剣術の講師
翌日から新学期が始まった。私は学園長に申し出て、週一回、体術を学ぶことの了解を得ていた。学園長は、ひ弱過ぎる私を気遣い難色を示していたが、組み合う技は避け、距離をとるということで納得させた。要は、柔道、レスリング技はできるだけ控え、ボクシング、空手を中心に学ぶということだ。
同じく週一回で、臨時講師も勤めることになった。例のルツ君、なんとエドム、ジャムの二人も私の「弟子」になってくれた。だが、私の剣は、無意識に使う魔法と一体となった変幻の剣。オーソドックスではない。果たして、彼らの参考になるのだろうか?
ルツは両手剣使いだった。身長とあまり変わらぬ長剣を扱う。細身に見えるが、そこは男の子。かなりの膂力の持ち主だ。さらに彼は土属性の防御魔法を持っている。両手剣の攻撃力と魔法の防御、将来を嘱望された優秀な剣士のようだ。
エドムとジャムはメインジョブの魔法を補完する位置づけの剣術だが、やはり二人で一体となった技を研究することにした。ジャンの技からの連想で二刀流にして、二人で、四振りの刀を操る。私のトリッキーな動きを上手く加えれば、魔法が使えない時の補助に収まらない、かなりの使い手になれそうだった。
「ありがとうざいました!」
「いいから。いいから。そういうのやめてよね。でも、すごいわ。三人とも。私は、魔法の補助があってこその剣。それがないみんなが、ここまでやれるなんて。私が卒業するまでには余裕で免許皆伝かな」
「ルナ流師範っすか?」
「バカ。そんなのないわよ」
この、ルツという男の子。といっても、私より年上のはずだが。国民性ということなのだろうか。人との距離の詰め方が独特だ。オブラートに包んだ言い方はやめよう。馴れ馴れしい。
前世のアメリカを経験した人なら知っているだろう。なぜか街で、見知らぬ人から「Hi !」などと挨拶される。銃を所持するのが合法である国。逆に「私は安全です」アピールでは? という説もあるが。というか、謙譲の美徳などというのは日本独特の文化。むしろ、こちらが普通と考えるのが正しいのかもしれない。
「今夜、みんなで夕食食べるけど、ルツ君もどう?」
「いやぁ〜。ご一緒したいのは山々なんすけど。あれが……」
彼はいつの間にか集まっている女子親衛隊を指さした。うわぁ、十人近くいる。なんだか、私への視線が険しい気がするんだけど。
「ああ。なるほど。ま、ほどほどにね。それと、一言言っておいてくれるかしら。私には心に決めた人がいるので、ご心配ご無用と」
「分かりました。ルナさんにご迷惑はおかけしませんから。僕自身も、成り行き上、こうなってるだけで、あんまり嬉しくないのです。その内、ケジメつけますから」
「無理しなくていいわ。モテるのはそれはそれでいいことじゃない。妙にこじらせて、ヤンデレ女に後ろから刺されることだけ気をつけてれば」
「ひどいなぁ〜 ルナさん。そんなことしませんから」
そんなこともあって、相変わらず五人で一緒に行動することが多かった。休日には街にでかけたり、ショッピングしたり、ミチコと森の秘密の場所でデートしたり。ああ、そこの君。言っとくけど。外ではキス以上のことは、してないからね。まぁ、部屋ではそれなりの頻度でHしてるけど。
一般の人の標準すれば少ない人数なのかもしれない。でも、心許せる仲間がいての学園生活はとても楽しい。私にとっては、予想もしなかったことだけど、学生生活って、上手くいけば、こんにも楽しいものだったんだ!
そう。もし今、あなたが学生なら言っておく。学生であること、その時間は百年の人生において、得難い貴重な時間なの。大切にしなさいよ! その一分、一秒を。
だけど、逆も言えるわね。そんな宝石の日々を、いじめで潰される辛さは筆舌に尽くし難いと思う。そう考えると、私は、とてつもない幸せ者だったのかもしれないわ。
千年後の今でも、このころのことは鮮明に覚えている。それほどに輝いていた。今の私を生かしてくれている、大切な珠玉の思い出。
ルツは、その外見からも、女の子にもてて当然かもしれない。迷惑に思うって? なんで? ああ、それは、私が鈍いってことだったのか。後日、彼はある「処置」を講じるのだけど、むしろ逆効果というか。
今回は、分量の関係で説明捕捉回となりました。次回、新しいイベントへ。で、ルツ君のお話は、その後。