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家族のこと

 この世界の封建的な空気は、今回についてはプラスに働いた。家長である父の言に母も弟も不満を述べられるとしても、逆らうことはできない。とんとん拍子に話が進んだ、


 三年後の秋になれば、私は十五歳、飛び級ということになるが、魔法学園の入学を許可された。もちろん、私に入学試験が科されることはない。それなりの権力を持つ父の推薦状があればフリーパスで入学できる。


 当然だが、父が母を説得したといっても、彼女が完全に納得したわけでもない。父のいない時を見計らって何度も自室に呼ばれてはいる。


「お父様は、ああ仰いますが、私は心から許したわけではありません。大切な娘が冒険者などという下賤な……」


「お母様、少々、お言葉が過ぎます。冒険者は決して下賤な職業などではありません。この国の平和も繁栄も、彼らあればこそなのです」


「そういう意味で言ったのではありません。あのような危険な仕事を愛する娘にはさせられません」


 何かといえば、大切だの、愛しているだのの言葉を並べたてる母ではあるが、決して、私の目を見て話をすることはない。そう考えるのは、私の僻み根性なのだろうと理解もしてはいるのだが、こういう言い方をされると、どうしても反発してしまう。


「確かに危険かもしれません。命の危機すらあるでしょう。ですが、全ての人は死の運命から逃れられません。何年生きるかではなく、どう生きるか? だと愚考いたします。正直、私にとっては、顔も知らぬ殿方に嫁ぐなど、受け入れられぬことです」


「貴女はまだ若い。女の幸せを知らぬということでしょう?」


「仮に嫁ぐことが私の幸せだとして、私を(めと)る殿方がいらっしゃいましょうか? お母様は、私の現実から目を背けていらっしゃる。承知しております。私は普通の幸せなぞ望めぬ者として生まれて来たことを」


 かなり、言い過ぎだった気もするが、さすがに母は黙ってしまった。


 弟についても、微妙な空気は漂う。それは、幼いころのある事件を共有しているという点もあるのだろう。私が七歳くらいだっただろうか、ならば弟は四歳。このころは、近隣の貴族の子弟とも交流があり、近くの森で遊んだりしていた。さすがに、これくらい幼いと私の容姿も特に問題にはならなかったようだ。


 相手の男の子は特に悪意があったわけではないと思う。むしろ私に好意を寄せてくれていたのだろう。ちょっとした悪戯。彼は遊び道具のパチンコで、私の背中にドングリをぶつけようとした。ただそれだけだ。気になる女の子へちょっかいを出す、幼い行動と言ってよい。ちゃんと、怪我をせぬよう背中を狙っていたのだ。


 ところが。私を狙ったドングリは背中の直前で急に跳ね返され、射主の目を直撃した。幸い失明は免れたものの、彼は悪戯の代償としては重すぎる怪我を負うことになった。


 このシーンを弟も含めて、皆が見ていた。もう、分かるでしょ? それ以来、私は友達を失った。弟も巻き添えを食ってしまい、近所の同世代との付き合いは、ほぼ、なくなってしまったようだ。


 原因は、どうやら、ディアボロスのいらぬお節介だったらしい。魔法が発現する前の私は、全くの無防備だ。彼の計画を成就するという点で、私が不慮の事故に会ってしまわぬよう「加護」を施していたらしい。その証拠に、魔法発現後、フェイスガードを付けたマリアに手伝ってもらい「実験」をしたが、このような現象は起こらなかった。


「姉さん。本当にごめんなさい、としか言えない。本音を言っていいかな?」


「ええ。大丈夫よ。私がこんなだから、貴方にも寂しい想いをさせてしまったと感じているのよ」


「魔法学園に入学すると聞いて、実は、少しホッとした自分がいる。だけど、そういう自分が許せない気がして。お姉さんは何も悪くないのだから」


「いいのよ。運命を呪っても何もいいことはない。貴方は、貴方の距離感で私に接してくれて問題ないから。むしろ、変な気を遣って自分を責めるのはやめて」


「うん。もうこの話は、これくらいにしよう。少なくとも僕は、姉さんに本音を言うことができるのだから」


「ええ。それでいいのよ」


 複数の「家族」というものを体験する人はあまりいないだろう。比較検討するのはとても難しい。だけどね。本当はね。そうだと思うの。


 父も母も弟もちゃんと私に愛情を注いでくれているのは、十分に理解している。そして、価値観というものは、家族であったとしても人それぞれであることも。


 このころの私は、前世の記憶や宇宙崩壊といった、自らも受け入れがたい真実に動揺していた面もあるのだろう。いや、それは言い訳だ。容姿から来るコンプレックスに甘え、斜に構えていたのだと思う。これからも、私の人間不信は続いていく。そう、あの出会いまでは。


 上述のような触れ合いを含め、日々のことはいろいろあったものの、三年の時は瞬く間に過ぎ、私は十五歳。魔法学園への入学準備を始める歳になっていた。

 あんまり書かなかったけど、分かったでしょ? でも、二人とも悪い人じゃないのよ。ちょっとお母様には言い過ぎたわ。


 中世風ですから、お母さんの方は旧来の夫唱婦随タイプの人です。でも、これは価値観の相違だと思います。弟はすごいフランクでいいヤツなんです。姉のとばっちりで、自分も友達をなくしたりしているのだけれど、それが姉の責任じゃないこともちゃんと理解している。


 ・・・中の人的には、こういう心の動きみたいなのを、じっくり描いてみたいなぁ〜と思っています。なので、ストーリー展開がゆっくりです。でも、三年間はこれくらいにして、次は少し進みます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 9/9 ・悪魔はやっぱり悪魔。契約に無いから仕方ないね [気になる点] ママん…分かる。自分のママもどこか現実を見ていませんもの。 [一言] 人間失格すげえ。出だしだけで引きずり込まれま…
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