私のシコウ
ルツの依頼はこういうことだ。
変身用装備やメインウエポンは、一種の制服扱いで入学前に揃えることが通例だが、防具屋、武器屋の品揃えが不十分な地方からの学生は、入学後とするケースもままある。
実習時に装備があるに越したことはないが、高価なものだし急ぐ必要はない。入学後まで待ったのだから、しばらく適性を見てからとする方がよいだろう。私は夕食を終えてから、ルツの装備のデザインを描いてみることにした。
「ねえ。ねえ。ルナ、前世の知識でしょ? どんなの、どんなの?」
ああ、「可愛いの」と言った瞬間に閃いていた。当然、白のセーラーワンピ。
襟は水色で白の三本線。長袖にしてカフスも同色で三本線。セーラーってカフス側にタックをとった袖がキュートだと思う。ウエストは少し高めにして、ボックスプリーツをとったスカート、裾にも水色の二本線を。で、アクセントに燕児のリボン風タイ。
私は絵が下手なので、ラフを描いて、ミチコに彩色と仕上げをお願いした。よし! スタイル画出来上がりだ!
「なんか、男の娘ってよいよね。ちょっと、貴腐人様の気持ちが分かって来たかも」
「そうでしょ。そうでしょ」
「でも、ミチコ、彼は一応、諦めないなんて言ってわけだし、気にしなさ過ぎな気がする」
「心配?」
「ちょっと違うかな。なんだか、ライバルになり得ないという強い確信があるような。そこが見えない」
「その通り。相手にならないと思ってるからだけど。そうか! 超合理主義者のルナには理解し難いか?」
「え? こんな、速攻、心が揺れる人が合理主義者?」
「貴女を見ていると、頭の中で、理性と心は全く独立した、別機能だというのがよくわかる。理性の面だけ、物事を理解するロジックだけを考えれば、貴女は超がつく合理主義者よ。だから本当の彼を理解できない」
「というと?」
「彼は、貴女を決して我がものとできないとちゃんと分かっている。それを承知で傾いているってこと。それは、ルナにとっては非合理極まりない行為に思えるはず」
「まぁ、それは、神羅万象全ての物は確率論的存在だと思っているけど。それは、合理主義というより、懐疑論的なもので、人は感情の動物である以上、非合理的判断もすることは理解できてるけど」
「彼がそのうち、多分、他に好きな女の子ができてコロッとそっちへ行くとしても?」
「うは! それは。うーーん。私が合理主義というより、恋愛経験値不足の要因が大きく」
「そうかも。哲学のお話は、もうこれくらいにしましょ。でも、彼のこと、ルナもそう気にすることはない。いいお友達になれると思うわよ」
うん? さっきから小難しいお話をしているのに、なんだかミチコの視線がヤバイ。「気にしない」というのは事実だろうけど、どこか、嫉妬心があるのかな?
「そうなるといいなぁ。って、なんか、今日のミチコ、ちょっと怖い。獲物を狙う猛禽類みたいな目をしてる」
「そうよ。貴女を食べたいの」
「鷹さん、鷹さん、貴女のその鋭い嘴で、私のお腹に穴を開け、内臓を引きずり出してちょうだいな」
「もちろん。そうするわ。決してすぐに殺しはしない。貴女が痛みにのたうち回る様をじっくり眺め、血をすすり、臓物を堪能させてもらうのだから」
「嬉しいわ。抱いて、じゃなかった、バラバラにして!」
合理主義なのは、私の強すぎる力、と、与えられた使命によるものなのだろう。私の使命。それは、あまりに大きすぎ、人知を超えている。「なるようになる」と考えるしかないのも分かっている。
だが、私のちょっとしたミスで、この世界、いや、この宇宙の全ての生命が消える可能性があるらしいのだ。プレッシャーを感じないと言ったら嘘になる。
前世も、今も、自慢じゃないけど、責任感だけは強い人間だと思っているわ。抱え込んでしまう性格と言えばそうだろう。
だから、自らの弱さをさらけ出せる相手には依存する。ミチコ。彼女と二人の時、そう、Hの時は、どうしても「なされるがまま」となることを強く求めてしまう。
ま、ド変態の君の好みに合わせた表現をすれば、ドMってことね。でも、言っておくけど、縛ったり、蝋燭垂らしたりしないわよ。私たち。あくまで精神的なSMだと思うわ。
そのSMの定義は、サービスのS、身勝手のMということになるのだろう。こと、Hについて、彼女、こんなんでいいのかな? 満たされている? と気になってしまう。だけど、破れ鍋に綴じ蓋。どうやら、ミチコは、私を「支配している」と感じると、脳内のドーパミンが溢れ出してくるらしい。
もう一回、断っておくけど、これは「Hについて」という限定的な意味だからね。彼女との人間関係は、また、別の脈絡を持っているわ。くれぐれも、誤解しないでよね!!
前世の記憶だけど、心の病のお薬があるという事実は、人がモノだって思わせる。だけど、人の脳の機能はそう単純じゃない。学習、記憶、判断、認識、という機能と、自我、心、魂は別物。もしかしたら、後者は、脳だけの機能じゃないかもしれない?
すいません。ちょっと難しい回だったかなぁ〜。コレ、中の人の発想元は、今のAI=ディープラーニングが実現しようとしていること。自動運転に何が必要か? って考えるとルナが言う前者でしょ? 魂の具現化が、できたとしても、これで、どうやってお金儲けするの? になりませんか? そのあたり誤解されてる設定、時々、見るし……。




