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シュウマツの窓辺に白百合を〜異世界に「あたし最強!」で転生したのだけど、前世のヨメがいた  作者: 里井雪
禅の修行

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ナプリの豪邸

 港から馬車で三十分ほど。案内されたジャンの家は。うわわぁぁ、驚いた。純和風。白壁の裾は瓦を配したなまこ壁。木製の立派な正門ももちろん瓦葺き。付近のイタリアンな建物と全くマッチしていない。ここだけ異空間のように浮いている。


 さすがに、赤白のストライプではないものの、前世でかつてあった「ま●とちゃんハウス騒動」みたいに、周りから景観を無視した奇怪な建物と見做されないのだろうか? ま、余計な心配かな。


 母屋に続く石畳の右手は松に灯籠を配した池泉回遊式庭園。残念ながら、中世風時代なので錦鯉はいない。左手は、すっごいなぁ〜。枯山水の庭。ゆっくり眺められるように縁側がしつらえてある。もっとも、枯山水はレーキなどを使わずとも、魔法で簡単に作れてしまうようだが。


 それぞれ、三部屋に別れて客間に通された。私とミチコ用には和室。建物の外見は和風だが、ちゃんと洋室もある。リベカとエドム、ジャム用にはベッド付きの洋室が割り振られた。リビングも洋風のようだ。荷物を片付けて、リビングに行ってみると、メイドがコーヒーを入れてくれていた。


「こちらのコーヒーはかなり苦いです。ルナさんは大丈夫なのかな。砂糖とミルクを使っても飲みにくいようなら紅茶を準備させますので、お申し付けください」


「ジャンさん。相当のフヨウ通なのですね。余り物で恐縮なのですが、こちら、いかがですか?」


 ミチコがソイソースの一升瓶を出してきた。船で使ってしまったが、まだ、七分目ほどは残っている。


「おおお。ソイソースですね! こちらではなかなか手に入らないのです。いただきます。早速、今夜は、お刺身にしましょう。ご期待ください!」


と言って、ジャンはメイドに指示を出していた。

 

「ジャンさん。あの船といい、このお屋敷といい、いくら有能な冒険者というても……」


 さすが、リベカ、聞きにくいことをズバリ聞く。


「ああ。勘当の身と言いましたものね。実は私、冒険者をやりつつ、貿易商も営んでおりまして。ナプリにおりますのも、海運をやるのに立地がよいという理由もあります」


「香辛料、コショウですか?」


「うは。それ、前世の知識ですか? さすがルナさん。その通りです。メインはコショウですが、東方の国の他の香辛料も扱いますよ」


 魔法、土魔法による土木技術は中世の技術力を大きく凌駕している。この時代、既にスエズ運河は存在していた。ジャンは東方の国の一部、前世のインドあたりから、コショウなどを輸入しユーロ連邦各地に売り捌いているのだろう。世界各地を放浪したであろう彼の見識がなせる技。彼は商才にも長けた人物なのかもしれない。


 夕食前にお風呂をいただくことにした。広いようだが、さすがに一つしか風呂場はないようで、先に、男性諸氏が使った後、女三人の番となった。


 一つしかないとはいえ、旅館のような広い脱衣所があり、湯船は三人並んでも余裕の広さ。香りからして檜のようだ。材料手配の関係で、何から何まで和風というわけにもいかないのだろう。床や壁はタイル張りになっていた。ライオンの口から温泉の湯が出ているのはご愛敬だ。


 上がってみるとメイドが準備してくれたのだろう。乱れ籠には浴衣が入っていた。


「これ、どうやって着るんや?」


「競技会で使った上着と同じ要領よ。帯の結び方は、こうして、こうして」


とミチコがリベカに解説している。


「なんや、スースーして頼りないけど涼しいな」


「ルナ。帯が男結びよ」


「ああ。ははは」


「蝶々結びの要領で」


 この世界、和服というものは、存在するけど、位置づけとしては「現代」と同じかな。普段は着ないけど、時々利用するみたいな。え? 「現代と同じ」だけでは分からない? うん? 聞きたいの? バカ! もちろん、下着を着けてから着てるわよ!


 髪は魔法が乾かしてくれる。部屋に衣類を戻して、食堂に行くことにした。すでに、三人は食卓についていて、ジャンはエールを飲み始めていた。


「みなさん。アペリティーボなぞいかがですか? 白ワインに蜂蜜を混ぜたものをご用意しています。甘くて美味しいですよ」


 私は遠慮した。ブランデー事件もあるし、そもそもエルフにアルコール分解酵素があるか否かも不安だ。いずれにしても、まだ未成年もいいところだから。残りの四人は、もう二十歳くらいだからいいんじゃないかな? ご相伴にあづかっていた。


 夕食をメイドが運んできた。イワシとタコのお刺身。イワシはよほど新鮮でないとお刺身は難しいが、海に近いこのあたり、とれたてを調理したのだろう。持ち込んだ醤油になんと山葵が添えられていた。お刺身が苦手な三人用にはカルパッチョの皿も準備されている。メインデッシュは魚介類のパエリア。なかなかのものだ。

 魔法の影響かしら、こちらの食べ物は、かなり進んでいると思うの。前世のイタリアンレストランを思い出したわ。


 胡椒は大航海時代以前は、金にも匹敵する価値があったらしいの。それは、冷凍などがない、当時の貯蔵技術によるところも大きい。魔法があるこの世界では、金とまではいかないけれど、独占販売をしているらしいジャンの貿易会社は、儲かっていることには違いないわ。


 「まことちゃんハウス騒動」って知ってます? 十年以上前のお話ですが、漫画家の楳図かずおさんの自宅が、あまり奇抜過ぎて「景観破壊だ」として訴訟が起きたという。イタリア風の瀟洒な家が立ち並ぶところに、和風建てたら、現地の人にはどう映るのかなぁ? この世界では日本の文化を知らない人が大多数ですし。


 ちなみに、レーキは枯山水を作る、熊手みたいな道具です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 75/75 >さすが、リベカ、聞きにくいことをズバリ聞く。  つまりルナさん、言葉がスラっと出ないと…? [気になる点] ・景観破壊ですか。辺境にひっそり建てるなら良いんでしょうけど …
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