葉っぱのペンダント
さてさて。高価な買い物は終了。ちなみに、金貨何枚などと書いたけど、前世でよく観るアニメのように、袋にジャラジャラ金貨を詰めて持ち運んで、払ってる訳ではないわ。魔法のある世界でアレはないと思わない? 無用心極まりないじゃない。
前に書いたように、ある程度以上のお金は、キャッシュではなく小切手支払いってわけ。先を見越してベルフラワーとしての「法人口座」は開設済みで、ミッション報酬などをストックしている。エドムとジャムの武器は、この口座から支払うことにしたということだ。
最初は遠慮されたが、卒業後に居を構える際、各自から出資しようという、いわば出世払いで納得してもらった。彼らはああ見えて、失礼、大貴族の子弟。独立の際には、それなりの援助を受けられると思う。リベカの実家も裕福らしいし、実家からも出資してもらう前提だけど、卒業と同時にシェアハウスを買うくらいのことはできそうだ。
ついでながらの蛇足だけど、報酬に関しては、もちろん所得税がかかる。一般的には、冒険者のように報酬を貰うタイプは源泉徴収、農家や商家は、年貢というか年末に確定申告する形だ。パーティを「法人化」したからといって、経費で落ちる、控除枠が広がるなどといった特典はないけどね。
警察的な機能を含む兵士、冒険者など特定の職業以外、一般人の武装は、原則禁じられている。武器をぶらぶらさせて街を歩く訳にもいかない。例の縮小袋は、ちゃんと準備済み。エドムは、花・鳥、ジャムは、風・月、ルツがデュランダルを包んで背中に背負う。みんな、クリスマスプレゼントを貰った子供のように、目がキラキラ輝いている。
なんだろう、人の表情を見て、幸せな気持ちになれる自分がいる。小春日和の天気のせいばかりではない。私の心もずいぶんと温んで来ているようだ。
お昼を少し回ってしまったが、市街地の露天商でB級グルメを探した。あった! ココレチ。ケバブをスパイスで炒め、温めたバゲットをさらに鉄板で焼き目をつけていただく。香ばしい香りがして美味しそうだが、私は遠慮した。
私のわぁ〜。ミディエ・ドルマス。松の実、レーズン、玉ねぎを炒めを入れたご飯とムール貝! 海産物なら大丈夫。五つほど食べてしまった。別腹のジェラードを舐めながら、さらに王都をぶらぶらする。
と、あ! あのアクセサリーの露天。一度っきりだったが、店主は上客だった私たちを覚えていたようだ。
「お、お嬢様方、また何か買っていってくださいな!」
ああ、そうだ。みんなには、あげたけど。
「この、ハート型のもらえるかしら、それから、文字を書くペンを貸してくださいな」
私は例によって身代わりの魔法を込めたペンダントを作った。
「ルツ、これ、今日の記念にあげるわ」
「えっ、師匠、いんですか?」
「うん。みんなには形は違うけど、同じ物プレゼントしてるから。貴方の分。身代わりのお守りよ」
「う、嬉いっす。一生の宝物にします」
「大袈裟ね」
「師匠のその葉っぱのも身代わりのですか?」
「いいえ。身代わりの呪文は、自分自身には有効ではないの。それに、呪文を書けるのは、闇属性魔法を持つ者だけ。これは、ただの飾りのペンダント」
「そうっすか。でも記念品っすよね」
「うん。一昨年、ミチコとリベカで王都に来た時のね」
と言って、私はペンダントの裏を見せた。
「ああ、確かにイニシャルが。ああ、そうだ。お礼にもならない些細なことですが、僕たちに、イニシャルを加筆さてもらえませんか? 今日の記念に」
「いいこと言うね。ルツ、僕たちも書きたいな」とエドムとジャム。
「ありがとう。さりげない気遣い嬉しいわ。おじさん、もう一回、ペンを貸してもらえるかしら」
「はい、喜んで!」
ということで、エドム、ジャム、ルツが私のペンダントにイニシャルを追加してくれた。M & R の下にE & J & Rと。次第に仲間が増えるって心が沸き立つ気がする。魔法としての意味はないが、この葉っぱの何気ないペンダントは、さらに嬉しい記念品となったように思う。
各自、ウインドウショッピングを楽しみながら、どうでもいい雑談。ミチコに合理主義者と言われたけれど、意味のない会話の楽しさは、ちゃんと理解できる。
今日は晴れた冬の日。平穏な日常。こんなに沢山の仲間と、こんな日々を過ごせるなんて夢にも思わなかった。今、私は幸せだ。また、目頭が熱くなってきたが、なんとか堪えることができた。そうだ。あのゼンの修行が少しは役にたっているのだろうか。
ね。おかしいと思わない? 魔法があるのよ。帳簿だって遠隔で共有できてしかるべきじゃない? ここは中世はなくて中世風世界。それなりに、文明が進んでいるのに、銀行のない経済構造って変だと思う。税金もあって然るべきよね。だけど、この世界は優しい世界。悪代官の取り立てとかは、存在しないわ。もちろん、自警団も不要よ!
冒頭でネタバレさせていますが、千年の時を生きなければならないルナ。学園〜冒険者の日々は彼女にとって貴重な、貴重な時間だったようです。
ああ、それから、ちょっとだけイスタンブール名物書いておきました!




