舞いたいところだが、届かないので、牽制だけ。こちらも間合いを見て、懐に飛び込む以外ないだろう。
距離を取りつつ相手の周りを回る。蝶のように舞い、蜂のように……。勝負に出たのは相手からだった。一気にタックルにきた。だが、身長差がありすぎる。極端な前傾姿勢は不利と判断したのだろう、相手は私の肩のあたりをつかもうとした。
よし! 私はバックステップしつつスウェーでこれを躱す。ボクシングを知らない相手にとっては不意を突かれるような技だと思う。
相手はバランスを崩し、体が前に流れた。私の身長におあつらえ向きの位置に顎が。迷うことなくショートアッパーを見舞う。女の子の顔を殴るのは、魔法の保護があるとはいえ、少々気が引ける。
男性なので遠慮なく、渾身の力を込めた。アッパーはクロス気味に入っていて、その威力は絶大。大男は壁まで吹っ飛んだ。防御魔法がなければ即死だろう。
アレ、ここで、大声援? 来ない。会場は水を打ったような静けさだ。うん? あれ? ルツの声が聞こえてきた。
「師匠、すごいっす。でも、やり過ぎ。みんなビビってますよぉ〜」
二回戦。今度は女性。私より身長は高いが、先ほどまでの差はない。彼女は組まないスタイルのようで。殴りと蹴り、K-1もしくは空手のような戦術だ。
私はあくまでボクシングスタイル、蹴らないように見せている。基本、さっきのスウェー、それからダッキング、華麗に躱してはいるものの、狙いは別にある。
間合いを慎重にはかり、牽制しながら、相手の体重移動を予想。隙を窺う。よし、今だ! 私は、スッと体を横にして、彼女のサイドに回り手腕をつかむ。同時に太ももを後ろから蹴り上げた。決まった! 相手は見事に尻餅をつく。
実はコレ、故郷で護身術として習っていた技の応用だ。もっとも体力なさ過ぎな私は、すぐに体術系の鍛錬を見送り、剣術のみ教えられることになったのだが。柔術の足払いに近いが横に回って蹴り上げる感じ。サンボ技のバジェーシュカに近い。
装備的に襟を掴めない相手には好都合。ずっと足技を使わなかったので、相手の油断も誘えたということだ。うーーん。リベカ、ミチコも見てるしなぁ〜。出したくなかった技だが、相手が強過ぎた。ちょっとネタバレしてしまった感がある。
体術を学ぶといっても、どちらかと言えば、基礎体力向上トレーニングをしてきたわ。私に何が必要か? と考えれば、それだけでもいいのだけど……。だけど、折角だし、優勝したいの! 授業とは別に秘密の特訓もしていたの。
前にも書きましたが、相撲など例外はあるものの、格闘技にとって体重差のハンデはとてもて大きい。ましてや、体重5キロのルナですから。無意識に使う魔法は勘弁してやってください。
サンボはロシア、旧ソ連で生まれた格闘技です。もっとも、成立は20世紀になってからですけどね。完全一致じゃないパラレルワールドってことで。




