ペリノの遺跡
ペリノ遺跡は王都から、船で五日、陸路二日ほどの行程の先にある。行程をおなじみの前世風に言うと、イスタンブールから地中海を東に進み、ベイルートあたりから陸に上がる。エルサレム近辺で一泊して、死海を眺めつつヨルダンに入るという感じだ。
もちろん、この世界では民族対立があるわけでもなく、紛争地域を抜ける危険はない。
冬のこのくらいの気温は、人族にとってはやや寒いかもしれないが、暑さに弱い私としては、とても快適な船旅だった。念のため日傘に入りつつ、デッキで海を眺めるのはとても気持ちがいい。
マグロを見つけることはできなかったが、海面下に魚が見えたら、例の技で「釣って」、料理してもらっていた。
「いい天気ねぇ」
「ええ」
二人とも天気の話題が出る。このあたりは、もともと降雨量は少ないが冬季には多少雨も降る。でも、今日はとてもよく晴れていた。天気が話題のメインになるということは、しばしの思考停止で頭を休め、のんびりとしている証拠だろう。よいことだと思う。
平穏な船旅が続き、船は港に入った。龍王がどう手回ししたのかは知らないが、二頭立ての馬車が、私たちを出迎えてくれている。馬車は夕刻に中継地点であるベルヘムトに到着した。
この世界でのこの地域は、特に聖地というわけもなく、冒険者ギルドの支部があるわけでもない。石造りの家が立ち並ぶ、小規模な商都といったところだ。
到着が夜となってしまったので、近隣の家、これも手配が済んでいたようで、民泊の宿に泊めてもらうことになった。このあたりのデファクトだろう。白い石造りの大きな農家だ。
夕食は、名物のひよこ豆のペーストとパン。魚菜中心の私には嬉しいメニューだった。夏場なら水着持参で死海に浮いてみるのも悪くないか? ああ、私の肌が大量のミネラルに浸かってどうなるのかは、少々怖い気もするが。いずれにしても、今は、冬。スルーして遺跡に向かうことにしていた。
「あっ、そうか。ルナ、羊肉はダメだったわね」
「ああ、気にしないで。書物によると、エルフって、基本、菜食主義者らしいの。お魚を食べるエルフはとても珍しい。だから、豆とお野菜だけでも健康上の問題はないはず」
「あら。別の分野では、結構、肉食系だったりしない?」
もぅ。ミチコったら。二人っきりだと思ってセクハラまがいの発言。でも。何だかこの感じ。幸せということなのだろうか?
「私は赤ずきんちゃん。ミチコ狼さんのお腹に収まる存在よ。肉食じゃなくて、お肉そのものだわ」
すぐ真っ赤になるのは避けられないが、言い返せた。
翌朝早く、私たちは宿を出発し、お昼前には遺跡に到着した。赤い岩山を掘り抜いて作られら遺跡は、かなり風化もしており、年代を感じさせる。このあたりは、放牧酪農をしている農家があるくらいで、あまり人が住んでいない。
それには理由がある。何度か大きな地震に見舞われており、その被害は相当なものだったらしい。だが、太古の昔に建てられた遺跡には、目立った亀裂もない。古めかしい造りは偽装かもしれない。どこか、超文明のテクノロジーを感じさせられる建物だ。
早々、私たちは中に入った。この遺跡は、龍王によると何かの研究施設だったようだ。盗掘を防ぎ、未来に資産を残すためのセキュリティーは、あるらしいが、ラビリンスではない。奥まで、ほぼ一本道だ。レンガのような石を敷いた床。アーチ状に岩山をくり抜いた壁。よくある古代遺跡と何ら変わりはない。やはり、これは、超文明の遺産を悟らせないための、カムフラージュだろうか。
盗賊団が一時占拠していた情報はもらっていたし、もちろん注意はしていた。ホントよ! 仲間を危険に晒したくない、発言もしていたわけで。だけど、ミチコと二人、ウキウキしないハズがないじゃない? なんていうか、どこか、ピクニック気分になっていたのだろう。
先頭は私。盗賊が残したのか、元々設置されていたのか、魔法の灯りは、切れているものも多く、少し奥に入ると通路は暗い。魔法の懐中電灯を照らしながら進む。
「アレ? なにこれ? なんか踏んだ」
「えええええ!!!!」
もう絵に書いたような古典的なトラップだった。見事に床が抜ける。あああああああ!!!!
十メートルほどの地下には槍衾が見えた。え、まずい! シャレにならない。と、思ったが、驚いた時、勝手に加速の技を使ってしまう私の「アビリティ」が功を奏した。地下まで深いのも助かる。
余裕で状況を確かめた後、私は、加速を解くと同時に躊躇なく穴の底、槍衾にグラウスを使う。槍衾はごっそり消し飛び、床にクレーター状の大きな窪みが穿たれた。ミチコがティターニアを振る音が聞こえる。
私は浮き上がり、ミチコは物理防御障壁をクッションにして、無事着地した。
仲間のことを心配したことに嘘わないわ! ホントよ。だけど、こんな失態、ちょっと言い訳できないかも;;
エルサレム、ペトラ遺跡、中の人が行ってみたいところの一、二かもしれません。昔、外務省の渡航情報で黄色なのに行こうとして、旅行業者に全力で止められました。まぁ、自分がどうかなるのは、気にしないですけど、誘拐とかありますしね。
ペトラ遺跡を初めて知ったのは映画「インディ・ジョーンズ」です。なので次回は……。




