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未来の選択

 家に帰り厨房にヤマメを届けた後、私は私室にマリアを呼んだ。いいタイミングだと思う。私は前世の記憶を含め、彼女には全てを話した。


(にわか)には信じがたいお話ではありますが、幼いころからお世話させていただいているお嬢様の(げん)。本当のことなのでしょう。ですが。私のような無学な者でも、御伽噺を鵜呑みするほど愚かではありません。お嬢様は御使(みつかい)かもしれませんが、世に破滅をもたらす悪魔に抗する者ではないでしょうか? お嬢様の心根を知る私からはそうとしか思えません」


マリアは続けた。


「ですので、魔法学園に入学し、冒険者の道を歩まれるというお言葉。高貴な貴族が冒険者などとは申しません。よい選択。もしかしたら、世界を救う選択やもしれません。私は、お嬢様と離れ、寂しい思いをいたしますが、それは致し方ないこと。一流の冒険者になられましたら、どうか、私を側仕えとしてお呼びください」


さらに。


「それと、お嬢様の『消す』魔法ですが、旦那様にお話になる際には、『モルス』だと嘘をおつきになってはいかがでしょう? 魔族が使う死の魔法です。闇属性の禍々しい魔法ですから、他言無用との整合性もあります。真実を告げてしまうと、宇宙崩壊まで説明しなければ、博識な旦那様を納得させるのは難しいと思います。旦那様さえも、お嬢様に怖れの感情を抱いていらっしゃいます。前世のお話含め、今、全てを明らかにするのは、得策とは思えません」


 無学などと謙遜しているが、マリアの勉強量は大したものだ。父の蔵書をほぼ全て読破するくらいに。彼女はメイドであると同時に私の有能な家庭教師でもある。モルスについてはその通りだ。宇宙崩壊から前世の話は、この世界の「常識」を逸脱している。嘘をついてでも、私に纏わる真実は慎重に情報統制すべきだろう。


 なにより、強すぎる力は人の怖れを生み、一つ間違えば己が破滅の元となるだろうから。もちろん、父が私を殺そうと画策することはないだろうが、今以上に大きな恐怖を私に抱いてしまえば、ギリギリ繋がっている親子の絆を断ち切る可能性もあるだろう。


 父は学者で物事を客観的に判断できる人物だ。辺境伯としての地位も彼の理性的な考え方を後押ししているのだと思う。であるが故に、モルスまでならば、彼の想像の範囲に(とど)まるのではないか? 母と弟は魔法発露事件後の態度を見ると、諦めざるを得ない。何とか父だけでも「親族」に留まってほしい。


と考えていたのだが、私から言い出さなくとも、父は高い洞察力を持っていた。ヤマメのムニエルで夕食を済ませた後、私は父の寝室に呼ばれた。


「ルナ。私に何か隠し事があるのではないかな? お前の魔法が発現した後の、アンナやデビッドの様子を見ていると、秘密にしたい気持ちは分かる。だが、妻や息子がどんな態度で君に接しようと、私は違う。何を聞こうと君への愛情が揺らぐことなどない。これだけは信じてくれ。不思議なのだよ。君は魚を釣ってきたと言った。だが、幼い頃、私と釣りに出かけて、餌を手で持てたことすら、なかったじゃないか? あんなに沢山の魚、どうしたんだい?」


「ごめんなさい。隠したいという躊躇いは、お父様、仰る通りです。私は魔法の練習のため魚を捕ったのです。その魔法は……。モルス」


「なるほど! そういうことか。喋り辛いのは無理もない。これは、私とお前だけの秘密にしておこう」


 マリアの忠告通り、父はうまく理解してくれたようだ。そして、続けた。


「魔法学園に行って、冒険者を目指すそうだな。これで納得がいった。アンナは猛反対のようだが、なんとか説得しよう。お前の魔法は強大すぎる。一人で一軍にも匹敵する力ということなのだろう。魔法学園でみっちり制御を学ぶべきだろうし、強すぎる魔法使いが王宮お抱えになれば、いいように人殺しに使われてしまう。私はお前を『殺し屋』にするために育てたわけではないからな。冒険者という選択肢は、お前の命をも守るだろう。分かった。全て、私に任せなさい」


 嘘をついてしまったことに気は咎めるが、いい具合に父を納得させられたようだ。論理的な理屈が通れば、彼は公明正大な人物であるには違いはない。この世界の一般人の常識というフィルターを考慮すると、この嘘は都合がいいのかもしれない。前世の文明や宇宙崩壊といった真実の方が、「荒唐無稽」ということだ。

 えっ? 「人間不信?」「考え過ぎ?」。そ、そんなことないわよ。多分、多分だけど。友達いないって言ったわよね。だから、人を知らないってこともあるかも……。もう、うるさい、うるさい、うるさい!


 もしかして、前世や宇宙崩壊まで言ってしまっても、お父さんは信じてくれたのかもしれませんね。ということがありつつも、何とか説得に成功したという具合です。ルナは、ちょっと頭でっかちなところもあり、結果、「親の心子知らず」になってたりします。


 ということで、ムダ話をひとつ。私小説部分で、中の人に「ごめんなさい」をした女性。実在の人物がモデルです。今でも月一でLineするくらいの、いいお友達なんですよね。で、うっかり、この小説のURLを送ってしまった。慌てて「この小説はフィクションであり、登場する人物・団体等は、実在のものとは関係ありません」とフォローしたんですが。読むと分かると思う;;

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― 新着の感想 ―
[良い点] 8/8 ・親の心、子知らず。なるほど。正直に話しても意外と受け入れてもらえたかもしれませんね。 [気になる点] まさかのリアルモデル! 自分は適当に書くだけでした。 [一言] メイドさん…
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